離婚【02】
ふた昔前のキロク
軽い感じで子供に「離婚しようかな…」などと口にするのはいかがなものかとは思うが、多分、気持ち的には決まっていたのだと思う。
もう夫の事を必要としていないのだと気づいてしまった。
自分に出来る事、言える事は全て伝えて来た。手を替え品を替え、争わずになんとかならないものかと。でもベースに『黙って堪える』がある限り相手からしたら危機感はないのだから伝わるはずもなかったなと今なら思う。
彼に変わって欲しいとは思わない代わりに別れたいと思った。
自分の精神が歪んでまで一緒に居たいか否かだから。
経済的に苦しくとも精神面では別れた方がラクになる。
それに、もう
「好きでもないニンゲンが稼いで来たお金で米なんか買えるか!女がすたるわ!」
くらいの気持ちになり、考えてみたらパートでフルタイム、地味に稼げてるんだしなんとかやって行けるんじゃないか?とうっすら希望は持っていた。
もちろん、住まいも生活水準もかなり落とす事になるだろうけれど…と。
ただ、子供達はまさかと思うだろうし、冗談でもなにがしかの想いは言うだろうからそれを聞いてみたかった。
だから冗談ぽく離婚しようかなーなんて言ってみたのだ。
でも、2人の娘の反応は私が思っていたのと全く違っていた。
長女は私の目をまっすぐに見て言った。
長女(当時中学2年):「いいと思うよ。ママはパパじゃないでしょう? ママについて行く、ママなら大丈夫だと思う」
私(当時35だったかな):(え?つまりは私のパートナーとして夫ではない…と言っているの?嘘でしょ?)と驚愕。
次女はポロポロと涙をこぼしたので私は慌てて、
「いや冗談だから気にしないで。パパの事が好きなんだよね?大丈夫大丈夫!冗談だよ!」
と慰めたのだが違ったらしい。
次女(当時小学6年):「違う…、良かった。ずっとママ、無理してたから」
えぇーーーーーーーーーっ、なにこの子達ぃーーーー!
どういうこと?…私達夫婦は子供の前で喧嘩らしい喧嘩をした事もないのだから罵り合った事もない。
なぜ父親を母親のパートナーに向いてないと思った、なぜ無理してると思ったんだーーー!!
…ワタクシ、数秒、固まっていたと思います。
確かにこの突然の離婚発言の数週間前に夫が珍しく子供の前でしょーもないキレ方をして私が止めた。でも、その場は丸く納めたはず。
…にも関わらず私が無理してたって?そう見えてたって?
ダメじゃん…この子達にも子供の頃の私みたいな変な気遣いをさせていたんだろうか…。
えーっ、イヤだーーー!
と、ひとり頭の中でわいわいやってると長女が一言、
「ぺーたん(犬のニックネーム)は連れて行きたい」
次女も「ペータンとはこのまま一緒がいい」という。
「うん、ぺーとママと長女と次女で頑張ってみようか!」
と、なぜか3人ではしゃぎ出す。
この一連の会話、当事者たちでないと伝わりにくいかもしれないけれど、なんかこう、薄曇りの空が、すーーーっと晴れて行く感じだった。
そうか、離婚してもいいのかな。子供達が賛成してくれたから。
本当は無理してるかもな、不安だよね、子供だもんね。
ママ、頑張るね!と、ものすごくエネルギーが湧いたのを覚えている。
さて…どこからどうしようか…。
と頭が働き始める。
まずは職場か。(いや、夫だろ?とも思ったが決意は固かったので…)
当時パートで仕事をしていた。フルタイムのパートだったのでそれを正社員にしてくれというのも無理な話しだろうなと思っていた。
念の為、店長にさらっと
「離婚する予定なので正社員の仕事に就きたいと思ってます。すみませんが早めに退職させて下さい」
というと、さほど時間を置かず、
「たしかパソコン出来るよね?ちょっと通販の方に力を入れてみようと思うんだよね、そっちなら正社員で雇えるからやってみてよ。社会保険に入れるし」
と。そりゃ即答で「がんばりまーす!」でしたよ。
パソコンなんて始めたばかりでおっかなびっくりやってたけど、当時はまだ出来る人が少なかったので受容があった。やるやる、やるよ、やってみせますとも…と。
同じ職場の皆さんにも「離婚すると思うので引っ越しやらなんやらでご迷惑をお掛けするかもしれません」とさらっと言うと、親切なおばちゃんが「離婚する前に公正証書作っておきな!相手が養育費を払わなくなったら給料の差し押さえ出来るから!あとね、離婚届を役所に出しに行ったらその足で保険とか児童扶養手当の申請とかも回っておいで。母子家庭って収入によってだけど医療費は無料、子供を育ててると別の手当が貰えるからね、窓口でどの手続きが必要かちゃんと聞いて、貰えるものは全部貰いな、お金は大事だからね!」と色々教えてくれて激しく応援される。
ありがたかったなぁ…。ほんと、手続きは大事ですよ!勢いだけでは失速した時に潰れてしまうので、手続きはしっかりと!
元々私は秘密主義ではなく、なんでもペラッと言ってしまう子供だったなぁと懐かしく思い出し、あぁそうか、私は本来自由人で気にしない性格だったのに、なんてちっさいニンゲンになってたんだろうかと気づく。
どうも自分以外のオトナと暮らすと相手を尊重し過ぎるのかもなーとぼんやりと思う。それが親でもダメなんだから夫なら尚更だな…と。
これからは子供と自分と犬と平和に暮らして行けるんだという事しか考えておらず、
ひゃっほう!ヒーハー!くらいの気分だったのが本当にバカじゃないかと思うけれど、実際に私は離婚出来る事が嬉しくて仕方なかった。
配偶者より自由だったんだ、私が欲しかったのは。
仕事もフルだし自分が倒れたらおしまいなのに、どこが自由なんだろうと思うけど、私にとっては子供と犬と自分の為に働くなら楽勝!と思っていた。デスクワークだし、全然大丈夫!と。
稼ぎ頭がいなくなるんだとか、頼れる人がいなくなる…という不安は全く無かった。
それだけひどい夫だった…という風に想像されると思うが、酒乱でもないし暴力亭主でもない。ただただ自分が大事なヒトなので何事にも私が矢面に立たないといけないだけ…そう、今にして思えば可愛いもんだと思うのだけど、それは離婚したから言えるのであって、あのまま一緒にいたら…。
うーん、でも一回ぐらいは大げんかして全部吐き出してお互いにスッキリすればやり直せたのかなぁ…。
当時は秒殺で勝てる自信があったので、夫を凹ませてはならないし、勝てる戦などせぬわ…とも思ってたので気疲れしていた。優しいかと思えば皮肉屋で、我が身可愛さで自分だけ逃げるヒト。いいところもあったので付き合えなくはないけど家庭には入れたくないかもな…なんだか結婚したのが初めてだったので(フツーはそうか…)あまりさらけ出す事もないままだった気がする。当時は今よりもずっと人に対しては保守的で関わり方が不器用だった。
自分より弱そうな相手は責めない、守る。夫であっても。
…が失敗だったかな。
もう離婚してからずいぶん経過しているので分析するには遅過ぎるよね〜。
さて、話しを戻そう。
仕事は続けられそうなので離婚に向けて現実的に必要な事をこなそうと、まずは夫の為に試算表を書いた。
慰謝料は要らない。養育費は夫の年収から算出した最低ラインにし、住宅ローン、生活費、光熱費などなどすべてひっくるめてこうなるので、あなたは全然余裕で今の暮らしを維持して行けますよとノートを見せる。
…なので離婚して下さいと。
夫ボーゼン。
なんで急に離婚だよ!
とゴネ出したが、今までの不満、不安、嫁姑問題の対応などすべて淡々と説明した。
「あのババアそんな事まで言ってたのか!」
としれっと言うので、
「いやいや、全部知ってたよね?でもかばっては貰ってないし、あなた自身はいつでも自分第一だったよね。ちょっと疲れちゃったんだ、私はあなたの親じゃないし、私が責任取るのは子供達だけにしたい」と。
なんだかんだ言われたが、私には子供達との楽しい未来しか見えてないので全く響かず、ただ
「離婚の手続きが全部済んでから親に報告してね。お義母さんに騒がれて面倒になるのは困るから」
とだけ頼む。
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転職しないで済むなら次は住まいか…子供達の学校を変えるつもりもないし、近所にあるかなぁ…でも犬が飼えるアパートってのはどうだろうねぇ…と長女と話しながら歩いていた時、古いマンションの入口に入居者募集の看板が出ていた。
結構ボロいがマンションだし、古いが故に小型犬くらいはいいって言うかもね…とちょっと期待する。
看板に書いてある場所に電話をするとその不動産屋の担当者が、今まさに目の前のマンションに内覧の案内で来ているのでちょっと待ってくれれば中を見せられるという…マジでっ!?
偶然の度が過ぎる〜助かるわ〜とちょっと待つ。
古いし北向きなのだけど、向かいのビルに日が当たって反射し、室内は明るい。一応2DK。洗面所というより手洗い程度でお湯は出ない、風呂も追い炊き出来ない、キッチンには懐かしい湯沸かし器を設置する様になっている。つまりついてない。
ぬーーーーどうじゃろか…と思いつつ、小型犬はどうでしょうかと聞いてみると、「うーん、建った当初は禁止だったんですけど、もう古い物件ですから…大家さんにオッケー貰っておきます!小型犬なら問題無いでしょう!」
はい、けってーーーい!!
追い風しか吹いてない気がした。
亡き友が私を生きやすいように後押ししてくれているのではとすら思った。さんきゅー!
後は引っ越して暮らす為のお金の工面か…。
ここが一番の問題、なんせ転職の多かった夫、私のパートの給料も生活費だったし貯金なんざありゃしない…さて、どうするか。
<続く>
サポートして頂けると嬉しいです。パソコンがそろそろ寿命なので買い換えたいです!🤣