紅凪
いつかどこかの研究所シリーズの作品をまとめます。大筋のストーリーだけでなく幕間などのサイドストーリーも不定期で更新していきたいです。
「綺麗な人」をまとめました。 ぜひ読んでください!
愛情深く冷淡な父と、父の連れてくるお客さん。最初の、私の世界の全てである。そこに新たな母が加わり、私の世界が出来上がった。父について語ることはそう多くない。必要もない。私が語るべきは母のことである。ところで、皆、人ならば考えたことがあるのではないか。 曰く 「良いものとは何か?」 一般に、高価なもの、使いやすいもの、1つしかないもの、エトセトラ。 私にとって「良いもの」とはつまり「美しいもの」。 美しいものは良い。 綺麗なものはもっと良い。
あるところに美しい女がいた。 そうあれと生まれ、その願い通りに美しくに育った。 しかし、誰もそれを喜ばなかった。 女には左足がなかったからだ。 女の周囲の人間は女が美しすぎたが故に、左足が欠けていることが許されざる汚点に思えたのだ。 いっそ、醜くあったなら。 身勝手な言葉が女を蝕むべく襲いかかった。 しかし、女は。 女はそのようなことは歯牙にもかけなかった。 どうして、花が、人間の都合を考えるだろうか? 花は美しく咲き誇るのだ。 たとえそれを誰も望ま
むかしむかし、あるところにごくふつうの男の子がいました。 男の子には生まれたときから一つの台本が与えられていました。男の子は、さいしょはその台本どおりにこうどうしていました。 しかし、男の子が16さいになったときふとぎもんに思いました。 「なんでぼくたちは台本どおりに生きないといけないんだろう」 男の子はがっこうで、むかしの人たちは台本なんてなく、じゆうに生きていたとならいました。 そしてせいかいのこうどうが分からなくて、むかしの人たちはくるしんでいたともならいまし
むかしむかし、あるところにお芝居を見るのが大好きな女の子がいました。 女の子は、お芝居を見てそれをまねしてよくあそんでいました。 その女の子が大きくなったとき、友だちとささいなことでけんかをしてしまいました。 一人になって、れいせいになった女の子はとても悲しくなりました。 げんじつは、お芝居とはちがって、自分のこうどうは自分で決めなければいけません。せいかいのこうどうも、まちがいのこうどうもありません。 女の子にとって、それはとてもりふじんなことにかんじられました
私は、確かに、変わった信仰の残る村に生まれたさ。でも、だからって、それが、私がこの村で神と崇められているものを信仰する理由にはならない。ましてや、死ぬ理由になんて。そうだろう?私は間違っていないはずだ。 なのに、なんで、こんなことになっている? 目の前にはどこまでも広がる海。背後には叫ぶ民衆。 私は乾いた笑い声をあげた。 私は神を信じない悪魔だから、この命でもって、神に赦しを乞わねばならぬらしい。 はは、全くもって馬鹿げてる。 どうして、私が! そう叫び出した
ノックの音に続いてドアが開く音がする。 ぼんやりした意識の中で俺はそれを認識した。 「こーんばーんは!ってあれ、先輩寝てる?」 うるさいな。この声は……Aか。 俺は呻き声を上げながら体を起こす。机に突っ伏して寝ていたからか、体が所々痛む。 「あ、おはようございます」 手探りで眼鏡を探してかける。はっきりと輪郭を結んだ視界の中でAが笑っている。 「何かあったか」 「定時報告でーす!」 そんな時間かと思い壁にかかっている時計を見る。確かに定時報告の時間ぴったりを指し
無機質な扉を開けると大きくて丸い目が僕を見上げる。僕の被検体、三一〇番ちゃんだ。 「あ、A先生!今日は何するんですか?」 明るくて社交的、性格だけならまさに理想の被検体だ。 「今日はね〜検査だよ〜」 そう告げると三一〇番ちゃんはがっくりと肩を落とす。 「検査ですかー」 「嫌だよね〜。でも必要なことなんだ。ごめんね」 子どもは特に検査を嫌がる傾向がある。この反応は正常の範囲内だ。うん、今日も異常なし♪ 「ううん、頑張ります!」 「その意気だよ」 気丈に振る舞う三一〇番
なんだか、まるで、僕が一人になったみたいだ。 周りの人が話してる声も、車の音も、僕が息してる音も聞こえない。どれだけ足踏みしても、くつ音一つ聞こえない。あれ?なんでだ? 僕が周りの人が聞こえなくなったみたいに、周りの人も、僕が聞こえなくなったみたいだ。 お母さんが僕を探してる。となりにいるのになぁ。 ジャンプして呼んでみるけど、やっぱり、聞こえてないみたいだ。 困ったなぁ。なんだかすごく寂しいぞ。 お母さんの袖を引っ張ってみる。道行く人に声をかけてみる。犬のしっ
「せー!……あー、ノックだっけ」 いつもの勢いでドアを開けようとして踏みとどまる。今朝言われたことを思い出してノックする。……返事がない。寝てるのかな? 「あ、A先生。B先生なら食堂にいますよ」 たまたま通りかかった職員が教えてくれる。 「そうなんだ。ありがと〜」 「いえ、お疲れ様です」 「君もね〜」 職員を見送って考える。 定時報告だし、遅れたら怒られるよな〜。仕方ない、持ってくか。 食堂に着いて見渡してみると……あぁ、いたいた。B先輩は1人で窓際の席に座って資料
俺の担当、四九五番。いつも不安そうな顔をしている大人しい女児だ。実験が上手くいけば、虫とのキメラとして戦場に立つことになるだろう。 可哀想だと思ったとしても、ここはそういう場所だ。 「あ……B先生。おはようございます」 椅子に座って絵を描いていたらしい四九五番はこちらを見て小さな声で挨拶をする。 外見の変化はなし、今朝は猫の絵。 「おはよう。体調はどうだ」 「えっと、大丈夫、です」 体調は良好、と。 「朝食は摂れるか」 持ってきていたトレーを机に置く。パン、スープ
「せーんぱーい!おっはよーございまーす!」 間延びした脳天気な声で挨拶をしながら、糸目の後輩、Aは部屋に入ってくる。 「朝の定時報告に来ましたよー!って、うわ」 俺が手に持っていた資料を机に置いてAの方を見ると、Aは露骨に引いたような顔をする。 「部屋に入るときはノック」 「あー、はいはい、すみません。で、先輩、寝ました?昨日」 Aは自分の目の下を指差しながら多少心配そうな声を出す。 「寝てない。それより、報告書」 こいつにはまともに受け答えしない。適当にいなしながら
6月6日1751年(水) 今日は8歳のお誕生日だった。お友達は呼べなかったけれど、お母様と乳母や侍女たちがたくさんお祝いしてくれた。すごくすごく嬉しかった。 乳母がお父様からのプレゼントだと言ってくまのぬいぐるみをくれたけど、彼女の給料からすればあれはきっと高かったはず。無理をして買ってくれたのだから、大切にしたいと思う。 それだけじゃなくて、侍女たちも日記帳をくれた。今書いているこのノート。彼女たちの忠誠心に応えられるよう、立派な女性になりたいと思う。 6月6日17
私がそれに出会った日を、鮮明に覚えている。あの胸の高鳴りを、私はきっと、一生忘れることはない。 「それ」は、一冊の本だった。暇潰しに、と買った、100ページにも満たない、タイトルだけで選んだ本。 それが、何より私を感動させた。 1文字、1文字、選び抜かれただろうその言葉は、すぅ、と私を美しい世界へ引き込んだ。私は息をすることすら忘れてその本を読んだ。 心が震えた。読み終わったあとも、しばらく、本を開いて、最後の言葉を見つめていた。 それから、本の著者について調べ
人の幸せ、喜べません。 だって、それが普通でしょ?例えば人が自分よりいい成績だったら羨ましいし、褒められてたら妬ましい。 でも、そういう暗い感情を笑顔と「すごいね」って言葉に隠すのが人間って生き物で、そうしないと社会という群れの中では生きていけない。 幸せな他人を笑顔で祝福しながら、心の内は嫉妬で溢れかえってるんだ。 だから、「私の幸せ、喜べますか?」って問いの答えは「NO」だ。その幸せ、僕に寄越せって思うじゃん、ねぇ? 家族の幸せなら、本当の親友の幸せなら、いざ知
「ま、人生ってさ、長ぇもんだよな」 なんの脈絡もなく、隣に座る友達に言ってみた。 「……そうか?僕は短いと思ったが」 彼は顎に手を当てて少し考えたあと、首を傾げた。 短いと思える奴は幸福だと思う。やりたいことが沢山あって、とても80年とかそこらじゃやりきれなかったんだろう。こいつは多分、幸せに生きて死んだ。 「一回一回は短いかも知んねぇけど、何回も繰り 返して、その時間を総合するとめっちゃ長い」 輪廻転生ってやつだ。前世、その前世、そのまた前世。もしくは、来世、その来
世の中には色んな奴がいるとはよく言ったもので、さんざ好き勝手して捕まった挙句、死刑になって悪魔と契約したオレみたいなどうしようもない奴もいれば、魂はいらないからお菓子をよこせって言ってくるような酔狂な悪魔もいる。 オレも魂を渡すよりは多少苦労してでもお菓子を集める方が楽だと思って契約したんだが、要求される量の多いことこの上ない。 子供の姿で蘇らせられたオレの腕いっぱいの量でもまだ足りんと言う我が暴食な悪魔様はチョコレートがお気に召したらしい。それを大量に要求されるからた