いつか見た記憶の色味へ。日々を記録するクラシックネガ専用Lightroomプリセット(プリセット配布あり)
この数年デジタルで撮る以前の、ネガフィルムで撮っていた写真の再現に取り組んでいました。最近ようやくこれは、というプリセットができたのでここにその経緯をまとめ、そのプリセットを配布したいと思います。名付けて「EVERYDAY Neg.」。
目指すべき色味と質感
狙ったのは2000年頃量販されていたカラーネガフィルムをチェーン店で現像した写真(補正あり)をデジタルで再現です。これは一度プリセットとしてまとめ、noteでも記事にしました。
これはこれで破綻なくまとまっているプリセットでしたがまだデジタル感が強く、また色味のみの追求という感じになっていました。今見るともう一声ほしい印象です。
クラシックネガとの出会い
富士フイルムのデジタルカメラの比較的新しい機種にはクラシックネガという一癖あるフィルムシミュレーションが搭載されています。これがまぁフィルムっぽい。粒状感も設定できてよりそれっぽくもできます。僕はX-E4でこのフィルムシミュレーションに出会いすっかり虜になりました。ここから自分の記憶にあるフィルム写真の再現を暇をみては取り組むことになります。
またクラシックネガの特徴として明度補正を入れることで色味が変わるという、露出で色が転ぶカラーネガの振る舞いを再現しているのが面白い点です。これはどうやってもプリセットで再現することは難しい。なのでカラーネガのフィルムルックプリセットを作るにあたり、カラープロファイルをクラシックネガにするというのは第一条件でした。
フィルムルックを構成する要素その1:色味
フィルムとデジタルのもっとも大きな違いはその色味です。フィルムはCMY、デジタルはRGB。フィルムの場合そのカラーバランスも銘柄によって違います。また鑑賞する媒体も違い、フィルムは多くの場合プリント、デジタルはオンスクリーンが多いでしょう。今回はデジタルでオンスクリーン鑑賞のためのフィルムルックを目指しました。
前述のクラシックネガは「SUPERIA」がベース。色域がCMYぽいので元々のトーンは良好。ただ僕が使っていたカラーネガフィルム(当時量販されていたものなので多分FUJICOLOR100or400)と比べてカラーバランスが違うのでニュートラルな色味となるようオレンジと緑、青を調整し、より定着感を出すために全体の彩度と輝度を下げマットな印象にしています。
それと大事なのは色かぶり。「なんか微妙に色が被っているな」という印象がベール感というか、フィルム独特の空気感になっていると感じます。色かぶりの再現は現在だとトーンカーブとカラーグレーディングという2つの方法がありますが、カラーグレーディングはやや単調な被りになるのでここでは各色のトーンカーブでほんの少しスパイス的に被りを入れています。
フィルムルックを構成する要素その2:粒状感
ドットで構成されるデジタルに対しフィルムはハロゲン化銀の結晶で構成されています。この結晶が粒状感の正体。僕の使っていたGR10は35mmフィルムなのでハーフカメラなどよりは荒くはありませんが、それでもオンスクリーンで鑑賞するにはちょっと荒い。プリセットではあえて粒子サイズを小さくし、デジタルぽさを消す程度の印象にとどめています。
フィルムルックを構成する要素その3:ダイナミックレンジ
ダイナミックレンジは今やデジタルカメラの方がネガフィルムより広くなりましたが、デジタルの白飛びと比べ、フィルムはハイライト部分の再現性にその特徴があると思います。プリセットとしてまとめるにあたりデジタルカメラでのハイダイナミックレンジ(HDR)なども試しましたが、フィルムのそれとは違う印象を拭いきれません。今回は「ハイライト部分の情報が残りやすい」というフィルムの特徴を生かした補正を入れる事でまとめています。
フィルムルックを構成する要素その4:ホワイトバランス
デジタルではホワイトバランスは任意に変更できますが、フィルムは基本的にデーライトで色温度が固定されているので光源によっては色かぶりが起こります。デジタルの「晴れ」がデーライト(約5500K)相当ですが、実はカメラによってはこの「晴れ」の数値は固定されていません。なので今回はプリセット側で固定値を設定しています。
フィルムルックを構成する要素その5:レンズ収差
現在のデジタルカメラの多くはレンズ補正をカメラ内部で行っていますが(オールドレンズを使う場合は別)フィルムカメラは当たり前ですがこの補正はありません。各収差がそのまま写り込むのがフィルム写真の特徴ともいえます。デジタルカメラの場合補正前提のレンズ設計をしていたりするので安易に現像ソフト上で補正を切るというのはおすすめできませんし、場合によっては補正が切れないデータというのもあります。ですのでここではレンズ補正を使用する設定としています。富士フイルムのデジタルカメラは基本内臓のレンズプロファイルを自動適用されるようですが機種によっては任意で補正解除ができるものもあります。その場合はあえて解除をしてみるのも面白いと思います。
フィルムルックを構成する要素その6:明瞭感
デジタルカメラで撮った写真は解像感が高くすっきりとしていて、まるでその場にいるような臨場感を与えるものもあります。逆にフィルム写真の場合、薄いベールで包まれているかのようなソフトでなめらかな質感に情感が湧き起こるのではないでしょうか。このフィルム特有のシャープすぎない質感、曖昧さを再現するためにLightroom上で「明瞭度」「かすみの除去」を下方調整し、シャープ補正をゼロとしています。
フィルムルックを構成する要素その7:プリントの紙色
これはフィルムルックを考える時の盲点なのですが、フィルム写真の鑑賞はそもそもが紙にプリントされたものです。この時、写真の色味が紙色の影響を受けないということはまずありえないはずなんですよね。当時の印画紙はよくある富士フイルムのEVER-BEAUTY PAPER。白色度は高く紙色はほのかに青みがかっています。この特徴を色味の調整に勘定して入れます。(ディスプレイの色味もあるよというのは一旦置いておきます…)
PHOTO GALLERY
そもそもこの数年のRAW現像でフィルムぽくする活動というのは、思えば学生時代にGR10で撮っていたフィルム写真とGRDⅡで初めてデジタルでちゃんと撮った写真がなんか違う…と思った事が発端でした。ただ当時はそれを上手く言語化する事もできなかったし、そしていつの間にかその事について考えるのを止めていたんですね。
RAW現像でフィルムぽくする事を本格的に開始したのは仕事で写真についての知識と技術が増えたのが大きいです。それと昔フィルムで撮った写真が今のデジタルで撮ったのよりなんか良かったな~という気持ちがずっとあったんですよ。だから本当は「フィルムぽくする」のではなく、フィルムで撮った写真の「なんか良かった」を紐解いてデジタル写真に定着させる事が自分のやりたかった事だったんです。
もちろん紙焼きされたフィルム写真とオンスクリーンのデジタル写真は根本から違います。でもフィルム写真から自分が感じていた良さを解体し再構成することが今の自分ならできるかもしれない。そういう想いで色々なカメラを使ったり技術書を読んでみたりRAW現像で実験ををひたすら繰り返しました。
その副産物で別にフィルムルックではなく自分の琴線に触れる現像もできる様になりましたし、最早フィルムぽくする必要性を感じなりましたが、ここまでの経験と知識はちゃんとまとめておきたい。というのが今回の記事を作ることの動機でした。
みんながフィルムで写真をフツーに撮っていたあの頃、フツーに現像出してフツーにプリント受け取って見た「あの色味」がほしい。おそろしく遠回りをしましたが自分が納得できるフィルムルックができました。自分の周りのなんでもないフツーの景色を撮った写真に、ぜひこのプリセットを使ってみて下さい。
EVERYDAY Neg.プリセットはこちら
EVERYDAY Neg.プリセット使用上の注意点
Lightroomのカラープロファイルはカメラマッチングのものでプリセット設定するとうまく使用できなかったりするので、配布プリセットでは一旦「Adobe カラー」で登録しています。こちらを使用時にクラシックネガへ変更して下さい。
【おまけ】EVERYDAY Neg.+OPF 550-L
最近うっかり買ってしまったTOKYO GRAPHER OPF 550-Lとクラシックネガの組み合わせがびっくりするぐらいフィルムで撮っていた写真の印象に似ていたので、ついでEveryday Neg.をベースにプリセットを新たに制作しました。正直素のEveryday Neg.プリセットより昔撮っていた自分のフィルム写真に近いです。OPF 550-Lによる光の拡散具合の明瞭感がフィルムっぽいんでしょうね。クラシックネガ搭載カメラとOPF 550-L両方ないと使用できない
プリセットですが、両方お持ちの方はぜひどうぞ。
EVERYDAY Neg.+OPF 550-Lプリセットはこちら
EVERYDAY Neg.+OPF 550-Lプリセット使用上の注意点
Everyday Neg.+OPF 550-Lプリセットを使用する場合は、通常版と同じくカラープロファイルのクラシックネガへの変更とともに、カメラ内で下記設定したホワイトバランスで撮影し使用して下さい。
ホワイトバランス AUTO(R: 0 / B: +2)
上記組み合わせで以前に撮影したRAWデータについてはLightroom上で色温度5300、色かぶり補正+20にすると概ねいい感じになります。