見出し画像

【DX推進組織の解散】約60名規模まで拡大した組織がたどり着いた答え

2018年から今年の9月まで、ディップ株式会社の社内DX推進組織の室長に従事していました。今後の事業戦略を見据えた結果、組織変更を決断し、役割が大きく変わりました。
今までの軌跡として、組織の立ち上げから解散までのストーリーを残して置こうと想います。

この記事に書かれている事

私たちは「UX起点でユーザーファースト」を前提とし、「愛されるプロダクトを作る」プロダクト開発を掲げ、独自のDX推進組織を立ち上げました。
個性溢れる面白いメンバーが集い、数々の表彰を受けるなど、デジタル化の進展に注力した組織でした。

組織のスローガン

しかし、組織が約50名規模にまで拡大し、商用サイトと呼ばれる「バイトル」や「コボットシリーズ」といった商品以外の社内システムは、ほぼ全て管轄するようになり、組織運用に課題が見えてきました。

この記事では、DX推進組織の解散に至った背景、組織拡大に伴う課題と学びについて赤裸々に語ります。同じようにDX推進に取り組む皆様にとって、少しでも参考になれば幸いです。

こんな事を知ることができます

  • 1人で始めたプロダクトが組織になり、会社を変革

  • 社内システムでも、UX起点のプロダクトマネジメントが重要

  • 役割に縛られず、手放すことで会社も自分も成長できる


1. DX推進組織、拡大の軌跡

営業の喜ぶ顔が見たいので躍進、組織が急成長

私たちのDX推進組織は、営業DXを皮切りに、その活動範囲を全社へと拡大していきました。はじめは、組織がなく、私1人で営業現場の課題をプロダクトで解決できないか、社内新規事業のようなポジションで仮説検証をガンガンまわしていました。

そこで、生まれたのが「レコリン」というアプリです。
CRM/SFA領域は数多くのSaaS製品がありますが、どれも多機能で営業現場に適応させることが難しかったです。

そこで、営業が1番の課題に抱えている、リストピックアップと接触にフォーカスしたプロダクトを自社開発することで、解決を図ろうと考えました。

営業システムというと情報システム部門がツールを選定して、現場導入する企業も多いと想いますが、現場まで脚を運び、ユーザーリサーチをして開発するケースは稀ではないかと思います。

なぜなら、とても面倒だから。

だからこそ、この習慣を打破したいと思い、現場に3ヶ月以上足を運んで、営業の2人3脚で開発しました。その介もあり、このプロダクトは、営業人員、約2,000人が毎日使うまでに成長しました。

詳しい開発エピソードは下記の記事をご覧ください。

その後は、PdM1人でプロダクト運営ができないので、組織を作り外部からメンバーを募集しようと行動に移します。
残念ながら、社内には異動を希望するメンバーは集まらず….
1から採用することを考えることになります。

社内スタートアップの感覚で採用をスタート

1人のPdMとパートナーのエンジニアだけでは、レコリンの改善や他の営業課題を解決することはできません。そこで、ディップでは、有名なWantedlyお兄ちゃんがいるので、Wantedlyを活用したコストを抑えた採用戦略を取りました。

いざ、応募が来た際に、社内DX = つまらなそう。地味….。と思っている方も多かったので、実はスタートアップと変わらない仕組みを作っていることを説明するようにしました。
具体的には、「レコリン」というプロダクトの作成背景やプロダクト仮説を説明して、社内DXとしての面白さを語るようにしました。

そうすると、社内DXにここまでユーザーファーストを貫き、UXデザインを駆使していることを語ると共感、参画してくれる方が非常に多いことがわかりました。

1人決まると事例が作れるので、どんどん採用効率は上がっていきます。
ディレクターだけでなく、エンジニア、インフラエンジニアも全て、初期メンバーはWantedlyを通じて採用することが出来ました。

特に有効的だったのは、活躍している社員は顔を出して、取り組みを記事化すること。面接のときに事前に共有していたので、より業務イメージが湧いて、ミスマッチすることがなくなりました。


このようにして、Wantedlyや社内リクルーティングを駆使し、優秀な人材を集め、組織の基盤を創りました。まさに、社内スタートアップのような勢いでした。

個性的な仲間が集まった、dip Roboticsという組織

ユニークな採用基準がもたらした多様性
dip Roboticsは、一風変わった採用基準を設けていました。それは、何かしらの分野でオタクであること。この基準によって、私たちの組織には探究心が高く、個性的なメンバーが集まりました。

例えば:

  • ピアニストなPO

  • DJフルスタックエンジニア

  • 山手線を1周して歩くデータサイエンティスト

  • アクセサリー制作をしているフロントエンジニア

こうしたメンバーたちは、自身の「オタク的」な探究心をプロダクト開発にも発揮します。確かにマネジメントは容易ではありませんでしたが、主体的で柔軟なプロジェクト運営が必要な案件が多かったため、この採用要件は重要な意味を持っていました。

独自の組織構造がもたらした強み
この組織の特徴的な点は、企画を行うPdMチームと開発を行うエンジニアチームを1つの部署に統合していることです。この構造によって、かなりプロジェクト効率が上がったと思います。

  1. 意思決定のスピードが約40%向上

  2. 企画から開発までのリードタイムが平均2週間短縮

  3. フルリモートであってもコミュニケーションが円滑

スクラム開発体制の進化
メンバーが30名を超えてからは、複数のスクラムチームを編成。各プロダクト、各プロジェクトにProduct Owner(PO)を配置し、より柔軟な開発体制を実現しました。とにかく、試さなければわからないので、リリースすることを念頭に、スプリントを回していきました。おおよその結果は下記の通りです。

  • 平均スプリント期間:2週間

  • 1スプリントあたりの機能リリース数:3-5個

  • ユーザーフィードバックの収集から改善までの期間:最短3日

プロジェクト成果
具体的にプロダクトの成果をまとめておきます。営業のスタートから、受注後の申込み入力を行う基幹システムまで、一気通貫でデジタル化を行ってきました。

一部を抜粋してみると下記のようになります。
いずれもエクセルや旧来のツールを利用していた環境を、フルスクラッチによるシステム開発、SaaSを組み合わせることで業務効率化を図って来ました。

構築に携わったシステム達(抜粋)
  • レコリンのAI推薦機能によって、営業の受注率が向上

  • MAシステムの導入、環境構築によって、リスト運用が可能に

  • 販売管理システムのフルスクラッチリニューアルで、業務時間を40%削減

  • 人事管理システムのフルスクラッチによるリニューアルで組織データ管理

  • Big Queryによるデータ分析基盤、データ環境の再構築

  • 基幹システム刷新プロジェクトの始動

  • などなど

このように、ユーザーに最速で使いやすいプロダクトを届けるための体制が、着実に実を結んだと思います。個性的なメンバーたちの探究心と最新テクノロジーが組み合わさり、プロダクトをチームをどんどん変えていく仕組みが作れたことが組織の強みとなりました。

営業も仲間に加えた組織拡大の工夫

ここまでの組織拡大のストーリーをまとめてみました。

  1. 草の根スモールスタートフェーズ
    1番始めは、情報システムの担当者として、営業現場に入り。デジタル化に向けた草の根活動をスタート。
    営業と仲良くなり、営業に便利なシステムやサービスを開発していきます。
    システムを作るだけでなく、気軽にシステムに関することを相談できる相談役のポジションが良かったのかもしれません。
    なぜなら、今までの情報システム部門は導入したら終わり、遠くからツールを導入してくる顔が見えない存在だったから信頼を得ることができませんでした。

  2. 開発組織拡大フェーズ
    営業支援を進めていくと、関連する既存システムとの連携が必要になり、現場の営業サポート部隊と仕事をすることも多くなってきました。
    CRMならば、リスト配布の現場担当と、MAツールの運用では、システム連携の会話を行うなど、関連するシステムが増える毎に、そのツールのデジタル化やDXを支援する機会が増えてきて、業務範囲がどんどん拡大していきました。
    最終的には、営業だけでなく、社内の人事やワークフローといった業務システムにまで繋がり、全社のシステムを改修する規模にまでなりました。

  3. 業務範囲拡大フェーズ
    dip Roboticsという組織を作ってからは、企画と開発チームを分けて組織編成を行いました。1つ工夫したポイントとしては、営業メンバーも組織の仲間に入れてしまったことです。
    営業自信も業務改善を行いたいという前のめりなメンバーも多いのがdipの特徴です。彼らの声を聞くだけでなく、仲間に入ってもらい、一緒にどのようなツールならば使いやすいのか?現場の最新の状況や課題をあげてくれる役割をお願いしました。

    組織やプロジェクトが多くなっていっても、現場の声を聞くことだけは手を抜くことはしませんでした。ここが他のDX組織にない、UX起点の大きなポイントであったと思います。

2. 解散の決断、その背景にある2つの理由

1. 規模の拡大と体制維持の限界

当初10名程度で始まったDX推進組織は、4年間で60名規模にまで拡大しました。プロジェクト数は月平均3件から10件へと増加し、一つの案件あたりの規模も大きくなりました。
例えば、当初は部署単位の業務改善が中心でしたが、次第に全社レベルのシステム刷新プロジェクトを手がけるようになりました。

具体的には、販売管理システムの刷新では、申込書作成のシステムフロー再構築、承認フローの再整備、基幹システムへのデータ連携と複数の複雑な要件が含まれていました。

さらに、規模が大きくなるにつれ、今までのスクラム開発の強みが活かしづらくなってきました。
このような案件の増加に伴い、「このままでは、質の高いプロダクト開発ができない」という危機感が募りました。さらに、プロジェクトマネージャーの確保が追いつかず、一人あたりの負担が増大。品質管理や納期管理にも支障が出始めていました。

2. 他部署との連携、そして役割の重複

設立当初は、社内でDXの認知度を高め、各部署の理解を得ることに注力してきました。定期的なDX勉強会の開催や、成功事例の共有を通じて、徐々に各部署のDXへの意識が高まってきました。

営業部門ではkintoneによる業務アプリの開発が推進、レコリンや複数の営業支援システムとの連携効率化を実現。
業務管理部門でも、現場主導でRPAを活用した作業自動化を推進するなど、自発的な取り組みが活発化しています。

毎月のDX推進会議では、各部署から新たな提案が次々と上がるようになり、「DX推進組織の役割は、すでに終えているのではないか」という疑問が浮かび上がりました。

3. 組織拡大から得た教訓と反省

60名規模にまで拡大したDX推進組織は、当初の想定を超える様々な課題に直面しました。前章で述べた「規模の拡大と体制維持の限界」や「他部署との連携、そして役割の重複」もその一つですが、ここではそれらに加えて、組織拡大に伴い顕在化した課題や、その経験から得られた教訓をまとめておきたいと思います。

1. 組織文化の希薄化

少数精鋭でスタートした当初は、メンバー全員が共通のビジョンと価値観を共有し、一体感を持ってプロジェクトに取り組んでいました。しかし、組織が拡大するにつれて、多様なバックグラウンドを持つメンバーが増加し、コミュニケーション不足や認識のずれが生じるようになりました。

その結果、当初の「ユーザーに感動を届ける」という理念が薄れ、メンバー間で目標や方向性に対する共通認識が希薄化していきました。
これは、組織全体のモチベーション低下や、意思決定の遅延、プロジェクトの停滞など、様々な問題を引き起こす要因となりました。

この経験から、組織が拡大する際には、組織文化や価値観を共有するための継続的な取り組みが不可欠であることを学びました。例えば、定期的なワークショップやチームビルディングイベントなどを開催し、メンバー間の相互理解を深め、共通のビジョンを再確認する機会を設けることが重要だと思いました。

隔週のワークショップなどは開催していましたが、コミュニケーションを重視した設計は出来ておらず、全員の参加意欲を上げる仕組みづくりは難しかったです。特に、企画者と開発者が混じっている組織なので、1つの同じゴールに向かうモチベーション設計をうまくやれたら良かったと反省しています。

2. 意思決定プロセスの複雑化

組織の拡大に伴い、意思決定プロセスも複雑化しました。当初は、少人数で迅速に意思決定を行っていましたが、60名規模になると、関係者が増え、合意形成に時間がかかるようになりました。

例えば、新しいツールの導入やプロジェクトの方針決定など、以前は数名で決定できていたことが、複数の部門との調整や承認が必要となり、意思決定が遅延するケースが増加しました。これは、プロジェクトの進捗を遅らせ、機会損失に繋がる可能性も孕んでいます。

この経験から、組織拡大に伴い、意思決定プロセスを効率化し、迅速な意思決定を可能にする仕組み作りが重要であることを学びました。

上記の課題が見えたときに、課長やプロジェクトマネージャーに権限委譲を行ってきましたが、他部門を超えた調整や意思決定はどうしても、私のところで行う事になってしまいます。
メンバーが自分から意思決定して、プロジェクトを遂行、成功させて成功体験をどんどん積み重ねてもらう仕組み化がもっと工夫できたのではと考えています。

3. プロジェクトの費用対効果算出

DX推進組織の宿命とも言えますが、デジタル化が進むほど、プロジェクトの成果指標を設計することが難しくなり、システム化による費用対効果の算出に苦戦するケースが増えてきました。

DXに取り組み始めた当初は、アナログ業務をデジタル化することで、業務時間が削減され、目に見える成果を上げることができました。ユーザーである営業担当者やスタッフからも喜びの声が上がり、さらなる投資機会を得ることもできました。

しかし、社内のDX化が進むにつれて、状況は変化しました。売上増加やコスト削減を、単なる理論値ではなく、実数値で示すことが求められるようになったのです。

  1. システム費用対効果の説明
    システム導入自体が直接的に売上を上げるわけではないため、受注率や商談率、顧客接触率といった中間KPIを設定し、指標の改善を目指しました。しかし、これらの指標改善と売上増加の因果関係を明確に説明することは容易ではありませんでした。

  2. コスト削減の実費用の算出
    コスト削減に関しても、同様の課題がありました。業務時間の削減だけでなく、実際に支払う費用がどれだけ削減できたのか、実数値で示すことが求められました。もちろん、人件費を削減すれば良いというものではありません。
    そのため、プロジェクトの計画段階から、いつ、どの費用項目を、どれだけ削減できるのか、綿密な計画を立てる必要がありました。

このように、DX推進組織は、「システムを作って成果が出るフェーズ」から「実際に数値を上げる仕組み作りへの転換」を迫られることになりました。

この経験を通して、私たちはプロジェクト成果の見せ方、そしてメンバー評価と組織運営の課題に直面しました。これらの課題解決には、指標設計の高度化、効果測定の精緻化、そしてメンバーのモチベーション維持のための新たな評価制度の導入などが求められます。

組織の拡大は、企業の成長にとって重要なプロセスですが、同時に様々な課題も伴います。私たちは、DX推進組織の拡大と解散を通して、組織文化、意思決定プロセス、評価制度など、多岐にわたる課題を経験しました。

4. 解散の先に見据える未来

PdMへの専念とさらなる高みへ

DX推進組織は解散して、営業DXのチームは、事業推進の舞台へ、業務DXを行っていた部隊は、社内システムの専門組織へ異動となりました。
それぞれのチームを専任組織に巻き取ることで全社での取り組みをより一層、推進していくことが可能になりました。

私は何をすることにしたかというと、改めてPdMとして、ビジネスに、ユーザーに価値あるプロダクトを提供したい信念は変わらないので、原点回帰でPdMに専念することになっています。
(社内の諸事情によるところもあります…)

携わるのは、バイトル 会社の看板ともなる事業に磨きを掛けたいと考えています。今までも過去にバイトルの業務は間接的に関わることはありましたが、組織の中のPdMとして活動することは初めてとなります。

スキマバイトの「タイミー」の上場、indeedによる掲載媒体の変革など、HR業界にも大きな変革の時が訪れています。そのため、今までのプロダクト改善だけでは太刀打ちできないので、新たな価値を高速で提供する仕組み作りやアイデアを具体化していきます。

まとめ|DX推進組織の解散は、新たなスタート

組織の解散は、決して失敗ではありません。
1人から始めた、営業DXが大きな組織となり、全社の組織に吸収されて、事業がさらに成長していく。組織をさらに大きくしていく選択肢もありましたが、

「自分が手掛けたものはリリースして、誰かに渡す。そして誰かが成長してもっと大きな成果が得られる」

そんな全体最適を考えたやり方で、新しい価値、変革をどんどん起こしていくべきだと考えています。今後のPdMとしても情報を発信していきますので、お付き合い頂けたら嬉しいです。

長文にお付き合いいただき、ありがとうございました。
この記事が、DX推進に取り組む皆様にとって、少しでもお役に立てれば幸いです。

記事を書いた人はこんな人です。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?