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#89 「違国日記」と人間の距離と「他人を踏みにじる」と

ヤマシタトモコの漫画「違国日記」を読み始めた。面白い。

両親を無くした15歳の少女を、叔母である女性小説家が引き取って一緒に暮らす話。

人と人との距離感の描き方が良い作品って、ずっと読んでいられる。もう少し踏みこんで言うと、「他人の気持ちは簡単には分からない」というマナーがきちっと守られている作品が好きだ。

たとえば小説でも映画でも、何か悲劇的な事があったときに、当事者の悲しみを登場人物全員が分かって当然みたいな前提で描かれているとちょっと引いてしまう。

この人と人との距離感って、創作作品の内部での、物理法則みたいなものだと思う。重力が星によって違うみたいに、他人の気持ちが簡単に分かる前提でバンバン進んでいく話と、他人の気持ちが分からない前提で距離を取りながら進む話とがある。

「違国日記」では、少女を引き取ることに決めた女性小説家が「私はあなたを愛せないかもしれないけれど、あなたを踏みにじったりはしない」と言う。こういう距離感が好きだ。

ちなみにこちらも最近読み始めたEdith Egerの”The Choice”という本に”victimize”という言葉が出てきて、「他人を踏みにじる」の英訳はこの言葉が適切かなと思った。アウシュビッツの生存者である女性心理学者の本で、ビル・ゲイツが薦めていた。

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