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君たちはどう生きるかについて

公開日にインスタに投稿した文章になります。

※ネタバレを含みます。


「君たちはどう生きるか」は「となりのトトロ」「風立ちぬ」に連なる戦前 戦中 戦後を描く昭和三部作であった。

「風立ちぬ」のPart2、現在の宮崎駿を描いた「風立ちぬ」に対して、少年時代を描いた「君たちはどう生きるか」。

そしてテーマとしては宮崎駿引退後の弟子たちによる「メアリと魔女の花」と相似をなす、ファンタジーなき世界、ジブリなき世界を描いた喪失感を伴う寂しい作品だった。


本作は映画として、冒険活劇として徹底的に盛り上げないように周到に構成されている。

宇宙から飛来したという謎の建造物には入っていかないし、カエルに飲み込まれても冒険には踏み出していかない。

ファンタジー世界に行くまでの現実世界の描写が執拗に長くなかなか思うように面白く展開していかない。

冒険のきっかけとなるのは、母親の残した一冊の本「君たちはどう生きるか」に感銘を受けたからだ。

ここまでの現実世界の描写でわかることは少年のモデルは宮崎駿自身であるという事だ。

宮崎駿の実家は軍需工場であり、戦時中は儲かっていて不自由なく生活が出来ていたこと。

そして母親は脊椎カリエスという病に侵されて不自由な身であった為、甘やかすことが出来ない宮崎駿に対して厳しく教育をしていたこと。

そして母親は宮崎駿の作品を見ることなく亡くなってしまいそれを悔やんでいること。

これらが本作を鑑賞する上での補助線になる最低限の知識だろう。


後半からファンタジーの世界観に突入していくものの出会う人間たちは全て宮崎駿の身の回りにいた人たちだ。

サギ男は本人も自覚のある通りプロデューサーの鈴木敏夫本人に他ならない。

宮崎駿をファンタジー世界に引き込んで作品を作らせている張本人だ。

サギ男と宮崎駿の喧嘩を収めるキリコとは亡くなってしまったジブリを支えて色彩設計の保田道世さんがモデルだろう。

ファンタジーの世界では既に亡くなってしまった方々が多く登場しており物悲しい。

宮崎駿の自分一人が置いてかれてしまった無念さが描かれている。

最たる例は母親だろう。

母親の年齢を追い越して歳を重ねた宮崎駿が『あの世』で母親と再会する様はなんとも切ない。

母親が“年下”で有ることには意味があるのだ。

宮崎駿は既に母親が亡くなった年齢よりも長く生きているのだから。

そして拒絶され、拒絶していたもう一人の母親と和解をする。

これは男性にとっての女性像が母親から恋人に変わっていくという心理学的な指摘だろう。

もう一人の母親とは未来の恋人、奥さんに他ならないのだ。

男にとって恋人や結婚とは母親との関係のリメイクに他ならないのだから。

そしてこの世界ではなくなってしまったのは人間だけではない。


最も本作で謎めいているのは大叔父様だろう。

彼の目的も、そもそも何をやっているのかもよくわからない。

しかしながらここまで書いてきたことを踏まえて考えれば容易く読み解くことは出来る。

大叔父様のモデルは故高畑勲であり、現在の宮崎駿だ。

彼は積み木で世界の均衡を保っているのだが、これは単純に積み木はアニメ作りのメタファーだ。

それが困難になってしまい若い人に跡を継いでほしいという話だ。

彼の頭上に浮遊する“石”や積み木は宮崎駿、引いてはジブリ作品の事に他ならない。

彼を取り巻くインコの大群はジブリのスタッフだろう。

大叔父様が積み木を作るのをやめてしまったら彼らは怒り狂って積み木を破壊してしまうのだから!

そして最後には巨大な石であるジブリ美術館を模した謎の建物までも破壊してしまったのだった。

自らが作り出した作品や城を自ら破壊する。

老いによってファンタジーを失った、つまりはジブリの無い世界を「君たちはどう生きるか」は描ききった。

もうジブリを続けていくのは出来ないという叫びがここには確かにある。

師匠であり、ライバルであり、親友でもあった高畑勲ももういないのだから。

先輩の視点からジブリ無き世界を描いた「君たちはどう生きるか」と後輩の視点からジブリ無き世界を描いた「メアリと魔女の花」は対を成す作品だ。


本作は大変徹底的にアンチジブリな姿勢を取るあまりに映画として盛り上がる要素はほぼ見られない。

迫力のあるアクションもないし、共感できるキャラも無いままに、ツギハギのドラマ展開で映画は幕を閉じてしまう。

いつも最後にある“おわり”の文字もない。

なぜならば本当に本作は終わりを描いた作品だからだろう。

しかしながら本作をつまらないと一蹴してしまう人間はサギ男の言うような全て忘れてしまう人間たちだ。

少なくとも僕は本作を観て“石”をポケットに入れて映画館を後にすることが出来た。

宮崎駿の問いかけを考え続けることが出来る石だ。

僕たちはどう生きるか?

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松向寛太
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