「ぜいたくはス敵だ!」ゲーム説明
印刷入稿も終わりましたので、2025年春のゲームマーケットに出展予定の拙作「ぜいたくはス敵だ」の説明書を転載します。
制作までの顛末については以下をご一読ください。
ゲームの概要
プレイヤーは、それぞれ異なる価値観を持つ3つの世界に属しています。
各プレイヤーは、自分の世界にありそうなオリジナル標語を創作・発表し、他のプレイヤーはその標語を手がかりに、どの世界に属しているのかを推測します。
以上のように価値観のズレや一致を楽しみながら、標語を作る大喜利形式のゲームです。
カード構成
「標語」カード100枚
戦前の日本に実際にあった国策標語が書かれています。
標語以外のテキストはゲームに直接関係ないフレーバーであり、その標語が作られた年、作った団体、そして国策標語の下で、人々がどのような本音で生きていたのかというのを、実際の日記から引用しています。
「役割」カード9枚
「不自由な世界」「自由な世界」「無秩序な世界」のキャラクターが描かれています。
ゲームの進行-標語作成
標語カードの準備
「標語」カード100枚をシャッフルし、裏面のまま1つにまとめて山札を作ります。お題の決定
任意の方法で「お題」を決定してください。(例:説明書に記載の「お題一覧」から選ぶなど)手札と役割カードの配布
各プレイヤーは「標語」カードを山札から3枚引き、手札とします。
「役割」カード9枚をシャッフルし、各プレイヤーに1枚ずつ配ります。
余った「役割」カードは使用しないので、端に避けてください。
配られた「役割」カードは、他のプレイヤーに見せず、自分だけが確認してください。標語の作成
手札の「標語」カードのフレーズを組み合わせたり、改変したりして、「お題」と自分の「役割」に沿った標語を作成します。
作成が難しい場合は、現在の手札をすべて捨て、新たに山札から3枚引き直すことができます。
余裕がある場合、標語を発表する「団体名」も併せて考えると、さらにゲームが盛り上がります。標語の発表
標語が完成したプレイヤーは、紙に標語を書き(あれば団体名も記載)、声に出して発表してください。
役割カード説明
それぞれの「役割」に応じて、以下の世界観に沿った標語を作成してください。
不自由な世界
このプレイヤーは、理不尽なルールを強要され、不自由な世界で暮らしています。日常のあらゆる場面で監視の目が光り、本音を隠しながら生きているのが特徴です。
そのような不自由な世界にありそうな標語を作成してください。
例:標語「ゲーマーなら 初手ガチャ引きはしないはずだ」 団体名「ゲーマーマナー普及協会」自由な世界
このプレイヤーは、ぜいたくを咎められることのない自由な世界で暮らしています。ただし、自由には権利と義務があり、一定の秩序が保たれているのが特徴です。
そのような自由な世界にありそうな標語を作成してください。
例:標語「ゲーム初心者 笑顔のインスト」 団体名「ボドゲ同好会」無秩序な世界
このプレイヤーは、自由と不自由の対立を超えた、無秩序な世界で暮らしています。この世界では既存のルールや価値観が破壊され、混沌とした光景が広がっています。
そのような無秩序な世界にありそうな、意味が通じそうで通じない、滅茶苦茶な標語を作成してください。
例:標語「無限の手番 無限の勝利」 団体名「ゲームバランス破壊推進委員会」
ゲームの進行-役割推理
1.全員の標語が発表された後
すべてのプレイヤーが、それぞれどの世界の住民かを推測します。
2. 推測の方法
ある一人のプレイヤー(以下、「当該プレイヤー」)について、その役割を推測します。
当該プレイヤー以外の全員で相談しながら、意見をまとめて決定してください。
注意: 推測中、当該プレイヤーに対して質問をすることはご遠慮ください。
3. 役割の確認
推測が決まったら、当該プレイヤーに向かって以下のように質問します:
「あなたは『不自由な世界』『自由な世界』『無秩序な世界』の人ですか?」
当該プレイヤーは「役割」カードを公開し、自分が属する世界を宣言してください。
4. 全員の推測が終わるまで繰り返す
この手順を全プレイヤー分繰り返し、すべての役割を推測します。
5. ゲームの目的
全員が協力して各プレイヤーの世界を当てることが、このゲームの目標です。
特に勝利条件や終了条件は設けていません。
満足するまで繰り返しプレイし、楽しんでください!
標語お題例
以下は、このゲームで使用出来そうなお題例です。
◆ シチュエーション~にありそうな標語
おとぎ話の王国/RPGの最初の町/魔法学校/魔王城/攻略済みダンジョン
巨大ロボット/宇宙船/月面のコロニー/ハリウッド/心霊スポット/マフィアのボスの部屋
西部劇の酒場/忍者の隠れ里/江戸時代/オアシス/ピラミッド内部/闘技場
学校の教室/居酒屋/厨房/警察署/漁船/登山道/田舎のおばあちゃん家/銭湯
公園/病院/建築現場/遊園地/喫煙所/美術館/ゲームセンター
平安時代 / 鎌倉時代 / 戦国時代 / 江戸時代 / 明治・大正時代 / 平成初期
アメリカ / イギリス / ロシア / 中国 / 韓国 / アフリカ / 中南米 / 孤島 / 北極
ゾンビから逃げてやってきた避難所/悪の秘密結社/スパイ組織/カジノ/駅/寺社
◆ 具体的なモノ・コトの標語
SNS利用/推し活/AI・テクノロジー/ペット飼育/結婚生活/スマホ利用/食事
健康/恋愛/環境問題/郷土 / 税金 / 飲酒・喫煙/シニア世代/旅行・観光
バレンタインデー/ クリスマス/夏休みの過ごし方 / 運動会/料理/新学期の始まり
台風シーズン/海水浴/自分が人生で守りたいルール/防災/ゴミ分別/宇宙開発
地元の祭り/電話・メール /時間 / 人間関係/国際社会 /電力 /旅行 /流行
歴史 / お正月 / 労働 / 公営ギャンブル/ボードゲーム / テレビゲーム
ゲームの背景
1945年以前の日本では、国民や社会全体を戦争に“動員”する目的で、「国策標語」と呼ばれるスローガンが広く掲げられていました。これらの標語は、新聞広告やカレンダー、ポスター、街頭掲示板など、日常生活のあらゆる場面に浸透し、人々の意識に直接的な影響を与えるツールとして機能していました。
有名な例として、「ぜいたくは敵だ」や「欲しがりません勝つまでは」といった標語が挙げられます。これらの標語は、国民全体を戦争協力へと導く役割を果たしていました。
しかし、これらの標語が国民全員に心から受け入れられていたわけではありません。表向きの忠誠心や一致団結の姿勢の裏には、多くの人々の複雑な本音や葛藤が存在していました。「標語」カードで引用されている当時の人々の日記には、不自由な社会に対する皮肉や反発が刻まれています。
戦争に必要な物資を確保するために質素倹約が強要され、さらに相互監視による抑圧的な生活環境の中で、個人の自由は大きく制限されていました。そのような中で「ぜいたくは敵だ」と書かれたスローガンに「ス」を付け足して、「ぜいたくは素敵だ」と落書きした人がいたと言われています。このような行動は、当時の不自由な社会を鋭く風刺したものとして、時代を象徴する逸話の一つです。
このゲームは、こうした戦前社会の矛盾に着想を得て制作されました。単に歴史を振り返るだけではなく、国民に不自由を強要した国策標語を自由に改変することで、プレイヤーに「自由」と「不自由」の意味を問いかける場を提供します。
最後に、このゲームを通じて、戦前の日本に多くの国策標語が存在し、それが当時の人々の日常生活にどのような影響を与えたのかを知るきっかけになれば幸いです。同時に、そのような標語に支配された、不自由な世界に生きた人々の思いや葛藤に思いを馳せていただければと思います。
さらに、これらの国策標語を大胆に改変し、ユーモアや風刺を交えて笑い飛ばすことで、過去の歴史を振り返りながら、現代の平和で自由な社会の価値を再認識する契機となることを願っています。
このゲームをプレイしていただき、ありがとうございました。
※ 本ゲームには、国策標語に含まれる差別的な表現や、過去の戦争を肯定する意図は一切ありません。
■ 参考文献及び引用
傑作国策標語大全. 大空社 / 外交五十年. 幣原喜重郎 / 西園寺公と政局. 原田熊雄
敗戦日記.高見順 / 断腸亭日乗. 永井荷風 / 山本周五郎戦中日記. 山本周五郎
戦中派不戦日記 山田風太郎 / 暗黒日記. 清沢洌 / 古川ロッパ昭和日記. 古川緑波
大佛次郎敗戦日記. 大仏次郎 / 渡辺一夫敗戦日記. 渡辺一夫
焼けないでくれた戦中日記. 小松道男 / 十七歳の敗戦日記. 津田伸