大人の読書感想文No.3『52ヘルツのクジラたち』(町田その子さん著)
今回の読書感想文は、町田その子さんの『52ヘルツのクジラたち』(2020年・中央公論新社)。本屋大賞を受賞し、映画化もされている小説である。
タイトルにある「52ヘルツのクジラ」とは、他のクジラたちには聴こえない高い周波数で鳴く世界で一頭だけのクジラのこと。他のクジラとは声の周波数が違うため、いくら大声をあげても仲間にその声は届かない。 世界で一頭だけというそのクジラの存在自体は確認されているものの、姿を見た人はいないと言われている。
主人公は、自分の人生を家族に搾取されてきた女性・貴瑚。貴瑚は、母に虐待され「ムシ」と呼ばれていた少年と出会い、自分と同じ孤独の匂いを感じ取る。そして、夢も未来もなかった少年を救おうと奮闘する。
貴瑚と少年が育った境遇は、読み進めるのが苦しくなってしまうほど過酷なものだ。貴瑚には自分を救い出してくれた安吾というかけがえのない存在があったが、もう会うことはできない。それでももう一度立ち上がる貴瑚の姿に、人間の優しさと強さを感じて胸が熱くなる。
今回、私が選んだ小説の中の名言はこちら。
これは、貴瑚が少年に向かって伝えた言葉だ。少年は声を発することができないが、かつて貴瑚の声なきSOSに気づいて救い出してくれた安吾のように、貴瑚は少年に寄り添うことを決意する。
ラストは、厳しい現実を受け止めつつ未来に希望を見出す姿が描かれている。
「重いテーマでも最後は前向きな気持ちになれる本を読みたい」という私の願望を叶えてくれる傑作である。
ちなみに映画では貴瑚役を杉咲花さんが演じているそうだ。どんな役柄でも感情豊かに演じる杉咲さんはぴったりの配役だと思う。いつか映画も見てみたい。
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?