そして4

初めて作った雑誌|そしてわたしは、紙をすきになる[第4話]

大学生のとき、雑誌を作った。
友人から「雑誌一緒に作らない?」と誘われて、「えっ、やりたいー!」と気楽な感じで参加した。
そしたらメンバーが4人しかいないこと、大学がある市から予算をいただいてるから何が何でもとにかく形にしなければならないことが判明した。

引くに引けず、聞いたこともなかった「いらすとれーたー」と「ふぉとしょっぷ」を使ってデザインする担当になった。

正直、あまりにも慌ただしすぎて どんなスケジュールで進めていったのか、どうやって取材したのか、当時の記憶がすっぽりと抜けてしまっている。

覚えているのは、入稿した翌日のこと。印刷会社の方が 刷ってホッチキスで留めたサンプルを持って来てくださって、雑誌作りに引き込んでくれた友人と2人で受け取った。
その時の友人の感激している様子だけ、鮮明に覚えている。
「やばい!本になってる!自分の撮った写真がちゃんと載ってる!」
と感動している彼女の横でわたしはそんなに感動しなくて、「ほんまやな」と静かに相槌を打っていた。

誰かと一緒に同じものを作っても、同じ感情にはならないんだなと思った。
サンプルが届いた瞬間よりも、雑誌を売った瞬間の方がわたしは嬉しかった。
雑誌が刷り上がった週にイベントに出店して、買ってくれる人に友人が雑誌を手渡す光景を見てようやく、心が動いた。

雑誌が売れていくのをぼんやりと眺めながら、なんにも分からないまま進んできたけど 作ってよかった、と思った。

作った雑誌が、人の手に渡っていく。作ったものが、誰かによって語られる。
じんわりと、「あぁ、ちゃんと在るんだなぁ」と思った。
思うだけでは言葉にならなかった感情が。言葉にするだけでは見えなかった文章が。呟くだけでは残らなかった文字たちが、写真が、絵が。
紙に刷られて初めて形になり、届いている。
ちゃんと、そこに在る。
じんわりとそう感じた。

初めて作った雑誌は 3000部売れた。
読んでくれた人たちから感想が届いた。
大きな成功ではないけれど、これは尊いことだと思った。自分たちの思いを言葉にし、形にし、そっと誰かに渡していく。
「こんな仕事をしたい」と思った。

学生のとき、雑誌を作ったこと。
手から手へ紙の冊子が渡った瞬間の温かさを、愛しく思ったこと。
これがわたしが紙をすきになった理由のひとつです。

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