親父と俺（４）：俺が泳げない理由（笑）
さて、私の幼少時、親父がスパルタだったという話。
でも、普通のスパルタではなかったんですよ。親父は、普段あれやるな、これやるなとかいうような堅い人ではなかった。
ただ、周りの子がみんなできるのに、息子だけできないで小さくなっているみたいなのをみるのは我慢できないらしく、そうなるとスパルタが発動された。
前回言ったことだが、「仮死」で生まれたせいか、私は最初から器用にできるということが１つもない。どんなことでも人より遅れたところからスタートすることになっている。今でもそうだ。最初から簡単にできることが、なにもないんですよ、ホントの話。
最初に覚えている、親父のスパルタ発動は、3歳か4歳のときかなあ。幼稚園でのことだったと思う。
私は幼稚園は、私立だったんですよ（笑）。地域のちょっといいお家の子が通っていた、制服があって、バスで送り迎えしてくれる私立の幼稚園（笑）。
似合いませんよねえ、私には。
実名をいいますけど「帝京幼稚園」。ラグビーの帝京大、野球とサッカーの帝京高校の学校法人の幼稚園です。帝京の創始者の沖永壮兵衛が大洲の出身だったので、帝京第五高校、帝京幼稚園が近所にあったのだ。
帝京第五といえば、3年前に夏の甲子園に出たので、観に行った。家を出る時「10点差で負けるぞ」と予言したが、「村神様」の弟にフェン直打たれ、「大洲南中の4番打者」の後輩が序盤で肉離れ起こして退場など、散々な試合となり、ほんとに10点差で負けた。
愛媛野球、ほんとに深刻な弱さです（涙）。
それはともかく、帝京幼稚園なのだが、私は入園試験では、ほとんど発達が遅れた子としか思えない低パフォーマンスだったらしい（涙）。両親が床に頭をこすりつけるがごとく園長先生に土下座してお願いし倒して「上久保先生の息子さんじゃけんのー」と、お情けで入れてもらったようなもんだったらしい。
で、問題はプールの時間。私は怖がって水に入れない上に、ようやく入ったら溺れかかったらしい（涙）。
それを聞いた親父のスパルタが初めて発動された。
夏休み、親父が働いていた学校、名前言っていいかな「喜多小学校」。当時住んでいた家から徒歩5分。親父に連れられてそのプールに行った。
プールには、たくさんの小学生が泳いでいた。その前で、親父のスパルタが始まった。
親父は、私をプールに何度も何度もぶち投げたのである（笑）。
私は、投げられるままに、プールの中で、ひえええええっと、悲鳴にもならない悲鳴を上げていた。
親父は、自分で息子をぶち投げて、自分で拾いに行って、またぶち投げる、を繰り返した。
これ、立派な虐待ですよね、今だと。
で、泳げるようになったかというと、これが原因で、私は小学、中学、高校とずっと5メートルくらいしか泳げなくなった（笑）。
いや、親父のスパルタはその後、いろいろな成果を挙げて、中学の頃は私はスポーツ選手として全盛期を迎え、大洲市内でも指折りの実力だったと思いますよ。
でも、私はあくまで「陸の王者」（いや、これは母校のライバル校）。水には一切入れず、体育の授業は「陸」では常にどや顔なれど、「水」では、補助プールで別メニューで、小さくなっていた（涙）。
親父も、最初はどうしていいか、わからんかったんでしょうねえ。酷い目にあいました。
それから40年後。驚くべきことが起こった。
私は、立命館大学政策科学部准教授として、新入生の「基礎演習」を担当していた。1回目の授業が終わった時、1人の女子学生が声をかけてきた。
「私の父が、先生のことを知っていると言ってます」
「え？どういうこと？？」
「私の父が、先生のお父さんの教え子なんです？」
「どこの小学校の？」
「喜多小の教え子です」
それだけで偶然の出会いに驚きだが、ここからが本当の衝撃だ。私は聞いた。「それで、お父さんはいつ、僕のことをみたの？」
「お父さんは、先生が、先生のお父さんから、プールに何度も何度もぶち投げられていたのをみたと言っています」
がああああああああああああああああああああんんんんんんん。
あ、あのプールぶち投げを目撃した人の娘が、私の教え子に？？？
頭がクラクラしてきた。
その学生は、勉強は少々苦手だったが（笑）、私のすべての教え子の中でも屈指のオープンマインドの持ち主。留学生に対してもまったく臆することなく友人をどんどん作っていくたくましさがあった。
「霧の小京都・大洲」は、シャイで内向的な人が多いといわれることがあるが、この子はまったく大洲人っぽくない規格外だった。
卒業後、海外に出ていった。その後、アフリカにいるとかいないとか、話は聞こえていた。今も外国にいるらしい。すばらしいことだ。
その学生のお父さん（親父の教え子）には、学生の卒業式の時に私に挨拶に来ていただいた。親父のプールぶち投げの話題で盛り上がった（笑）。