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神話28|山歩きで出会う神々:猿神面(えんしんめん)
猿彦は小さな体の小猿で、いつも仲間にからかわれていた。ずっと好きだったあの子にも、話しかける勇気など持ち合わせていない。そんな彼に天狗が現れ、「満月の夜に『猿神面(えんじんめん)』を被れば、巨大な猿となり、強い力が得られる」とささやいた。天狗の言葉に胸を弾ませ、猿彦は満月の夜を待った。
その夜、彼女が森で誰かに連れ去られそうになっていると聞き、猿彦は手に汗を握って猿神面をかぶった。みるみる体が大きくなり、巨猿の力が彼に宿る。圧倒的な力で彼女を救い出すと、彼女は驚きと感謝の眼差しを向け、満月の次の夜に熊野の滝の神社で再会を約束してくれた。その約束は、猿彦の小さな胸を満たす暖かな希望になった。
神社へ向かう途中、猿彦は道端で倒れた旅人を見つける。助けたい一心で猿神面をかぶり、再び巨猿となり、傷ついた旅人を背負って険しい道を越えた。しかし、その途中で猿神面が枝に引っかかり、ぱきりと音を立てて壊れてしまった。
小猿に戻り、猿彦は神社にたどり着く。小さな姿のままで彼女の前に立つと、彼女は穏やかに微笑んだ。「面がなくても、あなたは変わらず優しいのね」。その言葉が柔らかな風のように猿彦の心に染みわたり、静かな満月の夜に、ただ二人の影が寄り添っていた。
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