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講演「既存政党VSポピュリズムの現在地と未来」(前編)

11月28日(木)と12月12日(木)に、学内外で講演をしました。

11月28日(木)は、「立命館大学大学院政策科学研究科」と「立命館大学OIC総合研究機構地域情報研究所の共催(長いわ=笑)のシンポジウム“Is the Nordic welfare model facing an enormous shaking period in the 2020s?
Dialogues between the Nordics and Japan”(2020年代の北欧福祉モデルは巨大な揺らぎに直面しているのか? 北欧と日本の対話」)です。ここで、”Welfare Policy as a Political Quarrel: Traditional Parties versus Populists"と題して講演しました。

12月12日(木)は、共同通信・愛媛新聞社共催の「愛媛政経懇談会」で『石破政権の行方とトランプ再選による影響』と題して講演しました。

どちらも内容的には同じような話をしました。それらを前編、後編の2回にまとめて、今年の国内政治、国際政治を考えるたたき台としたい。

今回は、講演録ということもあり、やや何時もより堅い文体になりますが、ご容赦を(笑)。

1.大衆迎合主義 (ポピュリズム)の広がり
(1)ポピュリズムが世界中に広がっている:
ポピュリズムが世界中に広がっている。  その始まりとなったのは2016年。英国が「EU離脱」を国民投票で決定した。また、 米国大統領選挙で、移民やイスラム教徒を排斥 する過激な言動を繰り返したドナルド・トランプ氏が当選した。

2017年、フランス大統領選で極右政党「国民戦線」の マリーン・ルペンが決選投票に進出した。 ドイツ、オーストリア、スイス、イタリア、オランダ、ベルギー、 スウェーデンなど 欧州諸国では、ポピュリズム政党が勢力を拡大した。

(2)「ニューノーマル」としてのポピュリズム:
現在では、 左右のポピュリズム勢力が各国で約30%の票を獲得した。 オーストリア議会選挙(2024年)では、 ネオナチ系の自由党が過去最大の議席数を獲得。

ノルウェー、フィンランド、イタリア、ギリシャ、スイス、 オーストリア、ハンガリー、ブルガリア、スロバキア、 ポーランドなどで、左右のポピュリズム政党が連立政権に加わるようになった。ポピュリズム政権は「ニューノーマル」と呼ばれるようになった。

2024年11月、アメリカ大統領選挙でのトランプ大統領再選は、ポピュリズム現象の1つの完成形であろう。

(3) ポピュリズム発生のメカニズム ・
ここで、ポピュリズム発生のメカニズムをまとめてみたい。新自由主義改革の時代(1980-2008年頃まで) に、労働党(社会民主党)と保守党が、 政権獲得のために都市部中道層の票を獲り合うようになった。労働党と保守党の政策が似てくるようになった。一方、極左(労働党のコアな支持者)と 極右(保守党のコアな支持者) は、労働党、保守党から軽視されるようになった。コアな支持者は、どんなことがあっても、対立する党に投票することはないからだ。しかし、地方(極左+極右)と都市部の格差が拡大することで、極右、極左は不満を募らせることになった。そこに、極右と極左の要求にダイレクトに応えるポピュリスト政党が登場し、支持を拡大した。

また、「グローバル」なポピュリズム発生パターンがある。例えば、EUの場合である。 EUの単一市場の中で、ドイツのモノ(自動車など)が 売れて、ギリシャ、ポルトガルなどで、自国の産業が淘汰された。 自国に仕事がなくなり、若者がドイツに職を求めて移民していった。 彼らは、ドイツでの不遇な待遇を受けて、ポピュリズムを支持する。

一方、 自国の残された人は、民間企業の仕事がなく、公務員として雇用される。公的部門が肥大し、それらのくにでは 財政赤字が拡大する。経済が破綻するが、ドイツからは肥大した役所を批判 されて、緊縮財政を求められる。 政府(+EU)への不満が高まり、ポピュリズムに走るようになる。

ただし、ポピュリズム現象を抑制する動きがみられる国もある。2024年、2回投票制のフランス総選挙では、 . 第1回投票で極右政党が勝利した。しかし、  第2回投票では結果が異なり、極左政党が勝利した。最終的に、エマニュエル・マクロン大統領は中道右派から首相を選出した(ただし、この内閣は短期で崩壊)。

また、英国の総選挙 では、 労働党への政権交代が起こった。極右政党が保守党から票を奪った結果だ。だが、極右政党の得票率は約15%だったが、選挙制度(小選挙区制)のせいで、議席をほとんど獲得 できなかった。

2.日本: ポピュリズムは広がっていない
(1)日本ではポピュリズムは広がっていない。
民主党政権時、自民党よりさらに右に「次世代の党」など 右派ポピュリズム政党が出てきたが、ほぼ消滅した。 日本維新の会は、保守というよりも進歩的な改革を志向 しており、極右とはいえない。

左派ポピュリズム政党としては、19年7月の参議院選挙で山本太郎代表率 いる「れいわ新選組」が比例代表で200万票を 集めて2議席を獲得した。2024年の総選挙で11議席を獲得したが、欧州のポピュリズム政党と比べるといまだに小規模である。

(2)安倍晋三首相:
「右派」のイメージがあるが、実際は違った。安倍政権の国内政策は、「働き方改革」 「女性の社会進出の推進」 「改正出入国管理法」 (事実上の移民政策 ) 「教育無償化」「全世代の社会保障」など、社会民主主義的傾向が強かった。

(3)安倍政権の消費増税:
 また、国民に不人気な政策である消費増税を、14年に5%→8%、19年に8%→10%と、安倍政権は2度実行した。 また「教育無償化」など社会政策を、消費増税を財源として 実施すると公約した。

野党は、消費減税(8%→5%)を訴える党 (国民民主党、立憲民主党、共産党など)、 消費税ゼロを訴える党(れいわ新選組)があるなど、 「ポピュリズム」的である。

(4)自民党とは:
自民党とは、世界最強の「キャッチ・オール・パーティ(包括政党)」 である。その特徴は、以下の通りである。

1)強固なイデオロギーがない
2)支持者の要望を幅広く吸収する。 

その特徴によって、本来、野党が訴えるべき政策を、予算をつけて実現してしまう。その結果、野党支持者は自民党を支持するようになる、自民党の伝統的な強さである。

例えば、「55年体制」の自民党はどうだったか?

1970年代に、社会党など野党が「環境政策」「福祉政策」を訴え始めた。 1)しかし、「福祉元年」というスローガンを打ち出したり、「環境庁」を設立するなど、自民党はそれを奪い、予算を付けて現実 の政策とした。

自民党は、都市部の中道左派層の支持を奪い、野党 を弱体化させることで長期政権を維持した。

近年でも、 安倍政権の「全世代の社会保障」がある。2017年11月の総選挙で安倍首相(当時)が打ち出したものだ。19年に 予定される2%の消費増税を教育無償化や子育て支援 など、現役世代へのサービスの向上に当てるというものだ。

だが、これは元々、前原誠司民進党代表(当時)が主張してきた 「All for all」とほぼ同じものであった。

安倍政権は、野党の政策を丸パクリして、総選挙で大勝、民進党は「希望の党」騒ぎもあり、分裂してしまった。

よく言われる 日本政治に対する批判として、「国会での 政策論争がない」というものがある。

だが、野党に元々、政策がないわけではないのだ 。自民党が野党の政策を奪い、予算をつけて実行してしまうので、野党が政策を失ってしまうのだ。言い換えれば、自民党の政策は元々野党が考えたものなので、反対派しづらい。そのため、政策で論争できず、 自民党の不祥事を追及するだけに終始する「万年野党」になっていく。

ただし、この状況をきれいに言うこともできる。日本の政治とは、

「野党の理想と与党の現実」

で成り立ってきたということだ。

そして、最後の左派ポピュリズムを考えてみよう。山本太郎(元俳優)を代表とする新しい左派ポピュリズムの「れいわ新選組」は、 「消費税ゼロ」を主張してきた。

その理由は、自民党が絶対に主張できない政策を訴えないと、 自民党に飲み込まれてしまうからである。

山本という人は、クレバーかつリアリストが実像であろう。「消費税ゼロ」は、彼なりの「政界での生き残り術」である。山本氏は、消費税ゼロが実現できると本気で考えていない。将来のある時点で、政策を一挙に変える可能性がある。

この山本氏の戦略の限界は、支持拡大が全国民の10%もいない左翼の範囲に限られてしまうことである。サイレントマジョリティである中道層に支持を拡大することはできない。ただ、繰り返すが、山本氏はそんなことは百も承知である。

(5)右翼を飲み込む自民党: 
最後に、自民党がポピュリズムを抑え込むメカニズムを考えてみたい。安倍晋三元首相は元々、右派ポピュリストの代表格とされてきた。 12年の二度目の首相就任以前の安倍氏は、フェイスブック等で、憲法や安全保障、 教育、歴史認識などについて保守的な 言動を繰り返していた。

ところが首相就任後、安倍氏は「保守的な政策」を後回しにした。 経済政策「アベノミクス」の推進を優先し、社会民主主義的な政策を実行した。

 また、自民党の強力な支持団体である「日本会議」は、 神道をベースにした団体である。自民党議員の多くが、日本会議のメンバーとなっている。彼らは、選挙で集票を期待する。 日本会議の会合等に出席し、「神を信じる」など発言し物議をかもすことがある。

3しかし、日本会議が主張する保守的な政策を自民党が 実行することはほとんどない。 それどころか、日本会議が忌み嫌っているはずの社会民主主義的な 政策が次々と実現されている。 例:「改正入管法」 →右翼は自民党に抑え込まれている。

3.ポピュリズムをどう止めるか: 1つのアイディアとしての「包括政党」

(1)キャッチオール・パーティー」を再考する:
自民党というのは、旧来型・伝統型の既存政党に思える。しかし、 実は自民党がこれからの時代の新しい政党モデルになる可能性があると考える。それは、 自民党が、「保守」「労働(社会民主)」の2大政党を合併した「包括政党」だからである。

自民党は、ポピュリズムを抑えてきた実績がある。それは、「保守」と「労働(社会民主)」が合流した形であるため、選挙の結果を決める力がある中道層を総取りできたからではないか。

逆にいえば、イギリスの保守党と労働党は中道層を奪い合ってきた。ドイツのCDUとSPDも同じだ。そのため、中道層の票が2つに割れて弱体化する。そのスキに、ポピュリズムの台頭を許してきたのではないか。

だが、ドイツのCDUとSPDはすでに何度も「大連立」 を形成してきた歴史がある。近年では、長期政権を築いたアンゲラ・メルケル政権が、大連立だ。英国も、イデオロギーの違いを乗り越えれば、保守党・労働党の政策は違いが少なくなっており、合流は可能ではないか。

新しい大政党は、中道層の「サイレント・ マジョリティ」を総取りすることができる。それは、 ポピュリズムの台頭を阻止することにつながるのではないか。

ここまでを前編とします。ただし、後編はここから、さまざまな方向に展開しますので、ここで結論めいた断言調のコメントは、お控えください。後編終了後までお待ちいただければと思います(笑)。








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