愛。またはそれに準ずる何か エピローグ
誰もいなくなった部屋で化け物は笑い声をあげていた。心の底から楽しそうに、嬉しそうに、げらげらと。
ずっと昔からこうなることを望んでいた。
スラム街に迷い込んだ時に見かけたあの人間の子供の心が自分の物になる時を待っていた。希望を胸に湛え、笑顔で道を闊歩する幼い、幼い子供。
欲しい。
雑草しか生えていない空間に、1輪だけ、美しい花が咲いていたら誰だって欲しくなる。そうだろう?
花を手に入れるためなら金も、時間も、手を汚すことさえも厭わなかった。そして今日!今までの苦労が実ったんだ。俺は、望んだ結末を手に入れた。彼奴の憎しみを、独占すること。
人間の中で、最も強い感情、憎しみ。
尊敬は、いずれ薄まるだろう。
恋慕は、いずれ消え去るだろう。
しかし憎悪は、いつまでも消えることは無い。
いつまでも、彼奴は、俺の事を考えざるを得ない。憎い俺の事を、大切な誰かよりもずっとずっと長い間思い続ける。たとえ俺を殺したとしても、憎しみは消え去ることは無い。彼奴の心の底には、思考の片隅には、いつも俺がいる。
あぁ、なんて素晴らしい!
誰だって、恋をしたら、相手には自分のことだけを考えていて欲しい。当たり前だろ?彼奴の心は誰にも渡さない。
笑う彼奴が好きだ。
怒る彼奴が好きだ。
喜ぶ彼奴が好きだ。
悲しむ彼奴が大好きだ。
大切な大切な彼奴を、可愛く思う。
この感情を、愛と呼ばずに、何と呼ぶと言うんだ?