物語の中へ|そしてわたしは、紙をすきになる[第1話]
どのクラスにも1人は いる、本が好きな女の子。朝の読書の時間に彼女が読んでいる本の表紙をそっと盗み見ると、昨日と違う本に変わっていた。昨日読み始めた本、もう読み切ったんだ。
小学生のころ、たぶんわたしはクラスで1番本が好きな女の子だったと思う。周囲の人間関係にあんまり興味がなくて、友だちと遊ぶよりも本の世界に入っている時間の方がわくわくした。
本の世界の中は、どこまでも自由でやさしかった。
現実には出会うことのない名探偵と一緒に事件を解決したり、あまりにも器用で綺麗な怪盗に恋をしたり、ありえない状況で敵と死闘を繰り広げたり。
自分と同じ悩みを抱えた海外の女の子に 現実の友だち以上の友情を感じたり、主人公に語りかけるおばあちゃんの言葉に涙したり。
学年が上がるにつれ複雑になるクラス内のグループ形成や、あの子は可愛い可愛くない・勉強ができるできない・スポーツが得意 下手・彼氏がいるいない・・・といった評価の渦に耐えられなくて、逃げるようにいつも本を読んでいた。
あの頃わたしは、本を開き物語の中へ入っていくことで、現実を乗り切っていた。
本と物語の中に、居場所を見つけていた。
高校生になると 図書館に集まる友だちができて、現実でもちゃんと居場所を作っていけるようになった。
大学で人文学部に入ってからは、わたしみたいな「クラスで1番本好きだった子」たちがたくさんいて、これまでに読んだ小説の話題で盛り上がった。
いつのまにか、物語の中に逃げなくてもいいくらい楽しい現実が出来ていた。
それでも、上手くいかないことや落ち込むことがあると 現実とは違う物語の中に浸りたくなる。
社会人になった今でも、小説を読んで気持ちをリセットしたくなることが月に一度はある。何度もなぞった詩集の一節に、触れたくなる時がある。
わたしは、物語や言葉に救われて 生きてきた。
紙の本は、いつもわたしの側に、心に1番近い場所に、ある。
わたしを救ってくれた物語が、紙に記されていたこと。
これが、わたしが紙をすきになった理由のひとつです。
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