夏の終わりの西尾旅
長い長い、長すぎる夏休みが終わった!万歳!
7月20日から8月いっぱいのそれ、カレンダーでほとんど2枚分に見える月日を思うと、目の眩むような心地がした。
7月はまぁよかった、帰省だの夫の連休だの、家族で楽しく非日常を味わった。問題は8月である。
序盤にはじけ過ぎたせいで失速状態、我が家のお財布の中は寒々しいのに、この国は暑い、暑すぎる。何をするにも危険を感じる気温、企業戦士の夫とはほぼ顔を合わせず、「いつメン」女3人(年少・1歳半・32歳)の日々。必死だった。休みも後半になるとさすがに長女は、早く幼稚園に行きたいとごねるようになった。母も全くの同感である。
しかしながら有難い事に、8月最終週は園の夏季保育が始まる。この日を待っていた!半日保育だが、ちゃんとバスに乗って昼前のおやつまで食べて帰ってくる。つまり、この日が来れば夏休みも終わり!というのがわたしの認識。
子ども等の体調に留意しつつ、遂に明日から夏季保育。夏休みも今日が最後よ!
遅めの朝食を摂りながら、長女にそれを伝えると
「明日から、幼稚園?!やったーー!」
彼女は本当に万歳した。子どもに「幼稚園に行きたい」と思わせてくださる園の先生方には、頭が上がらない。
「明日から【長女】ちゃんは幼稚園だからね、【次女】ちゃんはお母さんと一緒に、おうちにいてね、ね、大丈夫だからねっ」
とうとうと語ってきかせる姉を、卵焼きを頬張る妹は目を丸くして見つめていた。
夏休み最後の日は、西尾市に遊びに行くと決めていた。夏のギフトとして身内へ贈る、シャインマスカットを買いに行くのだ。
わたしの住む町は葡萄の名産地で、それこそ車でぐるっと10分も周れば5軒ほど葡萄農園・直売所がある。しかしわたしは、わざわざ1時間ほど車を走らせ、西尾の農園へ向かう。
毎年、この時期には西尾へ行く。会いたい方がいるからだ。前職で大変お世話になったその方は、葡萄農家である。そこで買いたいのだ。葡萄が絶品であるのは勿論、娘たちの成長を見せたい、お話がしたい、という一方的な気持ちでかれこれ4年、通い続けている。
農園にはシャインマスカットがたわわに実り、直売所には採れたてが並んでいる。見ているだけで、丹精込めて育てられた事が伝わってくる。みずみずしく輝くそれらはほとんど宝石、豊かな香りにうっとりしてしまう。大好物を前に、娘たちも浮き足立つ様子。
そして今年もちゃんと、会いたかった方に会えた。娘たちの姿を見て喜び、わたしの近況を聞き、そして「昔の」わたしとご家族の思い出を語ってくださった。毎年そこにいけば出迎えてくれる存在、「母親になる前のわたし」を知って下さっている存在。そして、その明るさに元気をもらえる。わたしはこの方が大好きなのだ。
わたしは、弟たち夫妻宛の送り状を書いた。今年は、送り先がひとつ増えた。西尾のシャインマスカットは、遠く離れた九州まで幸せを届けてくれる。
先方に別れを告げ、また車を走らせる。妊娠を期に退職するまで、この町では二年ほど働いた。おおよその土地勘も出来た。
さまざまな記憶が蘇る。少しだけ振り返って、自分の歩みを確かめられる時間。「あの日」の延長上に、今があるのだと。自己満足に過ぎないが、何かに背中を押してもらえる気がする。まさに身も心も削りながら働いていた、あの頃の自分を少し誇らしくも思うのだ。こんな呑気な生活をしているわたしだって、頑張ってたんだから、と。結局、自分が気持ちよくなる為に来てるんだよな。
お気に入りのカフェへ向かう。全国有数の抹茶の名産地、西尾!抹茶をこよなく愛するわたしには、夢の国でもある。周辺のカフェにはめっぽう詳しい。幼児2人を連れて行くには落ち着いた雰囲気の店だが、抹茶のためならたとえ火の中水の中。娘たちも美味しいものがあればおとなしいタイプなので助かる。口元を濃いみどり色に染めたうちのおチビたちは、隣のテーブルに座るおばちゃんグループに愛想を振りまいていた。女3人でしっかりお抹茶堪能。抹茶好きは遺伝子レベルだ。
余談だが、一説には…戦国時代の武将らがこぞって茶の湯に熱を上げたのは、お茶の持つカフェインの影響もあるんだとか。当時の日本人はカフェインを摂ったことが無かったため、体への影響は大きかったでは、との事。ある種のエナジードリンクか。
一方令和の幼児たちは、平素より添加物にまみれて生きてきているので、抹茶のカフェインごときには動じないのである。以上わたしの勝手な憶測。いえ、与えすぎは良くないですね。
さて、お腹と心を満たした後は、おチビたちのために児童館へ。この西尾の児童館、個人的にかなりレベルが高いと思っている。
この夏は、児童館や支援センターのたぐいに本当にお世話になった。同じところばかりだと飽きるので「児童館行脚」「児童館スタンプラリー」「児童館道場破り」などと勝手に称し、地域問わず足を運んだ。数えると8月だけで10ヶ所、回数でいうと20回も行っていた。午前午後で違うところへ行く日もあるのでこんな数字になる。
これだけ行けば「児童館評論家」を自称するに値しよう。そんな評論家の意見として、西尾の児童館はトップ3に入るほど素晴らしいと思う。
まず、駐車場から館内まで10歩くらいで入れる。(近くに停められれば。)それから、幼児用の室内ジャングルジムがあり大いに体を動かせる。館内全体、そしてトイレが綺麗。
1番の魅力は、ぬりえの多さ!種類だけで80ちかくあり、ひとり5枚ほど貰うことができる。絵柄もしっかり流行をとらえている。これがどれだけ凄い事なのか、他の児童館と比較すると、平均してぬりえの種類は4つほど、もらえるのは1.2枚(わたし調べ)、そして申し訳ないが、あまり可愛い絵ではない。それを踏まえると、西尾が如何に「ぬりえパラダイス」であるか伝わるであろう。
ぬりえフリークの長女は、悩んだ末にプリキュアとパウパトの用紙を選び、お手本を見ながら真剣に塗っていた。次女はとりあえずワンワンやパウパトをもらうも、飽きてジャングルジム。2人共見える場所で、それぞれ遊ばせられる、素晴らしい…!
そうして暫く過ごし、遊戯室に移動して遊ぶことに。いつもと違うおもちゃに、夢中で遊ぶ我が子たち。
あぁ本当に、夏休みがんばったよわたし…。しみじみと自分を労う。でも、こんなにベッタリ過ごすのも本当は尊い事なんだよね。家でゴロゴロしたりテレビ見たりと惰性で過ごした日もあったけど、それも思い出でしょう。
これから毎年、夏が憂鬱になるのか。夏休みとは、一体。今はまだ「お母さんだいすきー!」等、子ども達からの「ご褒美」、救いがあるものの、きっと成長すれば親子のぶつかり合い、宿題しろ手伝いしろとお小言ばかり。ストレスフルの季節になるのだと思うと本気で恐ろしい。
長女の性格上、思春期なんてわたしとやり合いになる事は目に見えている。そんな彼女は、アンパンマンの掃除機おもちゃを手に取った。リアルな作りのそれは、床を走らせるとダストボックスの中のカラフルなビーズが跳ね上がる仕組み。
「ハイハイどいてどいてーー!お掃除するよどいてーー!」
と騒ぎ立てながら遊戯室中をぐるぐる周り、ガシャガシャ掃除機をかけまくる長女の姿に、家でのわたしが普段、我が子の目にどう映っているのか見せつけられた気がした。わたしは無言で、彼女を見つめるしかなかった。