【編集の話vol.3】インタビューと原稿の話

編集者は、何を考えながらインタビューをしているのか。そして、それをどう原稿にするのか。
私の場合のやり方を振り返ってみました。

雑誌の原稿は4種類くらいあって、それぞれ作り方もポイントも違います。

1.レポート形式(複数の関係者や専門家に話を聞いてまとめる)
2.事例取材(1つの取材先から1つの記事を書く)
3.人物インタビュー(人にフォーカスして話を掘り下げて聞く)
4.トークショーや対談、座談会の原稿

今日は、3つめの「人物インタビュー」と4つめの「対談・座談会形式の原稿」について書きます。

人をひとつの建物のように捉えている

人物インタビューをする時、私は人を1つの”建物”のように捉えて考えています。

世の中には、変わった形の建物って色々ありますよね?

例えば、フランク・ロイド・ライトのグッゲンハイム美術館とか、コルビジェのロンシャン礼拝堂、日本でも話題になったザハ・ハディトさんの建築とか・・・
(もっと奇抜なものはいっぱいありますが)

こういうものを見ると、「一体この建物はどういう構造で成り立っていて、中の空間はどんな風になってるんだろう?」などと思うわけです。

変わった活動をしている人も同じで、「一体この人はなぜこんな活動をしていて、どんなモチベーションがそれを支えているのだろう」と気になります。

その建物(人)の全体像を理解するために、私はインタビューで次のようなことを聞いていきます。

・その人を動かすモチベーション
・そのきっかけになった過去の出来事
・今取り組んでいる活動や仕事
・現時点での成果や実力
・これから実現したいと思っていること etc.

聞きながらパーツを集めていくことで、頭の中でその建物(人)の全体像が描けるようになります(360度頭の中で回転させられるようになるというか)。
そして、風変わりな形状を支えている力学もわかります(この大きな梁が全体を支えているんだとか、この素材だからこんな形にできるのかなど)。

そうやって、自分の中で一つの像を結ぶまで話が聞けたら、インタビューは終了です。

原稿を書くのはカメラワークを考えることと同じ

インタビューを終えたら、頭の中にある立体的な構造を、今度は原稿という形でアウトプットしていきます。

原稿を書くのはカメラワークを考えることに似ている、と私は思っています。

というのは、原稿は、理解した立体構造を線的な言葉に置き換えていくことだからです。

画像1

・どんな順番で伝えていけばよりわかりやすく魅力的に伝わるか?
・理解しやすいスピードはどのくらいか?
・見せ場となる空間は、どう切り取れば印象に残せるか?
・寄りと引きの切り替えのベストなタイミングは?

などと考えるのは、映像におけるカメラワークに近いんじゃないかと思うんです。

そのカメラワークで撮れた映像を頭の中で再生しながら、言葉に置き換えていく感じです。

そして、ここで大事なのは、「聞いたこと」ではなく「理解した」ことを書くことです。

当たり前ですが、「取材した人が言っていたので書きました。でも実は自分ではよくわかっていません」はNGです(新人編集者の原稿にときどきあります)。

取材は自分の中で理解できたと思うまで聞く。そして原稿は、それを取材対象者の言葉を使いながら書く。

それが、読み手の納得感や腹落ちにつながるのだと思います。

座談会の原稿は、ハイライトシーンをつなぐ

対談や座談会形式の原稿(話者の名前の後に発言が続くタイプの原稿)は、インタビューとは全く違う考え方で書きます。

昔、ジブリの宮崎駿さんのインタビューを見ていたら、ポニョのメイキングが紹介されていました。

それによれば、宮崎さんは、最初にいくつかの描きたいシーンがあって(ポニョが波の上を走っているシーン、ポニョのお母さんが海を渡っていくシーンなど)、それをまず絵にする。それをカードのように並べて、ああでもないこうでもないと入れ替えながら、一つのストーリーにつなげていっていました。

シーンからお話ができていくのがアニメーターらしくて面白いなあ、と思ったのを覚えています。

実は、座談会などの原稿も少し似たところがあるんです。

皆さんは、座談会の記事って、話したことがどのくらい収録されていると思いますか?

実際に書いてみるとわかりますが、かなり削っています。
削っているというか、むしろ書く部分をピックアップしている、と言った方が近いです。

1時間半くらいのトークショーをテープ起こしすると、大体1万〜2万字。それを4000字前後に仕上げます。だから座談会原稿はどれもダイジェストです。

私の場合、まず話されたトピックスの中から入れるものを決めます。

・読み手にとって発見や気づきにつながる重要な発言(小見出しや抜き書きになる部分、と言ってもいい)
・座談会らしい掛け合いの面白さがあるところ

などが座談会のハイライトだと考えて、それを抜き出して、つないでいきます。
一番面白い部分に、読み手がストレスなくアクセスできる形で提供しようと心がけています。なので、話の順番などは実際話した順と変えてしまうこともあります。その方が気持ちよく面白く読めそうならそうします。

座談会自体をいつどこで終えるかというのは、テレビ番組でいう「撮れ高」の感覚と近いと思います。
これだけ、原稿化できるお話をしてもらったので大丈夫だな、という。

なお、補足で1点。座談会らしい掛け合いの面白さと上で書きましたが、ここで言う面白さは、場がドッカンドッカン沸いていることとは違います。

軽妙なツッコミやボケでトークが大いに盛り上がるのは、素晴らしいし、トークとしては大成功です。
ただ、それを書き文字にした場合、「(笑)」が続く原稿って読み手には逆に疎外感があったりして、思うほど面白くはないんですよ。

どちらかというと、静かに淡々と話しているトークショーの方が、原稿にした時には深みと読み応えが出たりします。

「いい座談会」の定義も、場合によって変わってくるんですね。

次回は、「いい取材って?」をテーマに書きます。

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