「ありがとう」の一言が無いと、老後は寂しくなる。
「おじいさん、好きにしていいですよ。もう来ませんから」
こんなセリフを最後に、高齢者のそばから去っていく介護者たちを何人見てきたことか。
介護現場はご存知の通り、人不足。そりゃ、誰だってよりよい介護を提供したいと思っていますよ。でも、でもです。
介護者は「サービス」を提供する事業者であると同時に、一人の「人」なんですね。
・横柄な態度で、「ありがとう」の一言も言わない人
・礼儀正しく、感謝を伝えてくれる気持ちのよい人
どちらに心から寄り添いたくなるかは、想像の通りです。
冒頭の一言と対象的に、介護者の力を引き出し突き動かした、最近出会ったあるおばあちゃんの話を紹介します。
労いの言葉が、介護者の力を引き出す
「また来てね。気をつけて帰ってね」
いつもそうやって、私たちが帰る際に礼儀正しくお見送りをしてくれるおばあちゃん。
ガンの末期でもあり、体内の水分排泄機能が低下して、胸水、腹水が溜まって常に息苦しそう。骨転移もあり、痛みも強い。
毎食後の痛み止めも、更に頻度高く服用するようになった。私たちから見ても、あとどれくらい気力や体力、そして命がもつのだろう・・・。
痛みも強く自由に呼吸ができないような状況で、他人に優しい声がけや配慮ができるだろうか?正直、私には自信がない。
でもおばあちゃんは、
身体を支えたら「ありがとう」。
オムツ交換の時、お尻を一回拭けば「ありがとう」。
と、自宅へ訪問する私たちに「ありがとうございます」と口癖のように声をかけてくださる。
本当に気持ちのよい方で、次も訪問したい、そばで支えになりたいという気持ちにさせてくれる。
おばあちゃんが、最後の時間を自宅で過ごしたいと選択した時。
医療と介護のチームが集まり、訪問する日時を決めました。
朝一番は、7時に私たちの事業所。
お昼前は、訪問看護事業所。
就床前は、21時に私たちの事業所。
それらの間にご家族がサポートに入る。
女性中心の私たちの事業所は、自宅に帰れば家事や育児、介護を抱えるスタッフもいます。早朝や就寝前の夜間の勤務は、家族の理解、自分の体力とも相談しなければなりません。
できれば避けたい時間帯なのですが、それでも、最後まで付き合いたいとスタッフを突き動かしたのは、おばあちゃんからの私たち看護や介護士たちを労う言葉でした。
「ありがとう」、伝えてますか?
このおばあちゃんのような方ばかりだったら、もう少し介護人材も増える気がするのだけど(苦笑)、今まで本当に色んな高齢者さん、ご家族に出会ってきました。
・モラハラ、セクハラを平気で行う人
・依頼時間めいいっぱい、とにかく詰め込まないと損した気分になる人
(まあ、それが仕事ではあるのですが限度というものも...)
・体調が悪いためか、訪問スタッフにきつくあたる人
・家族からの依頼を受けて訪問したのに怒り出したり、居留守をする人
…看護師や介護士たち介護者も、感情を持った人間です。
もちろん「仕事」ですから、馬が合わない場合も最大限、必要なケアを行いますよ。
何が言いたいかというと、心穏やかな老後やみんなに囲まれながら安心して最後を迎えたいのなら、関わってくれる医療介護従事者、そして身近な家族に感謝の気持ちを伝えられる人であること。
決して医療介護従事者が偉いというわけではなくて、必要とされるからこそ、私たちも真摯に向き合いたいと思うわけです。お互いに共感し合えなければサービスは成立しない、いい介護は成り立たないとも思うのです。
日本人は感謝の言葉を口にすることは苦手だと言われるけど、やっぱり口にしないと伝わらないものです。
「ありがとう」。
些細な一言だけど、まわりの力を引き出す言葉。
私も今から、練習しておこう。
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