行動経済学の逆襲 要約⑩
毎月給料日前になるとお金がなくて困ってしまうのに、給料日になるとすぐお金を使ってしまう、なんていうことはよくある話です。何となくお分かりかとは思いますが、エコンならばそのようなことにはなりません。
今回は、第11章「いま消費するか、あとで消費するか」の要約です。
【全体の要約】
人は、将来の消費の価値を割り引いて考える傾向がある。また、その割引率も一定ではなく、遠い未来の話ほど割引率は小さくなる。そのため、消費を判断する時点によって、判断が変わることがしばしばおこる。
経済学者たちは、「消費関数」に関する議論を進化させ、人は長期的に消費を均等化させると考えたが、上記の理由から所得の増加は消費を将来にわたって均等に増加させるとは言えない。
1. 割引効用モデル
「割引効用モデル」の基本的な考え方は、「今消費すること」は「後で消費する事」よりも高く評価される、という考えです。
例えば、「今ステーキを食べるか、1年後ステーキを食べるか」と聞かれたら、「今食べたい」と答えるということです。
また、「365日後にステーキを食べるか、366日後にステーキを食べるか」と聞かれたら、「どっちでもいい」と答えるでしょう。
ここでは、「将来のステーキ」の価値が割り引かれているのです。このモデルでは、将来の価値は一定の割引で割り引かれるとされています。
2.「現在バイアス」:割引効用モデルの限界
「割引効用モデル」は、「割引率は時間がたつにつれて変化する」ことを検討できていない、という限界があります。現実の人間は将来の事であればあるほど割引率が低くなっていくということが、指摘されています。
割引率の話が少しわかりづらいので、数値例を示します。
▽割引率が一定 (例:毎年10%ずつ割り引かれる)
現在の価値:100 1年後の価値:90 2年後の価値:81 3年後の価値:72.9
▽割引率が低くなる(近い未来の方が大きく割り引かれる)
現在の価値:100 1年後の価値:70 2年後の価値:65 3年後の価値:63
このように、現在に近いものの価値を高く見積もってしまうことを「現在バイアス」といいます。現在バイアスがある場合、人の行動は変化することがあります。具体例は下の例をみてください。
下のような3つの選択肢がある。
① 2018年に1500円の肉を食べる
② 2019年に2000円の肉を食べる
③ 2020年に2500円の肉を食べる
そして、Aさんは、現在の価値:100 1年後の価値:70 2年後の価値:65 という割引率で価値を計算することとする。
すると、
2018年時点での価値:①1500 ②1400 ③1625
2019年時点での価値:①もう過ぎてるので無視 ②2000 ③1750
となり、2018年時点では③を選択するのに、2019年になると②を選択することになってしまう。
3. 家計の支出に関する議論の発展
「消費関数」という、家計の支出が所得によってどう変化するかを定式化したものがあります。消費関数モデルの歴史的な進化の過程をたどってみましょう。
① ケインズの「限界消費性向」
ケインズは、所得の増加は、貯蓄の増加もしくは消費の増加のどちらかに分配されると考えました。そして、所得の増加のうち消費の増加に回る割合を「限界消費性向」と呼びました。
例えば、1000円収入が増えたときに、400円貯金・600円消費、と使い分けた場合、限界消費性向は60%となります。
限界消費性向は、貧しい家庭の方が高くなることが知られています。
② フリードマンの「恒常所得仮説」
フリードマンは、所得が増加した場合、貯蓄に回す分をひいたうえで、消費を将来にわたって平準化するのではないかという仮説を立てました。
例えば、1000円収入が増えて100円貯金したとしましょう。残りの900円ですが、今年300円使い、来年300円、再来年300円、のように将来にわたって分配していくという考え方です。
③ モジリアーニの「ライフサイクル仮説」
フリードマンの考えをさらに拡張したのが、モジリアーニの「ライフサイクル仮説」になります。この仮説によると、人は若いうちに、生涯所得を生涯で均等に割り振る計画を決める、ということになります。
このように、消費関数の歴史を見ると、「人は長期的に消費を分配できる」という説が正しく明晰なモデルだとされていることがわかります。
しかし、現実のヒューマンは、このような賢いふるまいをすることができません。その理由は、これまで見てきたように「現在の消費の価値」を高く見積もってしまうからです。
以上が第11章の要約になります。
次回予告
次回は、第12章「自分の中にいる計画者と実行者」です。