大人の読書感想文No.9『カウントダウン』(真梨幸子さん)
今回は、イヤミスの女王と呼ばれる真梨幸子さんの「カウントダウン』(2017年)である。
2015年~2016年にかけて女性誌「大人のおしゃれ手帖」に連載され、大好評だった作品の単行本だ。
ちなみに「イヤミス」とは、悪意に満ちた人物が描かれたり、救いのない結末を迎えたりして、読んだ後で嫌な気持ちになるが、むしろそこが魅力となっているミステリー小説のことをいう。
主人公・海老名亜希子は「お掃除コンシェルジュ」として活躍する人気エッセイスト、50歳・独身。歩道橋から落ちて救急車で運ばれ、その時の検査がきっかけでがんが見つかり、余命半年と宣告される。
エッセイストとして成功し、地位も財産も手に入れた亜希子だが、潔く死を受け入れ、有終の美を飾るべく百貨店の外商・薬王寺涼子とともに終活に勤しむ。
波乱万丈な人生を歩んできた亜希子は、離婚した夫から譲られたマンションの処分や、元夫と結婚した妹との決着など数々の課題に直面する。果たして亜希子は無事に「臨終」を迎えることができるのか……。
ミステリー小説らしく、読み進めるうちに状況は二転三転し、私の予想はことごとく裏切られていく。
「まさか……」「そうだったのか……!」「マジか……!」と衝撃を受けながら、続きが気になってページをめくる手が止まらない。
ちなみに私は希望を感じらる結末の小説が好きであり、そういう意味では、この小説は決して好ましい結末ではなかった。読んだ後は嫌な後味もした。
にも関わらず、読み終わるとなぜか「もう一度読みたい……!」と思って再び手にしてしまうのだ。一旦読みはじめたら夢中にならずにはいられない、読者を虜にする魔物のような魅力がある。著者がイヤミスの女王と呼ばれる所以だろう。
なお、単行本の装画はイラストレーター・マツオヒロミさんが手がけている。棺に入った女性の絵がミステリアスでなんとも美しい。
この絵に惹かれて、主人公が臨終を迎えるまでの「カウントダウン」をのぞいてみたくなったのは私だけではないはずだ。
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