【A Pinch of Psychology】2-2:Smell におい・体臭と心理学
A Pinch of Psychology。かつて心理学研究者を目指していた私の語る雑学的心理学シリーズの第二弾はSmell。におい、をテーマの続きの話。
その1はこちら。
Vomeronasal organ
その1で人間にフェロモンがあるのかはまだ謎。あったところで感知できるかも謎、と書いたが、こちら。
vomeronasal organ。鋤鼻器。「じょびき」と読む。陸上四足動物のもつ嗅覚器官。鼻腔の一部がふくらんでできたもので、ヘビ・トカゲ類ではよく発達する。ワニ・鳥類などでは消失、霊長類は退化。ヤコブソン器官。
例えば、去勢していない雄犬が、雌のヒートに反応するのも、vomeronasal organの働きにより、その匂いを敏感に察知できるからである。
ちなみに私は体のつくりであるとか、脳や心理学に関する専門用語をこちらに来てから学んだので、日本語ではなんというのか知らない言葉が多い。この「じょびき」の読み方もぐぐって知った。日本で学生をしていたら、漢字に弱い私は絶対に落第していたと思う。鋤(すき)の形に似てるからこの漢字なのか?鋤(すき)を「じょ」って読むって知らなかったよ!
においの情報は、汗や尿などの体液を介して伝達される。揮発性有機化合物(VOC:ほらまた!なんか難しげな名前と漢字じゃん!)と呼ばれる空気中の化学分子が多数含まれているためである。ジムのロッカールームとか部活後のユニフォームのにおいとか、アレのにおいである。
その1でご紹介した女性を興奮させるらしいアンドロステノールなる性ホルモン。汗腺のひとつであるアポクリン腺(脇・陰部・耳・肛門に存在)特に男性のものから発せられるものであり。このホルモンを利用した「モテ香水」「フェロモン香水」といった製品も多く存在するし。男性の脇の匂いに妙に惹かれる女性がいるのも事実である。
だがしかし、そもそも、まだなんだかわかっていない、感知する体機能がない、科学的根拠はない、というのにこのような製品が多くあることについては疑問しかないが、まぁ「何かあるのかもしれん」なら「効く気がする」とか「効いてる」と思える心理により、購入する価値はあるのかもしれない。こういっちゃなんだが、人の気持ちとかって思いこみや言葉で簡単に操作できるものであるからだ。思い込みって色んな意味で大事なのだなと思う。
Pheromone・フェロモン(再)
とある実験では、男性の腋(わき)の下に脱脂綿を挟み、生理周期の不順な女性8人に1週間に三回そのにおいをかいで、四カ月間の生理周期を調べたところ、そのバラつきが非常に小さくなったというデータも存在する。また、男性が着用後の汗で湿ったTシャツのにおいをかぐという実験も存在する。
何でもお金で買えちゃう現代である。これはお仕事の関連で知ったのだが、世の中には、これらの汗、汗じみのもの。更には唾液や尿、髪の毛まで、実験材料・道具のために製品として販売している企業も存在するので驚きである。しかも科学実験のための製品であるため結構なお値段がする。徹底的な品質管理をなされているのであろう(ちなみにその1で語った実験用ネズミなども結構なお値段である)。
対男性、女性から発せられる「男惹きつけホルモン」も存在する。オスモフェリンとストラテトラエノールである。
オスモフェリンは、女性の排卵期に作り出される物質で、男性がオスモフェリンを嗅ぐと、唾液中のテストステロン値が上昇するという実験結果が出ている。なるほど、これは理にかなっているように思える。妊娠する確率があがる、という意味において。
ストラテトラエノールは、女性の尿から発見された物質。このホルモンを感じ取った男性は、脳の性的覚醒に関わる部分が興奮すると言われている。
こ、これは……飲尿プレイでもせねばデータはとれないのではいかと私は腕組みして考え込んでしまう……いや、においをかぐだけでいいのか。成分抽出すれば、別に実際の尿を嗅ぐ必要もないわけだし。と思い直し、飲尿プレイなどという言葉を真っ先に思い出した自分を少し恥じた。
それにしたって、む~ん、実験のためとは言え、知らん人の脇や汗の臭いを嗅ぐなど私はお断りしたいが。知ってる人でも嫌だ。なんなら夫のだっていやだ。よくかがされますけど。嫌がらせのために!ゲームとか熱中した後に、「ひゃ!すごい!ちょっと見て!嗅いでみて!」とぐいぐいやられる。どうやら私はヤツのアンドロステノールを感知はできないらしい。くさいだけである。
だが、脇においフェチだの、飲尿プレイだの、フェロモン的なアレを敏感に感じることのできる人、それらの匂いや行為に興奮する人にとってはMake Sense、ものすごい的を得た話なのであろうなぁと私は遠い目をして思うのである。
体臭がくさいと感じたら、相性が合わない?
ここいらが、コメントでいただいた「体臭がくさいと感じたら、相性が合わないとかいうのは、俗説ですか?」の、お答えになるのではなかろうか。
俗説とは言い切れないが、だからと言って科学的論拠がしっかりしているものでもない。
つまりは、人によって、ホルモンの匂いに敏感な人とそうでない人がおり。また、ある特定の人にはいい匂い、性的魅力を感じざる匂い(汗や尿)なるものは確かに存在するが、それを不快に思える人もいる、ということ。においに、そしてそれに含まれる特定の物質に反応する人、というのが確実にいる、という事実である。
そこに、相性があう、あわない、で言えばおそらく、においと感情、においと記憶もまた影響しているものと考えられる。
香水にしたって、ある人にはいい匂いでも、他の人には嫌な臭いと感じられる場合がある。花火の後などのにおいが、夏の良き記憶である人もいれば、焦げた匂いは、例えば火事だとかを経験した人にとっては嫌な記憶に結びつく人もいるだろう。例えば、夫アルゴは香水マニアである。彼はアルマーニの香水を好んで使用するが、同じ香水を昔、付き合っていてこっぴどくフられた男が使用していたので、私は大嫌いである。アルゴは「ふふん、セクシーだろ」と言っているけど、その香水の香りは私に嫌な思い出しかもたらさない。なんせ嗅覚というのは、脳に響く記憶の信号でもあるのだ。
加えて、体臭は、食べたものなどからのにおいとして発せられるものもあれば、件の私のスカンク放屁被害のように(←しつこい)染みついてしまう嫌な臭いが体臭と混じって、「いやなもの」として受け取られることもある。フェロモンらしきものが含まれるものの多くは汗であったり、尿であったりするが、それらは同時に体内の毒的なものを輩出する機能もあるので、体調によっても、そのにおいは大きく変化する。くさい汗、くさい尿、というのにも色んな要因があるのだ。
故に、確かにそれっぽいホルモンが存在し、それは個人の経験に大きく左右され、その上で相性が合う、合わない、という結論に導かれるものであると思われる。考えるまでもなく、一緒にいるなら、くさい人よりも、自分にとって、いい匂いのする人の方がいい。でもそれをいい匂いとするか、嫌な臭いとするかは、人それぞれである、ってことなんだと思う。ここが心理学の難しい所で、遺伝とか細胞、化学レベルだけでなく、個々人の環境や生育歴、背景が色濃く関係してくるのである。
体臭と異性を魅了する働き
では、体臭に異性を魅了する働きがあるか。いただいたコメントでは、「とある男性の匂いに凄く惹きつけられた女性たち。その場にいたメスのピットブル(犬)までも、その男性に擦り寄って行った」という面白いお話であった。
Evolutional Psychologyという進化論に基づいた人間の進化と心の働きを研究する分野がある。ちなみに、私が学生の頃、聴講したクラスには世界に名だたるこのEvolutional Psychologyの教授がいらしたのだが、男性器の形状の進化論だとか、セックス体位の進化論、肉体美によりモテる男性進化論だとかそんな事を授業として教えてくれていた。もちろん、20代若者の生徒が大多数であるので、この授業は大大大人気であった。
その中に、もちろん、この体臭と異性の関係のトピックもあった。クラスで習ったことの簡単なまとめは、『性的な意味でのヒトは、霊長類への進化の過程で視覚と大脳新皮質を発達させて、言語というものを獲得したことによって、動物的な本能的行動が不必要になった。その結果、画一的な行動を引き起こす古典的なフェロモンはつかう必要が無くなったと考えられている』ということだった。そして特別な進化を遂げた人間の「大脳新皮質」ここに五感の中で唯一、シグナルが到着するのがにおい、なのである。
動物の性フェロモンは、繁殖に密接、否、直結している。性、繁殖力行動である。例えば、ウニ。ウニは、性フェロモンを周りの水に撒いて、セックスにいざなうのである。だが、存在すら確定されていない人間の性フェロモン。あるとしてもそれは、Sex Drive(性衝動)にはつながらないのではないか、と言われている。
これもまた人間が人間たる理由でもあるが(ありがとう、大脳新皮質)性行為にPleasureを見出し、繁殖の目的以外で、それを追求する生き物というのはいないらしい、いても希少らしい。
我が家のリンゴ氏(未去勢)🐕なんぞを見ていると、動物界における性フェロモンなんて絶対的・強制的なものなんである。普段は聞き分けの良い、賢きリンゴ🐕氏であるが、ヒート中の雌犬を抑えが効かなくなってしまうのである。これは人間とは明らかに違う。
これがもし、人間だったらもうえらいことだ。エッチな同人誌の世界になってしまうではないか。相手に対するトキメキがすぐさま、セックス!となっていたら、えらいことである。まぁ、場合や状況においては、すぐさまヤリてぇ!と思うこともあるだろうけど。動物のごとく、迅速行動!にはならない。もしも、人間の良き匂いがウニの海中フェロモン散布と同じものであったら大変なことである。「そんな!エロ漫画世界みたいな!」的な。
というわけで、これも体臭と相性の話のお答えと同じで、個体差、状況差、認知差、そして心理状態の違いが複雑に絡み合っての現象である。ピットブルは…どうなんだろ、その男性に飼い犬がいたとか、むしろその男性に犬的な何かがあった…?BBQのにおいが着ていた服についていたとか?というしまりのないお答えとなってしまうのをお許しいただきたい。
いつかの次回に続く!
……と、ここまで書いていて、はて?それでは同性愛、LGBTQの世界ではどうなのであろうか?という疑問がわいてきた。ここでご紹介したものはどれもこれも、対異性に対する研究ばかりである。同性愛、LGBTQの世界での体臭や性ホルモンに関する研究というのは、これは今まであまり聞いたことがないし、授業で習った覚えもない。私が浅学なだけかもしれないけれど。
異性同士の恋愛に、フェロモンが関係しているのであれば、同性同士でも惹きつけあう要因の一つとして「におい」があっても不思議ではないと思える。ふぅむ……(腕組み)これは以前に書いたセクシャリティの事とも関連づけてそのうちまたこの心理学関連記事で書いてみたいと思う。
あと今回の記事では、主に性フェロモンについて焦点を当てたが、フェロモンそのものにも何種類もある。フェロモン=性ホルモン、だけではないのだ。危険を感じるためのフェロモン、母子の結びつきを強くする愛情フェロモンなども存在する。
また、においの研究には、他にもストレス関係(ストレス強だと体臭がキツくなるとか、においに鈍感・敏感になるとか。これは動物に備わっているサバイバル本能に関連していると言われている)のもの、病気関連のもの(コロナの研究など)、死に際の嗅覚に関するもの、phantom smellsといって実際はそこにないのににおう、と感じてしまう現象だとか。更には、汗のにおいの種類(ストレスによる冷や汗はくさいとか)の理由だとか、においを失うと人の心や感覚がどんな風にかわるのか、だとか。山ほど面白い研究が存在する。
そもそも、人間が腐ったもののにおいをかいで、おえっとなるのは、サバイバルのためのものである。これもまた進化論的心理学の話なのだが。このように、本当に、本当に沢山の面白い研究があるのである。なのでそのうちまたここで書いていければいいな、と思う。
ということで今回はこれまで。お付き合いくださりありがとうございました!
次回の心理学ネタ記事は、「片付けできない心理学。Hoarders」です。こちらもいただいたコメントからトピックを選ばせていただきました!
もしも「こんなネタで心理学研究の話を知りたい」というようなものがあれば、どのようなものでも大歓迎です。コメント欄にてお知らせくださるとうれしいです。
【終】
Reference
以下はこのNote記事を書くにあたり参考にしたサイト・文献です。
◆ https://www.apa.org/monitor/oct02/pheromones
◆ https://www.psychologytoday.com/us/basics/scent
◆ https://timesofindia.indiatimes.com/life-style/spotlight/how-scents-affect-your-mood-and-bring-memories/articleshow/82003122.cms?from=mdr
◆ https://www.apa.org/news/podcasts/speaking-of-psychology/sense-smell-covid-19
◆ https://www.livescience.com/5188-odor-unique-fingerprint.html
◆ https://www.fifthsense.org.uk/psychology-and-smell/
◆ https://www.scientificamerican.com/article/are-human-pheromones-real/
◆ https://www.psychologytoday.com/us/blog/the-red-light-district/201905/10-eye-opening-facts-about-body-odor
◆ https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fpsyg.2016.00530/full
◆ https://royalsocietypublishing.org/doi/10.1098/rspb.2018.1520
◆ https://academic.oup.com/chemse/article/43/5/347/4956803
◆ https://www.webmd.com/sex-relationships/features/sex-life-phermones
◆ https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3987372/
心理学記事のまとめ