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『椅子と美術館』の思い出

この文章を書いている私は、幼いころからなんとなく

『見た目の質感、形がいいもの』

を好む傾向がありました。
なんで"それ"が好きなのか、説明は少し難しいのですが、感覚的に

「なんか、いいな」

「この形、好きだなぁ」

と、ひと目で"物"に惚れこむことがよくあります。


一時期、すごくハマっていたのは

『グッドデザインの椅子』。


そもそも『グッドデザイン』とは、公益財団法人日本デザイン振興会が毎年行なっている、デザインが優れた物事に贈られる『賞』のこと。

参考元:『グッドデザイン賞』とは

ウェキペディアより


私はこの『グッドデザイン賞』というものを、小学5年生のときに初めて知りました。

きっかけは、兄が中学1年生のとき。
夏休みの宿題に、

『美術館へ行って、パンフレットを作ろう』

というような課題だったと思います。
その課題をこなすため、兄は母と私の3人で、地元の美術館へ向かうことになりました。


その美術館は、とある駅から歩いて数分ほどの、住宅街の中にありました。

住宅街の中に、まるで森のような広い公園の奥に、その美術館は建っています。

名前に

『○○近代美術館』

と付くからか、地元県内にある美術館にしてはガラス張りの建物で、新しい造りをしています。

その美術館は夏休みになると、学生の自由研究用にちょっとしたイベントを行なっていました。

そのイベントの一環に、

『グッドデザインの椅子に座ってみよう!』

というものがありました。

その美術館には夏休み以外でも、館内のいたるとのころに『グッドデザイン賞』を受賞した椅子が、ある椅子はテーブルとセットで。

またある椅子は、鑑賞中の休憩用として、美術館の空気に溶けこむように置かれています。

そんな『グッドデザインの椅子』が、夏休み限定で、とある階のエレベーター前にいくつか並べて置かれるようになります。

そこに置かれる椅子は、見た目にもおもしろい椅子が、いくつか日替わりで設置されています。

『グッドデザインの椅子』には、一般的な椅子らしいデザインから、思わず

「これ、どうやって座るの?」

と聞きたくなってしまう様な、斬新なものまでさまざま。

また、その美術館では夏休み限定イベント

『グッドデザインの椅子に座ってみよう!』

のイベント用に、それらの椅子が

  • いつ頃

  • 誰が

  • どんな思いを込めて作られたのか

といった、その椅子に関するちょっとした情報が書かれているプリント用紙をもらえるので、それぞれの椅子に込められた思いを感じながら座ることができます。

私は当時、そのコンセプトにとてもハマり、それ以来、毎年夏休みごろには最低1回でもその美術館へ足を運ぶようになっていました!



時は流れ、私は当時の兄と同じ、中学1年生になりました。

新しい校舎での環境にも少しずつ慣れ、夏休みには、やはりあの宿題

『美術館に行って、パンフレットを作ろう』

という課題が出されていました。

「真夏に指定された美術館に足を運んで、パンフレットを作るなんて、面倒くさい……」

とも思いますが、私は初めてその美術館へ行ったとき、『グッドデザインの椅子』に出会うことで、小学5年生の時点で、

「もし同じ内容の宿題が出たら、こんなパンフレットを作りたい!」

というのが私の頭の中に既にあったため、この課題を出されたときはとてもワクワクしていました。

私はこの時点でもう数回、その美術館へ行っていましたが、今度は同級生の友人と2人で。


美術館鑑賞後、初めてその美術館へ訪れたときから頭の中にあったパンフレットの作成を始めました。

私が夏休みの宿題として作ったパンフレットは、その美術館にある『グッドデザイン賞』を受賞した椅子を、見開き1ページに

『椅子を紹介するパンフレット』

をテーマに作り、両開きの表紙には、お気に入りの『チューリップチェア』をかたどった色画用紙を、両開き用に半分にカットしたものをイラストとして貼り付けました。


当時の私にしては、かなりいいパンフレットが出来上がったことにとても満足する反面、

「パンフレットのタイトルはその美術館名の○○近代美術館なのに、椅子のことにしかふれていない内容でいいのだろうか?」

という不安な気持ちが頭によぎりましたが、作ってしまったのでそのまま提出してみることにしました。


長い夏休みが終わり、

『美術館に行って、パンフレットを作ろう』

という宿題を出した美術の先生に、私が作ったあの椅子のパンフレットが渡りました。

私は提出するとき、椅子のことにしか触れていないあのパンフレットについて、何か言われるのでは?

と少し心配になっていましたが、美術の先生から

「あの美術館についてのパンフレットなのに、椅子の内容だけじゃダメだよ〜」

などと指摘を受ける事なく、中学生活は気付けば2年目を迎えていました。


中学2年生になり、あるとき過去に提出してきた書類の提出物などが私を含む生徒たちに大量に返ってきます。

その中に、中学1年生のとき、皆んなが夏休みに作ったであろう、あの手作りのパンフレットが戻ってきました!


ところが、私が作ったあの、椅子を紹介するパンフレットだけは、戻ってくる気配がありません。

あのパンフレットは自分でもよくできていると思っていただけに、自分の作ったものだけ戻らないことに、ちょっとびっくりしました。

あのあと先生に戻らない理由を尋ねればよかったものの、そんな勇気が起こらず、なんとなく校舎の渡り廊下を歩いていたとき。

ふと、その渡り廊下に置かれている飾り棚の中に目が行きました。

すると、他の生徒の作品などに紛れて、私のあの椅子のパンフレットが飾られているではありませんか!!


美術の先生からあの、椅子に関してだけまとめられた、私が作ったパンフレットについてとくに感想を言われることなく2年間を過ごしていたので、こっそり飾るほど先生にも気に入られていたと思うと、作ってよかったなと思いました。


その後、あのパンフレットが私の手元に戻ってきたのは、中学3年の3学期ごろ。

私の、見た目の質感、形がいい"物"に対して"好き"という気持ちや思いがあの手作りのパンフレットから伝わっていたと思うと、嬉しくなります。

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