見出し画像

行動経済学の逆襲 要約⑭

 私たちは、利己的な判断をすれば自分が得をできる場面でも、他の人との協力関係を維持することを選ぶことがしばしばあります。
 今回は、第15章「不公正な人は罰したい」の要約になります。

【全体の要約】
 エコンはならば利己的な判断をする場面で、実際の人間は「自分が損をする」判断をすることがある。
 その背景には、「不公正な人を罰したい」という思いがあり、周りの人が協力関係を維持してくれるなら自分も維持する、という判断が見て取れる。


1.最後通牒ゲーム

 次のようなゲームを考えましょう。

ゲームには「提案者」と「応答者」の二名が参加する。
提案者は10ドルをもらい、その10ドルのうちいくらかを応答者にわたす。

・応答者が貰った金額に納得
⇒提案者は残りの金額・応答者は貰った金額を手に入れられる。
・応答者が貰った金額に納得がいかない
⇒提案者も応答者も1ドルももらえない。

 このゲームにおける、標準的な経済学の解答は、「提案者が最も0に近い金額を提示する」です。
 
 なぜならば、「応答者」は断った場合何ももらえないため、提示された金額がいくらであれ、受け入れることで得するからです。
 「応答者」がどんな金額でも受け入れることを考えると、「提案者」はできるだけ自分の取り分を増やして提示することで、一番得をすることができます。

 しかし、現実にこの実験を行ってみると、多くの提案者が半分ずつ分けることを提示しました。この結果は、「公正感」に欠ける提案は受け入れられない、ということを考慮にいれたうえで人々が行動していることを示唆しています。

 このゲームは、最初に「提案者」に渡される金額が増えれば結果も変わるのではないか、という反論もありますが、貧しい国で行った実験でも、同様に半分ずつ分け合う行動が多く観察される、という結果が出ています。

2.懲罰ゲーム

 続いて、次のような実験を考えます。

別の被験者に「最後通牒ゲーム」の説明をしたうえで、次のような二つの提案をします。

① お金を半分ずつ分けることを提案した人と、10ドルを山分けする。
② 欲張って提案額を少なくした人と、12ドルを山分けする。

この2つから、どちらを選びますか? 

 このゲームは、「強欲な人とお金をわけあうより、1ドル損してでも公正な人とお金を分け合う方がいいですか?」という質問をしていることになります。
 結果は、74%の参加者が、①を選ぶということになりました。つまり、「不公正」で強欲な人には罰を下そうと考えている人が多いことが分かります。

3. 囚人のジレンマ

 エコンは純粋に利己的な判断をしますが、現実のヒューマンは本当に利己的なのか?を検証する有名なゲームが「囚人のジレンマ」と呼ばれるものです。
 囚人のジレンマの説明は、下記サイトをご覧ください。

 また、同じ類のゲームとして、「公共財ゲーム」があります。

10人の実験者が集まり、「公共財」に拠出する金額を各自が決める。各自の拠出額を合計して、それを2倍した額を全員に均等に分配する。

 このゲームでは、「何も拠出しない」ことが利己的な戦略となります。なぜなら、何も拠出しなくても、他の人が払った金額が山分けされるからです。
 しかし、実際には、実験参加者はほぼ全員、ある程度の金額を拠出するという結果になりました。

 このゲームの結果に対して、参加者は経験を積むことで「何も拠出しないこと」が最善だと気付く、という指摘があります。
 そこで、このゲームを繰り返し行うことでどうなるのかを観察しました。すると、協力率はあまり変わらないという結果になりました。
 
 この結果に対する解釈は、人は「条件付き協力者」としてふるまう、というものになります。他の人が協力的ならば自分も協力するけれど、協力率が下がってくると自分も協力しないという姿勢だということです。
 このような繰り返しゲームでは、「不公正な人への懲罰」を設けることで、それが戒めとなって協力関係が築かれていきます。

以上が第15章の要約になります。

次回予告
次回からは、第16章「マグカップのインスタント保有効果」です。


いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集