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CROのためのRevOpsダッシュボード公開

この記事はBizOpsアドカレ 24日目の記事です。メリークリスマス!

前回は株式会社マネーフォワード齊藤さんによる「Salesforce障害の影響と今後の対策」でした。

BizOps Advent Calendar 2024

こんにちは。セールス&マーケティング活動は、いつでもダッシュボードから確認できるようにしたいhacomono上村です。

はじめに。良い事例って?

B2Bマーケティングやセールステックの領域は"事例"がたくさん流通しています。様々なベンダーがこぞって優秀なユーザを取材し、事例コンテンツとして公開していますね。

さて、多数の事例が公開されているなか、
読み手であるユーザにとっての良い事例とはどんなものでしょうか?

僕自身、駆け出しの頃からいろいろなセミナー・カンファレンスに足を運んで様々な先人の事例から学ばせてもらいました。改めて感謝です。

一方で、いざマネしてみよう!と思うと、行き詰まることもしばしば。

多くの事例発表において、具体的な情報は語られません。背景や概念だけしか語られなかったり。あったとしても断片的な画面キャプチャとかだけ。

そういった情報量なので、実務屋が実際にやってみようと思うと行き詰まってしまいます。

そんな玉石混交な事例がたくさんある世の中なので、僕としては自分が登壇・発表するときはできるだけ「聞いた人が自社にパクれる事例」にしたいと思っています。それくらい実用的で、真似しようと思えばやり方がわかるくらい具体的なもの。それが読み手であるユーザにとって良い事例だと思うのです。

というわけで今回は、hacomonoで使っているRevOpsダッシュボードの事例公開です。


継ぎ足し続けて育ったRevOpsダッシュボード

2022年4月に僕がhacomono入社して初月に作った「hacomono Scan」という名のLookerダッシュボード。その時その時の事業課題に応じて、少しずつ見られる情報を増やしたり、要らなくなったものを削ったりして、老舗の秘伝のタレのように継ぎ足ししてきました。

当初は、自分とCOOとCFOしか見ない、社内でも知る人ぞ知るなダッシュボードでしたが、最近は毎週の経営会議でもこの数値を見ながら進捗を見ることが習慣化しています。営業VPもhacomono Scanを見ながら、今月のフォーキャストや営業メンバーごとの受注率を確認したりと用途が広がっています。

もし僕が違う会社に行くとしても、RevOpsと呼ばれるレベニューオペレーションの全体像を把握するためのダッシュボードは同じようなものを作るでしょう。一家に一台的なノリで、事業に1つあったほうがいいと思うのですよね。

そんな秘伝のタレのダッシュボードを公開したいと思います。

こちら、コピーして中身の構造をそのまま見ていただくことができます。元となっているデータソースにもアクセスできます。

いわゆるCOO、CRO、CMO、事業責任者、営業責任者、PdMのような事業全体を俯瞰したい人にとっては、こういうのあると便利だなと思えるものじゃないかなと思います。

もし「うちでもあったらいいかも!」と思ったなら、自社のBizOpsチームにこのURLを送って「これ作って!」とリクエストしてみてください。きっと対応してくれると思います。

ダッシュボードの実物はこちら↓をクリック。

⚠️ RevOpsダッシュボードを公開!とはいえ、hacomonoの実際の事業データは公開できませんので、中身はhacomonoの架空の新規事業である『飲食店向けのSaaS "haco-eat"』のデータに置き換えています。
ChatGPTでリアルなダミーデータを11,000レコード生成してもらいました。

架空の新規事業は、バーティカルSaaSならみんな大好き、米国toast社のイメージです


どんなダッシュボードなの?

6種類のページに分かれています。それぞれ少しずつ解説します。

1)商談推移

作成月ごとの商談推移です。オレンジの折れ線が商談数。灰色の棒グラフが商談金額。オレンジの棒グラフが受注金額。1番下の%が受注率です。

haco-eatのブランドカラーに合わせてメイン指標はオレンジに

事業責任者の目線においては、全体を俯瞰するような集計値の概況把握と、それを構成する一つ一つの商談の内訳(N1)の把握が大切だと思っています。それの両方ができます。

例えば、2024年12月をクリックすると、その下の商談明細が12月に作成された商談だけに絞り込まれます。商談名をクリックすれば、Salesforceの商談ページに遷移することができる※ので、ISやFSが残した具体的な案件詳細やヒアリング内容にすぐ辿り着けます。
※haco-eat Scanにおいては飛ばす先のSalesforceがないので、このnoteに遷移するようにしてます

上のグラフをクリックしたら、その下の明細も絞り込まれる

1番上のプルダウンを操作すれば、特定の業種に絞って商談数を確認したり、特定の営業グループや担当営業に絞って推移を見ることができます。

例えば、営業担当の富家さんに絞って見てみると2024年の夏ごろから急激に受注率が高まっています。何かコツをつかんだのでしょうか。周りの営業メンバーに横展開をしたら、全体の底上げになるチャンスがあるかもしれません。

2)受注明細

デイリーで、受注に至った商談を一つ一つ確認することができます。毎日積み上がっていくこのグラフを確認するのは朝の日課です。

今月の受注額。折れ線は累積額で、棒グラフは日別。色の違いは販売プロダクト。

毎月何十社も受注するようなトランザクションの多い事業だとつい忘れがちですが、その受注MRRを作っているのは一つ一つの案件であり、そのサービスを買ってくれた一人ひとりの人間が裏に必ず存在します。

誰が何の商品を買ってくれたのか。どんな課題を持っていて、誰とどんなやりとりをして購入に至ってくれたのか。そういった生々しい顧客理解は、集計された数字を見ていても情報が増える事はありません。

気になる案件があったら、商談名をクリックすればSalesforceの商談ページに飛べます。IS・FSがヒアリングしてくれた情報や、活動の内容。見積の詳細やときには商談動画まで見にいってもいいかもしれません。受注を構成するN1の情報にすぐにたどり着くことができます。

3)SMBフォーキャスト

毎月毎月の受注額を追いかけるような、リードタイムの短いSMB事業のためのフォーキャストダッシュボードです。

このままいくと、今月の着地は231万円。

左のグラフは、月額請求開始月ごと※の受注額の着地見込みです。フェーズごとに確度を掛けた着地見込み額が表示されています。
※事業によっては、完了予定月でもいいですね

これを見ると、12月請求開始分は184万円は受注完了していますが、残り50万円弱が未確定で残っています。目標に足りてない分は、残った案件を一つ一つ確認して、1社でも多く12月請求での受注ができるよう最後の追い込みが必要です。すぐ下に明細があるので、その候補となる案件とその所有者もすぐにわかります。

右のグラフは確度掛けをしていない純粋な提案MRRのグラフです。これを見ると、翌月の1月請求開始分は着地見込みこそ大きいものの、フェーズの浅い案件が大量に滞留していますのでリスクが高いです。本当にその月に受注させる注力案件と、翌月以降に回す案件を精査して、受注に向けたフェーズアップ活動を推進していく必要があります。

4)エンプラ用フォーキャスト

SMB向けフォーキャストと似ていますが、左のグラフが6カ月間の累積数値になっています。

このまま行くと、10月〜3月の下期で725万円

エンタープライズ案件は一般的にリードタイムが長く、毎月の受注MRRも大きく上下しがちです。こういう事業の場合は、毎月の予実数値を見ても戦況が把握しづらいので、四半期や半期など、中長期の目線でフォーキャスト管理をしていくことになります。それに適したダッシュボードにしています。

5)商談内訳

四半期ごとの商談リードソースと業種カテゴリの内訳です。

事業の成長と共に、主力のリード獲得チャネルもだんだんと変わっていきます。相対する顧客セグメント(業種やPMF度合い)によっても、適したリード獲得チャネルは変わります。

そういった変化に早めに気づき、先回りで対処していくためのボードです。概況を掴んだら、商談推移ボードと合わせてそれぞれのセグメントごとの受注率や案件詳細を見に行きます。

6)Go to Market

業種別に、受注四半期ごとの獲得MRRを表示したボードです。

受注ペースが上がっている業種、横ばいな業種、逆に下がってしまっている業種のトレンドの概況を確認します。

大きなトレンドを見ると、自社の売り上げを牽引してるセグメントと、まだ貢献が小さいセグメントが定量的にわかります。特定の業種やプロダクトのGo to Marketに集中しているとそこに意識が引っ張られがちですが、全体に占める割合の感覚は常にアップデートしておきたいものです。

プロダクトポートフォリオの観点で、花形であればどんどん投資をし、金のなる木であれば過剰な投資を抑えます。そして、将来の花形になりえる問題児セグメントを見極めて、戦略的に投資をして次の花形にしていく意思決定こそが事業責任者の腕の見せ所だと思っています。

エクセル関数ですぐ計算できるように、今あるセグメント構成で1.X倍・1.X倍、、、と毎年倍々ゲームにはなってくれればラクなのですが、残念ながら現実はそうはならないので、変化する事業環境を先読みして先手を打たないといけないのですよね。

ちなみに、本家のhacomono Scanでは他にもこんな指標が見えるようになっています。
・今月の受注目標に対する日次予実
・今月の商談目標に対する日次予実
・毎月の請求MRR(製品・業種・取引先別にドリルダウン可)
・ARPU推移
・販売注力プロダクトの進捗
・新機能の利用度合い進捗
・Churn Rate推移
・NRR推移
・SaaS利益率の推移
etc…

使ってみて感じる、RevOpsダッシュボードの便利な点

実際にこのRevOpsダッシュボードをいちユーザとして使っている中で感じた利点をまとめると、

1)戦況を簡単に把握できる
いろいろなファイルやSalesforceのダッシュボードを見にいかなくても、1つのURLで戦況を把握することができます。僕自身は、Google Chromeの起動時ページセットに含めているので、パソコンを立ち上げるとまずはこのダッシュボードを見て、ささっと今月のフォーキャストや、昨日の受注案件、商談作成ペースを確認するのが日課です。

2)集計値からN1明細に簡単にアクセスできる
集計値だけを見ていると、どんどん現場の感覚に疎くなりがちです。そうならないよう、集計値を構成している一つ一つの案件、それの裏にいる人間が想像できるように、N1の明細情報に触れておくのは大切だと思っています。このダッシュボードからワンクリックでSalesforceの商談ページに飛んで確認して、気になる案件は営業に聞いたりしています。

3)フィルターとドリルダウンが自由自在
集計値は、細かいセグメントに絞ってみたりクロス集計してみると具体的な発見があります。そういったフィルターやドリルダウン、軸の変更がしやすいのはBIツールの利点です。これを、SalesforceダッシュボードやExcel集計、ピボットテーブルでやろうとするとちょっと大変です。

4)経営会議でリアルタイムでファクトを出せる ← これがでかい
経営会議のためにデータ集計をする必要がありません。その場でこの画面を映すだけ。
議論をする中で「あの数値って最近はどうなってる?」とか、「XXという仮説があるんだけど、、」となってもその場でファクトが出せます。持ち帰って翌週報告、、なんてやってたらスタートアップのスピード感で荒波を乗りこなすことはできません。

5)社内に広くアクセス権を付与できる
Looker StudioはGoogle Workspaceにバンドルされたプロダクトです。会社でGoogle Workspaceを使っていれば、追加費用なく任意の社員にアクセス権を付与できます。この点は、閲覧ユーザ数によって課金する通常のBI製品と、決定的に差がつく利点だと思っています。(その分、できることは限られますけどね)

hacomono社においても、このダッシュボードのためのシステム費用は0円です。コードもクエリも一切書いてません。完全にノーコードのダッシュボード。

コストもゼロで、作成難易度も低いRevOpsダッシュボード。
やっぱり、1社に1台あったらいいんじゃないかと思っています。



BizOps向け:具体的にどうやって作るの?

もしかしたら、ある日突然、事業責任者に「これみたいなダッシュボード作っといて!」とむちゃぶりされた方が、この記事に辿り着いて読んでくれているかもしれません。すみません。原因を作ったのは僕です。

ちゃんとその上司のご期待に応えられるよう、責任持って具体的な作り方も記載しておきます。

中級者向けのざっくり解説

TableauでもQuickSightでも、BIツールをちょっといじったことがあるという方で、Salesforceのシステム管理者もしている人はこの文脈で言えば中級者でしょう。コピーして中身を見ていただければ、だいたいわかるかと思います。

以下の手順でご自身のGoogleアカウントにコピーして中身を直接見てください。

右上の「⋮」をクリック > コピーを作成

a)データの流れ

データの流れは「※設計図※」のタブで書いた通りです。右から辿って、Salesforce → スプレッドシート → Lookerのデータソース → ダッシュボード、ですね。

データ元になっているスプレッドシートのカラム構造は以下です。18項目だけ。Salesforceの商談によくありそうな項目ですよね。この項目を載せたレポートを作って、それをスプレッドシートに毎日抽出していきます。

取引先ID
取引先名
商談ID
商談名
作成日
商談 所有者
業種
受注日
フェーズ
提案MRR
月額請求開始月
案件区分
リードソース
提案商材
企業区分
業種カテゴリ
営業部
営業グループ

b)データ加工

必要に応じて、Salesforceから抽出したデータを適宜加工します。
haco-eat Scanにおいては、スプレッドシートの段階で「業種カテゴリー」「営業部」「営業グループ」の3項目を、ARRAYFORMULAと、XLOOKUPを使って項目を増やしています。

加えて、Looker Studioのデータソースの段階で、「着地見込」と「商談名2」の2項目を加えています。特にハイパーリンクを伴う「商談名2」はデータソース側のカスタム計算フィールドとして作成しないと上手く動作しません。

商談名2のサンプル数式
HYPERLINK(concat ("https://(私のドメイン).lightning.force.com/lightning/r/Opportunity/" , 商談ID(18桁) , "/view"), 商談名 )

c)グラフ固有の計算フィールド

一部のグラフには、元データの指標をそのまま使うのではなく、計算フィールドとして数式化したものがあります。

  • 例1:商談推移グラフ 受注率
    sum ( if (フェーズ = "5_受注完了" , 1 , 0 ) ) / sum ( Record Count )

  • 例2:受注明細グラフ 予約台帳
    if ( 提案商材 = "予約台帳" , 提案MRR , 0)

d)高速化処理

「データの抽出」を使うと動作が速くなります。ダッシュボードはサクサク動いてくれるのが、ものすごく大事です。

haco-eat Scanはたかだか11,000レコードなのですが、この処理をするのとしないのではけっこう違います。体感いただくために「※速度比較※」のタブに4種類並べてみました。

抽出すると読み込みは0.5秒以内。スプシ直結だと3秒とか12秒とか。。。

抽出をする/しないの2つと、データ量を5倍に増やした55,000レコード版の2つを加えた、計4つです。

プルダウンを操作して絞り込みをかけてみたり、右上の「⋮」から「データを更新」で再読み込みすると、その差がわかると思います。

正直、せっかちな僕の感覚だと、データ抽出してないグラフは読み込み速度が遅くて使い物になりません。。

e)おまけの応用編

少し応用すると、元データに予算データを加えて予実分析もできます。GASを使って1日1回集計値を別シートに保存すれば、Salesforceのレポートスナップショットに相当するような処理をすることもできます。

データ量が10万レコードを超えるような状況なら、スプレッドシートでは限界が来るでしょう。BigQueryにスプレッドシートを接続して、BigQueryのテーブルにデータを定期的に流すような処理が必要です。

データ量がもっと多くなるならばスプレッドシートを介さずTOROCCOを使ってBigQueryに流すとか。

GASコードやBigQueryのクエリとかなら、ChatGPTに依頼すれば書いてくれます。僕もよくお世話になっています。


初心者向けの解説

「ノーコードで作れて作成難易度は低い」「コピーできるから中身を見ればわかる」、、、とは言ったものの、Salesforceのレポートやダッシュボード、エクセルグラフが主戦場で、各種BIツールを全く触ったことがない方だとけっこう大変だと思います。ごめんなさい。

今回のRevOpsダッシュボードを再現するために最低限必要な手順をブロック分けすると以下のようになります。

  1. Salesforceのレポートを作る(今回の場合は商談レポート)

  2. Salesforceのデータを、スプレッドシートに定期抽出する

  3. スプレッドシートのデータを、Looker Studioで読み込む

  4. Looker Studioでグラフなどを作る

もし、1.の段階を対応するのが困難な方にまで、この記事を元にしたむちゃぶりが飛んでしまっていたら、、、本当にごめんなさい。
依頼者に「この記事の言う「作成難易度が低い」は、うちの会社では当てはまりません」と突き返してください。僕の主語がでかすぎましたです。

2.については、以下の記事が画面キャプチャ付でとてもわかりやすいです。

3.については、以下の記事が必要十分な情報量でちょうどいいと思います。

4.については、世にいろいろな記事がありますが、実際に好き勝手に触ってみるのが一番かと思います。Googleのプロダクトなので公式のサポートサイトや入門ガイドもあります。


データ活用がアタリマエな世の中と、その担い手BizOps

BizOpsが担うべき領域の1つであるDataOps領域の期待役割として、以下のようなことが実現できる体制作りがなされてほしいなと思っています。

DataOpsの期待役割
経営陣と密連携してタイムリーな洞察ができる全社の業績測定システムを構築し、ファクトに基づいた信頼できる意思決定を支援します。

会社全体のKPI測定・レポーティングを行い、全社目標に沿って正しく成長できているかを分析・可視化する
・経営陣と協力して現場目標を財務計画に合わせ、ビジネス全体の投資収益率を分析・可視化する
・データサイエンスとビジネス分析により、現場の運用を最適化してスケール可能にするオペレーション体制を作る
強力なパイプライン生成エンジンを構築し、データとシステムを活用して成果を高めるグロース体制の構築を支援する

かつて掲載されていた、Service Titan : Senior Vice President, Business Operations & Analyticsの求人票より意訳

変化の激しいマーケットに身をおいていたり、急成長を目指すスタートアップの経営陣にとっては、日々変わっていく事業環境を定量的に捉えられるデータ環境は、自身の判断力を鈍らせないためにも重要なインフラになると思っています。

ビジネスの舵取りをする経営陣が、データを活用して素早く戦況把握をし、仮説を検証し、効果的な意思決定を下す。データ活用がアタリマエな世の中に。
その先には、それぞれの事業が向き合うお客様に対して、もっと素敵なサービスを提供できる未来があるように思います。

そんな未来を作ることに、各社のBizOpsチームが貢献することを願っています!


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改めて、ダッシュボードの実物はこちら↓をクリック。

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