【読書日記】10/15 わたしは書きます。あなたへ言葉を送ります。「思いはいのり、言葉はつばさ/まはら三桃」
思いはいのり、言葉はつばさ
著 まはら三桃
アリス館
「女書(ニュウシュ)」という、中国・湖南省で文字を習うことのできなかった女性たちが、自分たちの思いを伝えるために生み出し、女性たちの間で伝承してきた秘密の文字があります。
この女書をテーマにした物語。
なお、いつも私の読書生活に多彩な刺激を与えてくれる既視の海さんからのお勧め本です。いつもありがとうございます。
「女書」は、主人公チャオミンの言葉を借りると「まるできれいなお花みたい。いえ、小鳥のさえずりみたい」な文字です。
本書の裏表紙にその女書があるのですが、繊細な線と小さな点で形作られた文字は、野の草のようにすんなりとしています。
ちなみに私は、生まれたてのメダカが泳いでいるようだな、と思いました。
女書、もしくは中国女文字、で検索してみてくださいませ。
明るく好奇心旺盛な女の子、チャオミンが住む山奥の集落、女たちは誰かの家に集まって一緒に織物や刺繍をする風習があります。
そこは少女たちの教育機関としての役割を果たし手仕事を習い覚え、また、女書も受け継がれているのです。
そこで出会った少女たちは時に「姉妹」としてのつながりをもち、生涯支え合います。
結婚する娘に身内の女性や親しい友人らがその思いを女書でしたためておくる手紙「三朝書」は、婚家で「よそもの」の「嫁」という低い立場で耐え忍ばねばならぬ不自由・理不尽を慰めるよすがとなるのです
女書は、男尊女卑の社会だったからこそ生まれた文字ですから、その背景にあるのは、辛く厳しい現実です。
しかし、主人公のチャオミンは姉妹たちや家族、村の人たちとの関わりの中で「女書」を学びつつ成長し、きっと彼女はどんな境遇になっても、身につけた言葉の力、文字の力でその心の翼を広げ続けるだろう、という希望に満ちた物語になっています。
「女書」の歴史とその意義は、チャオミンの母・インシェンが自分の体験を通して娘たちに伝えることばの中で語られます。
インシェンは歌の得意な少数民族ハル族の出ですが、漢族の家に嫁ぎ、漢族の誇りに凝り固まった義母との軋轢や、大好きだった歌を禁止されたことなどから心身ともに追い詰められ歌が歌えなくなっていきます。
そのときに不思議な女性から女書を教わり「言うに言えない、口に出せない思い」を書き誰にも見せずに封じていたのです。
それにより、苦しみと悲しみから抜け出して、また歌を歌えるようになりました。
そんなインシェンの思いを凝縮したようなこの言葉が印象に残ります。
チャオミンは、この物語の最後、憧れの姉は遠くに嫁ぎ、友人は遠い故郷に戻り、変わっていく周りに寂しさを覚えながらも自分の道をまっすぐに歩こうとして歌います。
辛いこと、悲しいことがあったとき、どのように乗り越えるかは、人それぞれですが、まずは自分の中にある思いを何かの形で表す、ということがその第一歩です。
「(直接解決に結びつかなくても)誰かに話すだけでも楽になるよ」というのは、単純に気休めではなく「話をする=言葉であらわす」ということで自分の気持ちを形としてとらえることが出来るからなのでしょう。
だから、誰も相談相手がいない、口にすることが出来ないのであれば「文字で文章をかく」ということになります。
自分の心を和らげてなぐさめるために
明日をまた顔を上げてむかえるために
共にある人に笑顔を向けられるように
文字を書きましょう、ことばをつづりましょう 詩をつむぎましょう
私たちには ことばがある