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【アカペラで歌ってみた】細川たかし「矢切の渡し」

細川たかしさんの「矢切の渡し」をアカペラで歌ってみました。

 この歌を元に書いた短編「明け方の旅立ち」は【切ない恋愛短編集 8】の75話になります。

少しだけ作品を紹介します。

 も明けきらぬ早朝、時刻は午前四時五十分。河川敷沿いの道路に停まっている一台の車。全身黒塗りの車体は、八人乗りのミニバン型。エンジンは掛かっておらず、住宅街の住人たちにも気づかれていない。

 運転席には男が座っている。時折時計を気にしながら、窓ガラスの向こうの闇夜を見つめている。ハンドルを握る手が汗ばんでくる。どこか緊張していて、少しばかり焦っているようだ。

 しばらくして、フロントガラス越しに人影が見えてきた。どんどん近づくその人物の動きを、じっと両目で追っている。音を立てないように慎重に小走りを続け、ようやく到着した彼女は、荒い息を整える間もなく助手席のドアをゆっくりと開けた。

「ごめん、待った?」

 彼女の口から発せられた、蚊の鳴くような小さな声が、静かな車内に響く。幸司は唇の前に人差し指を立て、口を閉じるように美香にうながす。口を押えながら軽く頭を下げた彼女は、車に乗り込んでドアを閉めた。

 街灯が暗い車内をほんのりと照らしている。美香は車に乗り込むと、運転席に体を伸ばして幸司の唇にキスをした。彼は彼女を受け入れ、二人はしばらく濃厚な口づけを味わう。ふと時間が気になった幸司が、背中を軽く叩いて合図を送ると、彼女は満足そうに助手席に戻った。

「急ごう。かばんは後ろに置いて」

 美香はうなずき、膝の上のボストンバッグを後ろのシートに放り投げる。彼女がシートベルトを締めた事を確認すると、幸司はエンジンをかけ、ゆっくりと車を発進させた。進行方向右手には大きな川が流れていて、河川敷が続いている。

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神野守
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