第6回神谷学芸賞発表
(2018/10/10記)
気づけば第六回を数える本賞。毎年、発表日がフラフラしていましたが、今年から一〇月一〇日で固定しようと思います。一〇月から翌年九月までの作品で、神谷の目にとまり、購入し、読んで琴線に触れた作品というルールは変わりません。
さて今年、割と早いうちから伊神作品に決めていた「銀」に比べ、牧野、韓、渡辺、新井の諸作品とで迷いに迷った「金」の武田作品。わけても新井作品と牧野作品は非常に面白く読みました。
ただ、新井さんは、先般、石橋湛山賞をお受けになったし、牧野さんも何らかの賞をお取りになるだろうということで、それぞれ部門賞に落ち着きました。
もちろんマニアの中には「山中作品なら『戦間期国際政治とE.H.カー』(岩波書店、2017/11)だろう!」とか、「山本作品なら『米国と日米安保条約改定』(吉田書店、2017/05)だろう!」というご意見はあろうかと…。
でも本賞の授賞基準はあくまで個人的な好みですのでお許しを。とくに山本作品はモロ好み。自分が担当編集だったらどんな風に仕立てたか考えてしまいますね。
余談ながら、最近、私が心の中で、山中作品と中谷直司さんの『強いアメリカと弱いアメリカの狭間で』(千倉書房)と大久保明さんの『大陸関与と離脱の狭間で』(名古屋大学出版会)をまとめて「狭間三姉妹」と呼んでいることは内緒です。
さて「金」について。日本には、こういう書き方でしか論じきれない事象が間違いなくあって、それはかつて山本七平さんが「空気」と呼んだものの延長線上、あるいは変転の末に表出していると思うわけです。
好き嫌いはあるでしょうが、いま言わないといけないことを、いま求められるスタイルで書く、というのはとても大事なことで、池内恵さんや細谷雄一さんがやろうとしていることとも通底するのではないかと愚考する次第。
しかし、これだけ意識的に新書・選書を外そうと意地悪しているにもかかわらず、今年も新書・選書の多いこと。ちなみに新潮選書の細谷作品と池内作品が入っていないのは、基本的にシリーズは完結まで賞の対象にしないという内規を急遽設けたせいです。
だってそうしないとお二人の生産性が高すぎて、複数回受賞を禁じていない神谷学芸賞は毎年差し上げなきゃいけなくなりそうで(笑)。
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第六回 神谷学芸賞(2018年度)
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◆金の神谷賞
武田砂鉄『日本の気配』晶文社 2018/04
◆銀の神谷賞
伊神満『「イノベーターのジレンマ」の経済学的解明』日経BP社 2018/05
◆鋼の神谷賞
山崎正和・田所昌幸『アステイオン創刊30周年ベスト論文選』CCCメディアハウス 2017/11
上川龍之進『電力と政治』勁草書房 2018/02
◆政治・経済部門
苅部大『関与と越境』有斐閣 2017/04
瀧川裕英『国家の哲学』東京大学出版会 2017/08
津山謙『「軍」としての自衛隊』慶應義塾大学出版会 2017/10
山中仁美『戦争と戦争のはざまで』ナカニシヤ出版 2017/11
山本章子『米国アウトサイダー大統領』朝日選書 2017/12
大竹弘二『公開性の根源』太田出版 2018/04
牧野邦昭『経済学者たちの日米開戦』新潮選書 2018/05 ★
◆社会・風俗部門
杉本仁『民俗選挙のゆくえ』梟社 2017/09
川邉信雄『「国民食」から「世界食」へ』文眞堂 2017/12
福島真人『真理の工場』東京大学出版会 2017/12
竹岡健一『ブッククラブと民族主義』九州大学出版会 2017/12
韓戴香『パチンコ産業史』名古屋大学出版会 2018/04 ★
中村高康『暴走する能力主義』ちくま新書 2018/06
◆歴史・思想部門
西股総生『杉山城の時代』角川選書 2017/10
藤原辰史『トラクターの世界史』中公新書 2017/11 ★
渡辺恭彦『廣松渉の思想』みすず書房 2018/02
島田英明『歴史と永遠』岩波書店 2018/03
與那覇潤『知性は死なない』文藝春秋 2018/04
先崎彰容『維新と敗戦』晶文社 2018/8 ★
◆自然・科学部門
松田雄馬『人工知能の哲学』東海大学出版部 2017/06
山本義隆『近代日本一五〇年』岩波新書、2018/01
新井紀子『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』東洋経済新報社 2018/2 ★
奥野克巳『ありがとうもごめんなさいもいらない森の民と暮らして人類学者が考えたこと』亜紀書房 2018/05
◆文芸・芸術部門
塚原史『ダダイズム』岩波現代全書 2017/02 ★
紀田順一郎『蔵書一代』松籟社 2017/07
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(2018/10/25追記)
しまったぁー。新書・選書をハードカバーと分けて置いてあったんですが、最終選考前に戻さなきゃと思いながら、すっかり忘れて置き去りにしてしまった本が二冊……。
いやはや大変失礼いたしました。國分良成さんの『中国政治から見た日中関係』(岩波現代全書)と武田悠さんの『日本の原子力政策』(中公叢書)に、第6回神谷学芸賞(政治・経済部門)を追贈します。