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行動経済学の逆襲 要約⑤
第5章「神を追いかけて西海岸へ」では、著者がカーネマンとトヴェルスキーのもとを訪ねた際のエピソードが書かれています。行動経済学に関する学びはないので、省略します。
さて、著者が「行動経済学」の研究に関する講演を行うと、従来の経済学者から批判がおおく寄せられていました。
この批判は現在でも続いているものであるため、行動経済学への批判とそれへの反論をまとめていきましょう。
今回は、第6章「大御所たちから受けた棒打ち刑」、の要約です。
【全体の要約】
行動経済学への代表的な批判として、「あたかも説」・「インセンティブ説」・「学習説」・「競争説」という4つの批判があり、それぞれに対して反論も用意されている。
1.「あたかも」説
人は経済学者が説くような難しい問題を解いているわけではないが、「あたかも」解いているかのようにふるまう、という批判です。
経済理論で重要なのは、理論の予測が正確かどうかであり、過程は重要ではないということです。
経済学の例ではないですが、「ビリヤードのプロは、実際に玉の軌道を計算しているわけではなく、あたかも計算しているかのような予測のもとプレイをする」という例がよく引き合いに出されます。
2.「あたかも」説への反論
あたかも説への反論として、これまで挙げてきたような、人間のふるまいが「あたかも正しい判断をしたかのようなもの」ではない例がたくさんある、というものがあります。
ビリヤードの例にすると、ビリヤードのプロならば、あたかも計算しているかのようにプレイをするが、一般人はそんなうまくはできないでしょう。という反論になります。
3.インセンティブ説
人間は、意思決定に関わる利害の規模が大きくなると正しい判断をするという説です。
行動経済学の実験は、実際にお金を賭けたりしていないため、インセンティブがないから実験結果に意味はないという批判があります。
4.インセンティブ説への反論
次のような実験結果があります。
A:97%で10ドルもらえる
B:37%で30ドルもらえる
質問①賭けをするならどちらを選びますか?
質問②Aに挑戦する権利をあなたが持っているとき、いくら以上なら売ってもいいと思いますか?
質問③Bに挑戦する権利をあなたが持っているとき、いくら以上なら売ってもいいと思いますか?
質問①の答えは、A>Bとなりました。一方、質問②と③を比較するとA<Bとなりました。(Bを売るときの方がお金が高い)。
つまり、選好の逆転が生じたのです。この実験を実際にお金を賭けて行ったところ、選好の逆転度合いはむしろ高まる、という結果となりました。
この結果は、インセンティブ説への完全な反論とまではいかないけれども、反対する根拠にはなっています。
5.学習説
人は確かに誤った判断をするかもしれないが、「学習」によって正しい判断をするようになるという説です。
「学習」には、頻繁に反復練習できる事・すぐフィードバックがかえってくること、の2要素が必要になります。一見正しい主張のようですが、先ほどのインセンティブ説とある程度の矛盾が起きてしまいます。
「学習説」:頻繁に経験することの方が、学習により正しい判断ができる
「インセンティブ説」:インセンティブが大きい方が正しい判断ができる
つまり、学習説では、日常の買い物レベルの方が正しい判断ができる、と主張するのに対し、インセンティブ説では車や家の購入の方が正しい意思決定ができる、と主張しているのです。
6.競争説
人々が誤った判断をしても「市場の見えざる手」によって、合理的な結果になる、という批判です。これに対する反論は第6部で扱われます。
以上が第5・6章の要約になります。
次回予告
次回からは第2部「メンタル・アカウンティングで行動を読み解く」へと入っていきます。次回は、第7章「お得感とぼったくり感」です。