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『ラブライブ! スーパースター!!』が描く「勝利を至上としない資本主義」【スパスタ最長考察オタク執筆後記】
※この記事は「貴方と私がLiella!を愛する理由について【世界一長い『ラブライブ! スーパースター!!』考察】」の続きとなっております。
未読の方はぜひそちらもお読みいただけると嬉しいです!
考察本編は終了しているのですが、ここではより込み入った話を、オタクのメモ的に書き連ねていきます!
1.なぜスーパースターの物語に価値があるのか~現代社会編~
最終的に、Liella!は資本主義的な幸福に頼らない「繋がり」を大切にしながら、資本主義的な競争原理の利点を享受する選択をしました。
これは現代社会において大きな意味を持つのですが、何がどうすごいのか、マクロ的な視野も踏まえつつ、ざっくり説明してみます。
(マクロ的な部分の説明は本当にざっくりなので、興味がある方は調べて深淵を覗いてみてください!)
さて、エンタメ作品の命題のひとつに「一歩を踏み出す勇気」をいかに与えるかというものがあります。
これは具体的には「社会的弱者を救う」「引きこもりを救済する」ということで、90年代~10年代では共通の問題意識として根底にあったものと思います。
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現代的な救済について書いているのでぜひ……!
しかし、20年代の現在、その問題意識はほとんど消滅しています。
何故かといえば、そもそも「社会的弱者を救うには?」という話は、自分が「強者」だから考えられる話です。
高度経済成長期やその名残が色濃い時代を生きてきた世代は無意識に「強者」の自覚がありますが、成長を終えて停滞する現代日本では、もはや共感を得られないテーマになってしまいました。
現代社会では、そんなことより「自分が今どう生きるか」という生存戦略の方が大切です。
そして、現代は戦争の時代や高度経済成長期のように「社会(=全体)が個人に幸福を与えてくれる」という時代ではありません。
「社会の歯車」という言葉には悪いイメージがありますが、実は「何も考えずに全体の幸福を共有してもらえる」という意味ではプラスの言葉です。
「自分で考えて突き進みたい」人にとっては「制限」に感じる一方で、(社会が発展する限りは)大半の人にとって勝手に幸せを享受できる楽な社会でした。
一見すると「自分が今どう生きるか」という話は、豊かな時代で余裕があるから出てきた話題のように思えます。
しかし、むしろ豊かな時代を経て停滞する社会にいるからこそ、台頭しているテーマだと私は思います。
社会に乗っかることで幸福が受容できないならどうするか?
個人同士の小さな連帯(=絆)により、日常生活のコミュニティ内で「自分」を認められることが幸福の条件になります。
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現代社会の「幸福」は、このような2つの価値観の過渡期にあります。
①資本主義をベースとする社会システムに組み込まれてマクロな幸福を享受する
②連帯と絆をベースとする個人的でミクロな日常を謳歌する
我々はどちらかの手法を選択しなければならない……ように思われています。
しかし、そもそもこれらは両立可能であると、『ラブライブ! スーパースター!!』は示しています。
この結論には、ものすごく社会的価値があると思います。
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かのんが手を取り合ってコミュニティを形成するという②の過程が丁寧に描かれた上で、最終的に①の資本主義的競争に参入する。
しかし、競争システム上の勝利を至上とするわけではなく、あくまでも「成長」という「美味しい部分」のみを享受して②に還元する。
これにより、「勝利を至上としない資本主義」という矛盾を成立させているのです。
2.なぜスーパースターの物語に価値があるのか~ラブライブ編~
さて、今度は『ラブライブ!』シリーズの文脈で考えてみましょう。
10年代に制作された『ラブライブ!』『ラブライブ!サンシャイン!!』は、まさに「一歩を踏み出す勇気」の物語でした。
しかし、スーパースターが描くのは、「努力している(=一歩を踏み出した)のに夢を叶えられない」という圧倒的な絶望です。
これが何を表しているかというと、これまでに確認した通り、「一歩さえ踏み出せば社会システムに巻き込まれる中でなんとかなる」という時代の終焉です。めちゃくちゃ2020年代版にアップデートされているのです。
『ラブライブ!』は常に「夢」について描いていますが、時代のターニングポイントに完璧にアジャストしています。
「個人(=私を叶える)」から出発して「連帯」に至り、そして「団結(=みんなで叶える)」しながらも資本主義に染まりきらない新しい価値観を提示しているのです。ヤバい。
しかも同時に『虹ヶ咲』では、また違った形で時代に合わせた価値観を提示しているわけで、これはもうあまりにもすごすぎます。
そして個人的に好きなのが、「引きこもりを無理に引っ張り出そうとはしていない」という点です。
あくまでも「頑張る気があるのに上手くいかない」という人を救済したい物語であり、「今は気力がない」「頑張る気なんてありません」という人々をきちんと分けているのが素晴らしい。
スーパースターが冷酷という意味ではなく、この層を救う話は『ラブライブ!』で済んでいるからですね。
穂乃果が強い力で周囲を引っ張ったように、μ'sの物語は「とにかくやってみよう!」というエネルギーで溢れていました。
前回記事でも触れましたが、「『ラブライブ!』を観て頑張ったけどダメだったんですが、どうしたらいいですか?」という問いにスーパースターで答えているわけです。
自己否定しながらすべて描き切ろうとするのがラブライブシリーズの特徴です。スーパースターの中だけでも、その意識は見えましたね。
このような「自己否定」「テーマの進化」はディズニー作品が非常に優れているので、いつかその話もまとめたいです!
3.恋と愛が連鎖する
話はガラッと変わりますが、「私のために歌って」という可可の想いは「恋」で、「貴方のためなら」と応えるかのんの行為は「愛」です。
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おそらく、この「恋」はリスペクト・告白・期待などと言い換えられて、「愛」はそれに対するレスポンスという見方ができたりもするのですが、どのみち構図は変わりません。
要するに「恋」は自分本位で、「愛」は相手本位のものです。よく言われる話ではありますが。
Liella!がそうだったように、人間が輝きを放つのは「愛」の方です。
この点で、『ラブライブ! スーパースター!!』は「愛」の強さが賛美される物語でもあります。
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この世のすべての物語は「愛」を語っていると言ってもいいと思いますが、Liella!の物語は可可の「恋」から始まって「愛」が連鎖するのがいいなぁと思っています。
この連鎖は、
「私を叶えるために(=自分本位=恋)」
⇒「貴方のために輝く(=相手本位=愛)」
という、作品全体の構図と共鳴しています。
また、かのんの行為は間違いなく「愛」ですが、その前段階には自分の夢を叶えたいという自分本位な「恋」心があるのも面白いところです。
いきなり「愛」の話をするのは飛躍しすぎて共感できないなぁ、ヒロインのために命懸けるとか無茶苦茶だよ、みたいに思うことが結構あるのですが……
スーパースターの物語は「自分本位=恋」から始まるので、「愛」の物語としても非常に説得力があります。
スーパースターが好きな理由のひとつです!
4.『Starlight Prologue』で泣く理由
●「私」が負ける
12話の『Starlight Prologue』って本当に素晴らしいんですよね。
楽曲そのもの、ライブの持つ物語性、映像表現、ラブライブの文脈などあらゆる面で素晴らしい。
作中でも、2期生は「あの『Starlight Prologue』を越える」という目標を立てているわけで、特別な扱いになっています。
『Starlight Prologue』のライブのシーン、私は何度観ても涙が出てしまうんですが、なぜなのか考察してみたいと思います。
まず、物語の流れを「初見」の再現をしながら振り返ってみます。
一般的に、主人公が一度負けた相手ともう一度戦う時、それは「勝つ」フラグです。
クーカーは3話でSunny Passionに敗北しており、あれから成長してLiella!として輝きを得たわけなので、ラブライブ予選には「勝利フラグ」が立っています。
しかし、私は観ていてまったく勝てる気がしませんでした。
12話でかのんが「戦う意味ってあるのかな」とまだ迷っていること、メタ的に見て「2期があるのに1期で勝てるわけない」と思ってしまうこともありますが……
何よりも我々が「マイナスからゼロに至る物語」を一緒に経験しているからです。
これまで確認してきた通り、スーパースターの物語は、視聴者が「これは私の物語だ」と思えるような「繋がり」を大切にしています。
かのんがゆっくり立ち上がり、ようやく歩けるようになった姿は、私達と完全に重なっているのです。
もはや気持ちはLiella!の一員です。それくらい強く感情移入できる構成になっています。
しかし、かのんが「私」であるからこそ、わかってしまいます。
ようやく「あんよは上手」になったくらいで、バリバリトップランナーのSunny Passionに勝てるわけがないと。
というか勝てたら逆に困ります。ラブライブはそんなに甘くない。
あの『Snow halation』を思わせる展開も、生徒達の協力も、これからすべて儚く散る「敗北」に向かっている。
こんなものはとても観ていられない。私はもうずっと息が苦しかったです。これから「私」が負けるのですから。
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しかし、そんな絶望の中で、『Starlight Prologue』が始まった瞬間、絶望が吹き飛び、楽曲と映像の素晴らしさに魅了させられます。
「なんて素晴らしいライブなんだ」
1話のあの時から、ここまで輝けるようになった。
集大成を観ている感動と同時に、「でも負けるんだ」という不安・焦燥感・絶望も一気に蘇ってきて、感情がぐちゃちゃになります。
「もしかしたら勝てるかもしれない」「いや、お願いだ、勝ってくれ」と、気づけば祈るように手を合わせてライブを観ていました。
こんな風に感情がマックスなので、視聴1周めでは歌詞をすべて咀嚼することなど不可能です。
しかし、それでも少しずつ「歌詞」が聞こえてきます。「なんかヤバい歌詞だぞ」という雰囲気は理解できます。
「始まりは君から でも次は僕から」
「Looking for light」
は少なくとも完全に認識できて、「グワッ!!!」と叫んだのを覚えています。そしてCメロに入ると、
「涙は一番うれしい日にとっておく そう決めたんだから」
「うわ、負ける……」と思った次の瞬間には、もう信じられないくらい輝いて、かのんが「独唱」している。
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まったく引けを取らない輝き
「君と煌めきを 描くよずっと」
キミトキラメキヲ……?
思わず片言になりつつ、最後の歌詞の時点ではもう号泣でした。
突然の初見オタクレポートになってしまいましたが……
何度も「今回は勝つかも」と思って見返したところで、絶対にLiella!は負けます。
そのたびに泣いてしまうのは、「負ける悔しさと悲しさ」「こんなに輝けるようになったという喜び」「もしかしたら勝てるかもという希望」が、Liella!と同じ視点で、すべて最大値で襲い掛かってくるからです。
これは「負けるのはわかってますよね」という構成による妙でもあると思います。
はい、最後の説明だけでよかったですね。別にオタクレポートは要らなかった、、、
●「舞い散る夢」という風景
さて、この楽曲は歌詞のすべてに『ラブライブ! スーパースター!!』が詰まっているので、鑑賞を始めるとキリがないのですが……
キラキラ 大空に舞い散る夢
かき集めてひとつひとつ
叶えてゆこう
この「夢が舞い散っている」という風景は、スーパースターの特有の感覚ですね。
比較ラブライブ学的に言えば、『ラブライブ!』なら「大空に輝く夢」などになりそうなところです。
ここまで確認したように、かのん達は「頑張ったけどダメだった」という経験をしています。だから夢が砕け散っている。
また、ラブライブ優勝という「目標」は同じでも、実はバラバラの「夢(=叶えたい私)」を持っているのも特徴です。かのんは歌をみんなに届ける、すみれはショウビジネスの世界で輝く……などですね。
これらを「ひとつひとつ」集めて、お互いに「私」を叶えていく……スーパースターの価値観が詰まっていることは、ここまで読んでいただいた方にはご理解いただけるはずです。
ちなみに、このあたりの「夢」と「目標」の違いは、比較ラブライブ学的には非常に重要なのですが、今回はどう考えても語る余裕がないのでやめておきます!
とりあえず確定しているのは、3期のどこかで『Starlight Prologue』が流れたら絶対に泣いてしまうということです!
5.おまけ
ここまで、この有り得ないほど長い2つの記事を読んでいただいた方、本当に本当にありがとうございます。
NDは聖地巡礼オタクなのですが、最後に舞台となっている原宿や神津島などの写真を貼って終わりたいと思います!
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いくつかあるけどたぶんこれ
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キャットストリートというやつです
近くにはたこ焼き屋さんもあったりします
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可可と同じように酔って寝転がりました
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フナムシわんさかなのでそっちの覚悟も必要
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可可と同じようにバテて寝転がりました
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明治神宮外苑いちょう並木
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※記事内に用いた画像は、すべて考察を目的として引用しています。
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