自己肯定感x変化志向で人と組織を眺めてみる
変化できる人とそうでない人
企業支援やコーチングをしているため、「どう人や組織に変化をしてもらうか」について四六時中考えている。当然、自分は毎回同じ熱量で改善すべきことや目指すべきことを伝えたり、ディスカッションの中でそうした方向が導かれるわけだが、そのあとの行動は対象によって大きく異なる。
要するに実行できる人とできない人に分かれるわけだが、それがどういう状況なのかを図式化してみた。ものすごくシンプルな図式だ。
自己肯定感x変化志向のマトリックス
単純な四象限のマトリックスだ。
横軸が自己肯定感、縦軸が変化の志向。
イメージしやすいように、それぞれを動物に例えてみた。もちろん動物には自尊心も変化志向もない(二つとも人間が作り出した幻想だ)ので、人間から見た勝手なイメージだととらえてほしい。
ライオン:自己肯定感が高く、変化志向が強い
ライオンは自己肯定感が高く、変化志向が強い。今の自分に誇りを持ち、そのうえでさらに高みを目指す。あるいは変化を目指すこと自体に自分の価値を感じている。
理想的な生き方の一つだ。少年ジャンプの主人公、特に最近のものを考えてもらうとわかりやすいだろう。竈門炭治郎など好例だ。もちろん完全にどれという話でもなく、炭治郎も自己否定や自己否認に陥ることもある。むしろその心の揺れ自体がストーリーにおける要点となるし、共感できる醍醐味でもある。
組織としては、十分な収益や成長を遂げながらも自己変革を止めないベンチャー企業などが当てはまるだろう。いかにこの状態に持っていくか、この状態を維持するか、が重要ともいえる。
ゾウ:自己肯定感が高く、変化志向が弱い
ゾウは自己肯定感が高く、変化志向が弱い。今の自分で十分に満たされており、これ以上の変化を必要としない。あるいは漸進的な改善で十分だと判断している。
この状態がのぞましくないわけではない。変化には常にリスクを伴うため、変化しないことが合理的な選択であることはもちろんあり得るし、人生の総決算までには、このような状態に到達したいと自分は思う。仙人や(会ったことはないがー)、十分に年をとった魅力的な高齢者の中にはこういう方が多いと思う。今まで自分史を作成する中で、何人もこういう方にお会いしてきた。今は朝起きて、朝日を見るだけで満足しているとー。
組織としては、ビジネスモデルの完成されたニッチトップの企業などが該当するだろう。もちろん都度ビジネスモデルの微調整は必要だろうし、気づけばアルマジロになっている可能性もあるので、その点は注意が必要かもしれないが。
コウモリ:自己肯定感が低く、変化志向が強い
コウモリは自己肯定感が低く、変化志向が強い。今の自分がダメだと感じており、むしろそれをエネルギーにして現状を変える強い力が働く。危機感を強く持っていたり、ハングリー精神があるという言い方をされることもある。(もちろん本当のコウモリは、きっといい奴だろうと思う)
これに対する考え方は複数あり難しい。すくなくとも短期的に効果的なことも多いからだ。例えばある種のコンプレックスを持っている人が、そのコンプレックスをばねに努力をする。また、外圧が有効に働く場合もある。なんだかんだ言ってブラック企業といわれる企業が存在しているのは、実際にそれで営業成績が上がるなどするからだろう。その枠をただ外すだけだと、売り上げは急下降する。
特に若いうちにこの類のプレッシャーを受けることが有効に働くことは多い。ただし、弊害も大きい。まずは鬱やバーンアウト症候群といわれるような、やる気の根本を失ってしまう恐れがあること。それから、他人に同様の行為を行い、それ自体が害悪になってしまう恐れがあること。本人に悪意がない分、対処は難しい。
組織としては前掲のブラック企業や、ある種の体育会系組織が該当するといえるだろう。常に高い目標を上げ続け、現在その目標に到達していない状況を否定する。短期的には有効なので、よくみられるのはスタッフ自体は短期間で入れ替わるが、組織的には中長期的に安定して成長していたりすることだ。
アルマジロ:自己肯定感が低く、変化志向が弱い
アルマジロは自己肯定感が低く、変化志向が弱い。自己防衛のために変化を嫌うことが多い。つまり、外見上はプライドが高かったり、高慢に見えることが多いのが特徴だ。内実は自分に自信がないため、壁を外に対して作っていて、それがプライドとして見えることが多い。(ハリネズミにしようと思ったが、ハリネズミはかわいすぎるのでアルマジロにした。アルマジロごめん)
わかりやすいのが、所属する組織の名前や学歴、職位などをたてに威張り散らしたり、高圧的な態度をとる人だ。そういうタイプの人はおしなべて他人の意見を受け入れなかったり、すぐに反発する。自分の経験(という言い方)で変化を嫌い、現状を維持しようとする。こういう人は、組織変革においてもっとも厄介な存在だといえるだろう。こういうタイプがいるだけで、組織全体の変革もとん挫する。
組織全体がこういう姿勢に染まってくると、その組織は次第に硬直化し、他社に対して非寛容になっていく。伝統的大企業で、変化できない企業を想像すればわかりやすい。外の変化に対応しなければならないことは薄々感づいているが、注意を内側に向けることで自らゆでガエルになることを甘んじている状態だ。その状態がエスカレートすることで、より内向的になっていく。
どう行動につなげるべきか:自己肯定感の充足が答え
上記の四象限は、あくまでとらえ方の例示であり、そもそもこの4つにあらゆる人や組織がきれいに分類できるわけではない。どんな人も組織も、見る角度によって異なる様相を持っている。また時期や局面によっても大きく変わるだろう。
重要なのは、個別の視点で見たときにそれらの要素がどの程度あり、またそれがどのような影響を持っているかを見極めることだ。分類が厳密にできないから分類に意味がないわけではなく、打ち手が何百種類もない以上、特徴的な領域に対して手を打つことは極めて有効になりえる。
まず大前提として、中長期的に健全な成長と変化を望むのであれば、自己肯定感が必要となる。これは今まで組織と人を見てきて一番強く感じることだ。だからこその「聞き上手」であり、わかることを重視したいと考えていることにつながる。
<あらゆる人と組織の課題は、自己肯定感の充足を軸に課題解決を図るべきである>
一方で、コウモリとアルマジロに対して、自己肯定感をどうもたらすか、かつどう使い分けるか、が重要となるだろう。ただ充足すればいいわけではない。そのあたりを継続して考えていきたい。
神山晃男 株式会社こころみ 代表取締役社長 http://cocolomi.net/