見出し画像

井戸の怪

大学へ向かう途中で、雑木林を通る部分があった。今は住宅地に変貌したその雑木林に井戸があった。電車は必ずそこだけはゆっくりと進んでいった。おそらく時間調整とかの意味もあるんだろうな?とばかり思っていた。
大学でもその路線を使う生徒はかなりおり、当時の恋人だったMもそのうちの一人だった。そんな彼女が妙な話をしてきた。

「あの井戸のところにボロボロな学生服を着た皮膚が真っ赤な小学生くらいの男の子がいたのよ」

それは夕刻だったそうだ。Mは同じゼミの人たちと何気なくその電車に乗り合わせた。友人のひとりの女性が痴漢ごっこと言ってふざけてMの胸を鷲掴みにしたときだったという。やめてよと言いながらMの目が雑木林の方を見たのは。そのとき電車が止まったように井戸とその子供がハッキリと目に焼きついたという。坊主頭でボロボロの学生服を着て、井戸にもたれかかるようにその人は電車を凝視していたのだという。なんとなく気味の悪いものを感じたのは言うまでもない。
そしてMの件から半月以上経ったとき後輩のOという男子が雑木林の中で大怪我をしたと言う話を聞いた。その彼に話を聞くことが出来た。

「前に電車に乗ってたとき坊主頭の皮膚が真っ赤な子供みたんです。で、気になってて大学の同期たちで見に行こうとなったんですわ。ただ、あそこどう行くのか分かんなくて線路横切ろうって話になったんすよ。で夕暮れどきに俺と他の奴らで線路横切って中入って井戸のとこ見てたら...」

O君は顔を強張らせていた。

「“痛いよ...熱いんだよ....顔が足が背中が.......熱い痛い”って井戸にもたれかかるように皮膚が真っ赤な坊主頭の子供が嗄れたような声でいたんすよ」

そのとき同窓生らは斜面を駆け上がって逃げたが、O君は足を取られて斜面を転げ、線路への侵入を防ぐフェンスの所で気絶していたという。
その後、卒業までそこを通ることはあったが出くわすことはなかった。ただ、そこで事件事故などが起きて子供が犠牲になったという話も調べた限り出てこなかった。

いいなと思ったら応援しよう!