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【雑記R6】12/15 今年の振り返り② ~光る君へ編~
今年の大河は「光る君へ」でした。
一年間、本当に楽しませていただきました。
今まで本を読みながらあれこれと想像していた宮中の行事や衣装が華麗なセットで再現され、史実の人物たちが姿形をもって命を吹き込まれて動いていました。
いくつものいくつもの素敵な場面がありました
このドラマを視ることが出来たのは果報なことでございました。
俳優の皆様、スタッフの皆様ありがとうございました。
とはいえ、これは「史実を描くドラマ」ではないな、とも思っていました。
平安時代という従来の大河ファンにはなじみのない時代、しかも生没年も本名も分からない謎だらけの紫式部を取り上げるという挑戦的な試みに興味津々で番組の開始を待ちました。
そして、初回の放送で、女性たちが顔を丸出しで外を立ち歩き、名前を呼び合い、かつ穢れ(病、血、死等)を厭わない姿をみて、なるほど、これは「限りなく平安時代に近い異世界の物語」だ、と思うことにしました。
もちろん、女優さんたちのせっかくの美しいお顔や姿がみえなくてはもったいないし、名前を呼ばなければ誰が誰だかさっぱりわからなくて話にならないというドラマ上の都合は分かります。
しかし、たとえば「イスラムの女性を描く」というテーマを設けたにもかかわらず、イスラムの戒律をあからさまに無視した行動、たとえばヒジャブをかぶらないとか食物にこだわらないとかを、戒律破りをする人というあえて、の設定でなく、普通のこととして描いていたら、それは、作品がどんなに素晴らしくても現実社会を描いているとはいえないですよね。
私は、ドラマの人々が平安時代の常識から著しくはずれた行動をしているのをみて「これは異世界」と早々に割り切ることにきめました。
だから、貴族の若君と姫様が鳥辺野でお手掘りで友の遺体を埋めていても、野盗や野犬の跋扈する荒邸で二人きりの逢引を繰り返しても、太宰府に旅立ち浜辺で刀伊の賊に襲われていても、まあ、こういうこともあるよね、と懐ひろく寛容な気持ちで眺めることができました(突っ込みはいれるし毒も吐くけれど)。
・・・などと気難しいことをつらつらと書き連ねていながら何をいうか、ではありますが「光る君へ」は、素敵なドラマでした。
これからもNHKオンデマンドでことあるごとに見直し、遠く平安時代と今に残る文学作品を遺してくれた先人たちに思いをはせ、五節の舞とか曲水の宴とか源氏物語製本作業などの場面、寝殿造りの邸や宮中などの舞台、織模様も美しい衣装の季節や人柄にあうようにかさねられた襟元や袖口、金銀を漉き込んだ紙などを溜息をついて堪能することでしょう。
見落としていた演出もたくさんあると思います。
様々な日記等で伝わるエピソードや源氏物語を彷彿とする場面がドラマの中にさりげなくちりばめられていて、そんな遊び心に脚本家、演出家、時代考証などの皆様がこの時代と文学を大事に愛していることが伝わりました。
また、その思いを俳優さんたちが丁寧に掬い取って演技にして魅せてくださいました。
俳優さんたちが、私がそれぞれの人物に抱いていたイメージに重なり合うことが多くて、実写でこの場面を見ることができた、という喜びを何度も味わうことができました。
イメージに合っていた俳優さんたち
特にまさにイメージ通り!と私が思っている方々は以下の通りです。
書きたい人のことは本当にたくさんたくさんあるのですが一部だけ私見丸出しでご紹介します。
<やんごとなき帝たち>
・花山天皇:本郷奏多さん 高貴と狂気の絶妙なブレンドが最高でした
・一条天皇:塩野瑛久さん 繊細さと情熱、有力者に翻弄され続けたはかない透明感がぴったり
<道長を取巻く古き良き友三人衆>
道長を支えた四納言は有名ですが「光る君へ」では、源俊賢を除く三人と道長で四人組になっていることが多く、青春時代から老年までを友としてまたライバルとして描かれていました。
・藤原公任:町田啓太さん プライドの高く才気ある貴公子の雰囲気がよく似合っていました
・藤原斉信:金田哲さん 抜け目なく出世のために立ち回る油断なさが目元ににじんで他の二人にはない特徴でした
・藤原行成:渡辺大知さん 誠実で心優しい三人の弟分の雰囲気に心が和みました。道長と一条帝の間で四苦八苦している姿を応援したくなりました。字が上手いので屏風やら源氏物語やら和漢朗詠集やら書かせられてばかり。みんな便利に使いすぎです
<前半と後半で大変身>
・藤原隆家:竜星涼さん どこか冷めて斜に構えた若い時代と大宰府で刀伊入寇の国難に立ち向かった力強い姿に、人は変われること、誰にでも水の合う場所が必ずあることを教えてくれました。
若い頃に兄・伊周に促されてしらけた感じで舞を舞った姿と大宰府でむくつけき武者仲間たちと闊達に舞う姿、花山法王にふざけた調子で矢を射かけた姿と刀伊入寇で先頭に立ち鏑矢を射る姿、この二つの姿の対比に長い時間を描く大河ドラマの良さを感じましたし、竜星涼さんの耳と目の大きい人懐っこい顔立ちが、若くて青い未熟さも武者たちに慕われる男気も両方に活かされていたように思います
これらの俳優さんたちによって多くの名場面が演じられました。
NHKから最終回に先立ってもう一度見たい名場面10選が発表されていました
それによると1位「2人の逢瀬(おうせ)」2位「源氏物語の誕生」3位「彰子の告白」だそうですが、私の名場面三選は、全然違います。
<私の「光る君へ」名場面>
第三位 「書くこと」は「生きること」道綱の母の導き(第15回)
まひろは、友人のさわさんと近江の石山寺へと出掛け、藤原寧子と出会います。
いわゆる「右大将道綱の母」。
藤原兼家の妾で、藤原道綱の母で、兼家との日々をつづった「蜻蛉日記」の作者です。
寧子は「それでも、殿との日々が、私の一生のすべてでございました。私は日記を書くことで、己の悲しみを救いました。あの方との日々を日記に書き記し、公にすることで、妾の痛みを癒やしたのでございます」と語ります
「書くこと」とは何か、なぜ人は物語を、己のことを「書く」のか、まひろが愛読していた蜻蛉日記の著者が、自身のことばで語りかけ、「書く」ことへまひろの意識を向けます。
愛憎の葛藤をすべて「書くこと」で乗り越えてきた年上の女性のしみじみとした述懐が石山寺の雰囲気ともよく似合う名場面でした
第二位 赤染衛門おおいに語る「栄花物語」誕生(第46回)
今回のドラマで一番好きといっても良いくらいのお気に入りは凰稀 かなめさんの演じた「赤染衛門」です。
今まで、赤染衛門も「栄花物語」もさほど気に留めていなかったのですが。今回の「光る君へ」の赤染衛門さんは本当に素敵な女性でした。
源倫子に少女時代から仕え、まひろを含めて和歌の会に集まった娘たちの教育係のような立場にありました。その後、彰子が入内する際に女房として藤壺に入り、その後宮仕えに出た籐式部(まひろ)と同僚となります。
聡明で凛々しく、万事控えめでしっかり者、それでいて時に大胆な意見を述べる意外な一面もあります。
まひろに対して、「左大臣様(道長)とどのような関係?」と直球で問うのも、また倫子さま大事の気持ちがあってのこと。
彰子さまに仕えてはいるけれど、大事なのは何をおいても倫子さまなのだろうな、と思います
その倫子さまから、殿(道長)の輝かしい栄華を後世に残す物語を書いてほしい、と頼まれた赤染衛門。
「私で良いのですか?」ととまどいつつ倫子さまに問いかけ、「あなたが良いのよ」と言われて涙ぐむ場面がありました。
ずっと大事に仕えてきた倫子さまの娘、彰子さまに生まれた時から世話をしていたのに、彰子さまが信頼して心を開いたのは籐式部(まひろ)だった。
籐式部の物語の才がもてはやされた時も内心悔しかっただろうと思うのですが他の女房達の悪口には決して乗らず軽く笑って受け流す。
そんな赤染衛門は、倫子さまから一世一代の大役をもらって晴れがましく、心から報われたのだろう、と思います。
そして、書いた原稿を倫子さまに見せていたのが私の好きな場面。
倫子さまがきょとんとした顔で「殿の物語を書いて欲しいと頼んだのに、宇多の帝の御代から始まっているけれど・・・」と道長が生まれるずーっと前から書き始められていることへのとまどいを口にします。
それに対して赤染衛門が語る語る、熱を込めて語る語る。
本来は、藤原の栄華を書くなら、大化の改新から書き始めたいくらいだ、と。
だけど、それでは自分の命が付きてしまうから、宇多の帝から書き始めたのだ、と。
自分がこの役目を与えられてなすべきことは何か、と考えてたどり着いた答えがこれなのだ、と。
あまりの勢いに気おされて、いくつか反論を試みた倫子さまも最後には「衛門の好きにして」とやや呆然とした面持ちで微笑むのでした。
いつになく熱い赤染衛門と疑問符が顔中に浮かんでいる倫子さま、そして二人の間にかわいい猫。
赤染衛門の倫子さまへの想い溢れる、そして、自分の書くべき物語は何かを語る良い場面でした。
倫子は源氏。
宇多帝は倫子の曽祖父にあたります。道長の栄華は血筋の良い源倫子との結婚により時の左大臣源雅信の後見と財を手にしたことなくしてはあり得ませんでした。
だからこそ赤染衛門は、大事な倫子さまのためを思ってこの選択にしたのだと思います
そして、なんといっても宇多帝は、「猫好き」としても知られていて「猫がかわいい」ということを日記に書き残した帝でもあります。
だからこそ、この場面に猫ちゃんがいたのでしょう。
倫子さまはずっと猫を飼っていますが、ひょっとして宇多帝の飼っていた猫の子孫かな、などと思うのも楽しい名場面でした。
第一位 私は貴女の光を書きたい「枕草子」誕生(第21話)
「たったひとりの悲しき中宮のために 枕草子は 書き始められた」
ナレーションに泣きました。
栄華を極めた中の関白家の突然の没落。
定子は自ら髪を下ろしてしまいます。
あんなに待ち望んだ子供が胎内にいるにもかかわらず、もはや生きる気力を亡くした中宮定子のために、ききょう(清少納言)は何ができるのか、悩みます。
まひろのアドバイスにより(ここは、ちょっと、うーん、とおもったけれど、ひとまず置いておきます)、中宮から賜った高価な紙に定子のために何かを書いて贈ることを決意して、おもいのたけをすべて筆先に込めて綴り始めます
「春はあけぼの」
はらりと舞う桜の花びら
「夏は夜」
またたく蛍の光
「秋は夕暮れ」
静かにおちゆく葉
心に沁みわたる音楽、ぽつりぽつりと定子が綴られたことばを読む声、季節の移り変わる映像
辛くても苦しくても四季は美しく移ろい、どんなに境遇が変わっても変わらない人の心はここにある。
それに支えられて定子の表情が少しずつ生き返っていく…
ききょうの真摯な気迫のある表情と筆先も素晴らしく何度でも見たい名場面でした。
というわけで、私の名場面三選でした。
この一年、「文学大河」堪能いたしました。
時折、異世界っぷりがすごいときがあって思わず脱落しそうになりながらも一年間視聴することができました
今日、最終回の放映される12月15日は、折しも満月。
離れていてもお互いを思い、何かと月を見上げ合っていた道長とまひろの物語の最終回の放映にふさわしい夜です
note仲間の感想を聞く(読む)のも楽しみのひとつでした。
皆様も今宵の美しい月を眺めたでしょうか
一年間、ありがとうございました。
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