見出し画像

女はどう生きればいいのか悩むときにおすすめの本『トリニティ』(窪美澄さん)

大人の読書感想文、11冊目は窪美澄さんの『トリニティ』。(2019年)

2024年の年末、我が家では家族がコロナなり、諸々の予定をキャンセルした。看病と感染対策の合間に読んだのがこの小説。読んでいる時間だけは本の世界に没頭し、コロナの心配や不安を忘れることができた。

小説では、1964年、東京オリンピックが開催された年に出版社で出会った3人の女性たちの人生が描かれている。

出版社に勤務し、24才で寿退社した後は専業主婦となった鈴子。

ライター、エッセイストとして文章を書き続けた登紀子。

華やかにデビューし、第一線でイラストを描き続けた妙子。

彼女たちが人生をかけて求めたものとは….。

「寿退社したいんです」と専業主婦の道を選んだ鈴子。

「女だって自由に生きていいのよ」と言い続けた登紀子。

「私、イラストレーターになるの」と決意した妙子。

3人は全く違う人生を歩んでいるが、それぞれに共感する部分があり、何度も胸が熱くなった。

昭和から平成にかけての世の中の変遷も興味深い。鈴子が結婚したころは、女性は結婚したら退職するのが当然だった時代。

そんな中、アメリカで始まったウーマンリプの波が日本にも押し寄せ、新しい女性の生き方が提唱され始める。

かつて鈴子が勤めていた出版社では、新たな女性誌『ミヨンヌ』が刊行された。

ライターの登紀子が『ミヨンヌ』で女性たちに伝えようとしたのは、「どんなことにも囚われず、好きなように生きよう」ということ。

今でこそよく聞かれるようになった考え方だが、当時の女性たちにはとてもセンセーショナルだったのではないか。

なお、この小説は、鈴子の孫である奈央が登紀子に話を聞く、というスタイルで展開していく。

ブラック企業に就職してうつになった奈央は、3人の女性たちの生き方を知ることで、自分の道を見出すことができるのか。現代の若者である奈央の視点にも共感する部分は多い。

いつの時代であれ、女性が自分の人生を自分の足で歩いていくために奮闘する姿には勇気をもらえる。

女性として生きることの理不尽さや大変さを感じるとき、「大丈夫だよ」と寄り添い、そっと背中を押してくれるような物語だと思う。

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集