殺す男と殺される男に芽生える奇妙な友情と連帯「ペナルティループ」映画感想文
レイトショーで映画を観るなんて本当に何年ぶりだろう。
ループものが好きなので楽しみにしていた映画「ペナルティループ」
ネタバレを踏まずに楽しみたかったので公開初日に観に行くことにしたが、金曜日の夜だともう遅い時間しかない。
帰りが深夜になるのはちょっと不安だったが、思い切って行ってみることに。
ここから先はネタバレ全開の感想となっておりますので、映画を観てから読んで下さい。
公式サイトで得られる情報は頭に入れておいたので、恋人を殺された主人公・岩森が、恋人を殺した犯人・溝口に行う最初の復讐からの二度目の復讐も、始まりましたね〜くらいの軽い気持ちで観ていた。
ただ一般的(?)なループものだと、復讐という目的を成功させる為に何度もループするものだけど、この映画では一度目で成功するし、何ならその後も毎回成功する。
そして復讐される側の溝口も、ループしていることに気づき始める。
状況が大きく変わってくるのは、溝口を殺害→死体遺棄を繰り返す岩森の精神に限界が来て、溝口をボウリング場に誘い始めるループから。
最初は自分を殺すつもりである岩森のラフな態度に戸惑いながらも、次第にボウリングを楽しんでしまう溝口。あまりにもガーターを連発する岩森に、投げ方のアドバイスまでしてくれる。
ボウリング場で岩森がループを止めたいと宣言しても、強制的に復讐は実行されてしまう。
画面表示が「死刑囚」「執行人」となっていたり、二人の行動を監視してる人がいたりと、このループしている世界自体が主人公の復讐のために管理されているのだということは、何となく理解出来てくる。
このループから抜け出せないと悟った二人の距離はさらに縮まって、一緒に凶器が入ったバッグの中身を見たりするし、工場内の敷地をお喋りしながら歩いたりする。友だちかな?
この辺りから溝口は別にサイコパス的な殺人者ではないと察することが出来るので、主人公の恋人を殺したのも何か理由や事情があったのかなと考え始めた。
毎回死体遺棄するのが重労働だからという理由で、ボートに乗る二人の光景は不思議とのどかで、キラキラ輝く水面はまるで青春映画のワンシーンのよう。
その後、溝口自ら黒い袋に入って、銃に撃たれる合図を出したりもする。
序盤の緊張感はどこへやら、こんなに仲の良い復讐する側とされる側の光景がかつてあっただろうか?
毎朝「6月6日、今日の花はアイリス」と告げていた時計(ラジオ?)が、このループの終わりを告げたとき、最後に殺されることになる溝口は、自分を殺す岩森に勧められた大樹の絵を描きに行く。
工場の裏池で仰向けに寝そべり、手を握って欲しいと頼む溝口。それに応えて片手を繋ぎ、もう片手で溝口を刺し殺す岩森。
溝口が岩森に最後に告げた言葉は「ありがとう」
男二人で手を繋いで命の終わりを迎えるシーンに、ブロマンスを感じてしまった。
思えば溝口は、岩森が自分を繰り返し殺す理由、かつて自分の手で殺した女性の名前を聞いてから、復讐に対して妙に協力的だった。
溝口が岩森の復讐を受け入れたことこそが、溝口がずっと罪悪感を抱いていたことの証明ではないだろうか。
被害者遺族が何度も死刑を実行できる権利、ペナルティループ。
刑の執行を終えた岩森はアフターサービスとして恋人との日々を選択し、初めて出逢ったときに燃やしていた紙は何なのか、誰に追われていたのか、何と戦っていたのかを尋ねるが、もう亡くなっている彼女から真相を聞くことは出来なかった。
岩森は彼女について細かいことを知らなくても愛しているタイプなのかなと思っていたらバリバリ気にしていたので、なら溝口からもっと彼女のことを積極的に聞いておいた方が良かったんじゃ……?と思ってしまった。溝口がちゃんと会話が出来る人間なのは分かっていた筈だし。下手したら岩森より溝口のほうが、彼女の事情について詳しかったんじゃないだろうか。
いくら仲良くなっていても、彼女を殺した犯人からは情報を手に入れたくなかったんだろうか。溝口も自分の意志で殺したわけではなく、誰かに指示されて行ったようなので、話せない事情があったのかもしれない。
岩森が復讐する相手は本当に溝口でよかったのだろうか?
もっと詳しい話を聞き出していれば、指示を出していた誰かがいたことに気付いたんじゃないだろうか。
ループものは同じ期間を繰り返す内に、周囲の人間についての理解が深まっていくことが多い。この人はこの時、この場所でこういうことをしていたんだとか、こんなことを考えていたんだとか、人を理解するから問題の解決策が見つかるのだ。
だが、この作品ではそれは起きない。
ループの仕組みがだいぶSFだったので、その縛りも影響しているのかもしれない。
岩森が何度ループしても、彼女についても溝口についても分からないことが多いまま終わってしまったのは、他愛ない会話は出来てもその人の核心には触れることが出来なかったからだと感じた。
ラスト、車で事故を起こし、岩森が血だらけになったのは、理由はあれど復讐という行為を行った彼に対する、天からのペナルティ(罰)だろうか。
主人公である岩森を演じたのは若葉竜也さん。静止画だとそう思わなかったけど、動いている姿が時々二宮和也さんに似ていてびっくりした。
黙っているときでも何を考えているか伝わってくるような、台詞が少ない作品でも表情で魅せる演技が出来る方でした。
溝口を演じた伊勢谷友介さんはこの映画が復帰作だったんですね。相変わらず色気があって、笑うと妙に人が良さそうで。自分に復讐しようとしている相手に無防備な姿を見せる役が不思議とハマっていました。
ループものを観に行ったつもりが、男同士の関係性に惹かれまくってしまった。
予想外の方向性でしたが、とても面白かったです。