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静かなるオカン


先輩と静岡の富士を訪れた。



富士に行くのは二回目であり、観光名所を訪れる目的ではなく、先輩が長らく会っていなかった親戚一同を訪れるのに同行させてもらったのが一回目である。

初めて行く富士の土地で手厚く歓迎してもらい、人の良さ、土地の良さを満喫させてもらった一回目の余韻が残っており、半年前に訪れてから再度はるばる彼ら彼女らを訪れるために二回目の富士行きが決定した。

東京上野から快速アクティーに乗り、都会の格式ばった景色から徐々に自然が広がる景色に変わっていく様子を車窓から眺めていた。

上野で満員だった車内のほとんどの乗客が横浜で降り、電車が茅ヶ崎、平塚と海沿いをゆったりと走って行く。

終点の熱海で乗り換えると、熱海女子という言葉を肌で実感するほど、たくさんの女性観光客でごった返しており、彼女たちの合間を縫って、東海道本線のホームへの階段を上がった。

浜松行きの鈍行に乗り約40分ほどで富士駅に到着する。

約3時間、真上から太陽が降り注ぐ昼過ぎに富士駅に到着すると、薄いベージュ色の軽自動車に乗った親戚の一人であるともえさんが出迎えてくれた。

ショートカットの毛先が大きめの白のパーカーのフードに綺麗に収まるように乗っており、久々の再会に少し照れながら助手席の先輩と話し運転してくれるおっとりとした後ろ姿を後部座席から見ていた。

目的はともえさん含め、親戚の方々に会いに来たので、名所に行くのではなく、車内の会話を中心に富士の街をドライブしてもらった。

ともえさんには24歳になる息子さんと22歳になる娘さんがおり、その娘さんには3歳の子供もいるので、ともえさんは孫がいるおばあさんになる。

おばあさんとは全く感じさせない少女という言葉がぴったりと当てはまる容姿、明るさの中には20代前半から女手一つで子供達を育てあげた芯の強さが垣間見れ、運転が大好きだというともえさんのアクセルを踏む勢いには一切の迷いがなく、街道も山道も富士山麓の清らかな水に乗って流れるように心地よく時間が流れていった。

夜はともえさんの姉であるあきこさんが20年以上もやっているスナックにお邪魔した。

あきこさんは妹のともえさんとは正反対に職業柄もあってか派手な色を使った服を好んで着ており、髪から爪、持ち物まで全てが薄暗い照明の店内のライトに照らされて、キラキラと光っていた。

サービス精神旺盛で水商売をして20年以上にもなる店のママさんでありながら、一番下の若手のように率先して店内を動き回るあきこさんの元には、たくさんのお客さんがひっきりなしに訪れ、閑散とした富士駅前の装いとは打って変わって、店は大繁盛していた。

翌日先輩と二人で四方八方富士山を中心とした山に囲まれた富士市内を散歩したあと、夜にともえさんの息子さんの誕生日会が開かれるらしく参加させてもらった。

ともえさん、あきこさん含め、二人の姉妹の母であるおばあちゃん、誕生日の息子さんの彼女さんであったり、親戚一同10人ほどが集まる会であった。

宴会席の真ん中で娘さん、孫さん、そしてひ孫さんにまで囲まれたおばあちゃんは既に80歳を越しているが、一回目に会った時よりも、また美しくなっており、綺麗に刻まれた顔の皺は水が流れているような清らかな瑞々しい線であった。

宴会の後、あきこさんの娘さんが運転する車で富士駅まで送ってもらった。

今年四月から社会人になるという娘さんは夜からスナックに出勤する母親をいつも助手席に乗せて店まで送っていくと言う。

宴会の途中、親戚で一人くらい派手な人がいてもいいよね、と明るく言う母親の横で、良いと思う、と物静かながらハッキリと母親を尊敬している態度を示す娘さんの中にも母親から受け継がれた芯の強さが垣間見れた。

静岡の地で、出会った人々の顔は都会的でも田舎的でもなく、しっかりとした土壌の上で育った人間らしい活力のある顔であることが印象的であった。

特に女性たちが、清濁を併せ呑むといった大きな器量を持つ、静かなるオカンとして次世代へとゆらゆらと流れるように継承されていく姿に感銘を受けた。

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