11/23 ごめんね


今日の昼、カフェで2週間ぶりに太郎と会った。


長時間黙り込んだり、口を開けば太郎を責めるような言葉しか発しないわたしの目の前に座る太郎は、しきりに自分の頭をかいたり、あごを触ったりしていた。


あごを触るのは、太郎のストレスが溜まっている時の癖だ。


多分本人は気づいてないけど、今日はずーっとそれをしていた。


ごめんね。わたしがこんな責めるようなことを言うから、それがストレスでそうやって無意識にあごを触ってるんだね。かわいそうにね、ごめんね。




ごめんね。そんな仕草させたいわけじゃないのに。そんな仕草を太郎にさせてしまうわたしにはなりたくないのに。どうしても太郎を責める言葉が止まらない。




ごめんね。それでも太郎は手を伸ばしてわたしの涙をハンカチで何度も拭いてくれた。それ、わたしがクリスマスにプレゼントしたハンカチだね。




ごめんね。それでも太郎は改札まで走ってわたしを追いかけてきて、ホームのベンチでわたしの隣に座って、わたしの手を握った。それ、わたしが誕生日にプレゼントしたスニーカーだね。










ごめんね。わたしの最寄駅に向かう電車に乗り込むわたしに続いて車内に足を踏み入れようとした太郎の胸を、押し返してしまった。



「太郎は、違うでしょ」って。



その瞬間、太郎と付き合い初めて3年の今まで、一度も見たことのないような顔をしていた。


マスクをしてはいたけど、はっきりとわかった。




困ったように笑っていた。




困ったように笑いながらその場に立ちすくんでいた。


ドアが閉まって、わたしだけを乗せた電車が出発した。





ごめんね。あんな顔知りたくなかった。あんな顔させたくなかった。あんな顔させたのが、他でもないわたしなんて信じたくない、本当にごめん。







一番近くで、ずっと笑顔でいて欲しい人のストレスになったり、悲しい顔をさせてしまったりするのが、どうしてわたしなんだろう。




そんなことしたくないのに。





ごめんね。


本当にごめんね。

















でも、太郎の胸を押し返したことは、後悔していない。







あのままわたしの家まで一緒に来ていたら、きっと全てをなあなあにしたまま、全てを先延ばしにしたまま、全てに気づかないふりをしたまま、太郎に抱きついて眠っていたと思う。







涙を拭いてくれた時、目を合わせなくてよかった。


手を握り返さなくてよかった。


胸を押し返してよかった。












ごめんね。





本当に、ごめんね。

































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