個人の語りを聴き、人生を紐解く営みについて学びあうゼミ。ライフストーリーやみのうえばなしにフォーカスしたライティング文化をつくる「みんな主人公計画」プロジェクトです。
命を落とす以外のことは なんでも経験しなさい たくさん失敗して 自分だけの正解を体得しなさい 世界中に、歴史上に どれだけ人がいようと あなたはほかにいないのだから いろんなものを見て いろんなものに触れて いろんな人と交わって 喧嘩して、泣いて 笑いあって、気まずくなって そのあと心に残るものを大切に 自分の決定に自信を持って だれになんと言われても 人生のキャプテンはあなただから 見たいものをじっくり観察して そのほかにあるものも見落とさないで 汚くて、みすぼら
5/3(水)晴れのち小雨 自立支援ホームでの日々を記録しようと思う。 上司の名取さんと挨拶をし、書類の記入を教わる。名取さんは、サラッとしたボブヘアにメガネをかけていて、美術や国語の教師のような雰囲気を漂わせている。 昨日からひとりの子(サエさん)が熱を出しているのだそう。何か食べたいとメッセージ。味噌味のおじやを作る。食事を摂りに下りてきたサエさんは、「こんなにキツいのに。死ね」と名取さんに暴言を吐いた。 昔、読んだ小説のセリフを思い出す。「感情的な姿を見せられるの
※以下の文は、すべてフィクションです。 自分の経験をいつか、どこかでまとめなきゃいけない気がしてる。ほとんど普通の人と変わりなく人生を過ごせるようになった今。 善も悪も、生きる意味も、人の立場も、将来も。ひとつひとつの教えを列挙するのも、体験を書きつらねるのもなんだか気が向かないから、雑記とする。 あの中で生まれ、そこで生きることを選んで、立ちすくむ拳に力を入れたら、手のひらに爪がめり込んだ。生の許しを祈り、みぞおちから口の中まで溢れる虚しさを必死に飲み込んだ。ああ、つ
「どうですか」 「うん、まあまあ、ぼちぼち、ふふふ」 そんな返答が嫌いだった。 「あんた、かしこおに生きなあかんじょ」 そう言われてもっと嫌いになった。 賢く生きるために、自分を守るために。社会と共感の接点を断つことが賢く生きることなら、バカでいいやと駆け出した。パトカーを避け、深夜の町をママチャリで走るみたいに。そんな日々を繰り返し、見た痛い目も、もちろんあった。 問いに「ううん、まあ大変でした」と答えることが、隔離されない世界に身を置くことで、それが拾い上げられても
(雑記) 花が咲くと木の種類がわかりやすくていい。ゆらりゆらりと揺れる薄ピンク色のネムノキが、いまのざわめく気持ちを刷毛で撫でつけるようで次第に落ち着いてくる。そこにも、ここにもネムノキ。遠く離れても、わたしは、世界は繋がっていると思わせてくれる。夜にはほんとうに眠ってしまうのか確かめに、ナイトウォッチングに出かけよう。 * おぎゃあと生まれて物心ついてから、ほんの数年前まで死にたいと思わずに生きている人がこの世にいるなんて信じられなかった。そして、そう思わないことが健
「書いたものには、その人がこの世界と他者をどれだけ信じているかが如実に現れる」 今日、そう言ったのは他でもないわたし。どう読み直しても主語の大きい言葉だけど、ほんとうを言うと、誰かの文章を読んでそんなことを感じるなんてほとんどない。だから、今日言ったこの言葉の「その人」とは、実際にはイコール、この世界と他者を信じたいわたしだ。 そうでない文章とは、つまり世界と他者を信じていない文章とは、説明くさく、遊びがなくて、わたしとあなたの境が明確なもの。「わたしはこう思う!あなたがど
どれだけ正確な情報も言葉も、受け手が振り回せば立派な凶器になると、知らず知らずのうちに体得していたみたい。ただ、だれかを疑い非難するきっかけになる文章を書かずにいたい。 * 3月に修了したライター講座で、言葉を扱うものはどれだけ責任を持っていられるか、搾取的・暴力的でない実践を積めるのかと、そんな話が出た(ような気がする)。薄氷よりも割れやすい記憶のため、いつもどおり自信はない。 ぼんやり、ぼんやりとずっとそのことが気になって、ときどき思い出しては考えて、また仕舞ってと
こないだな、ライター講座に行ったんよぉ。ほこでな、課題っていうか、ワークっていうか。ほこで集まった、うちも入れて5人おったんやけどな、各自で考えるシートみたいなん配られたんよ。ほんなかに、書いとったこと、話さしてな。 まあ、いろいろ書く欄はあったんやけどな。一個、ずばーん!ずきゅーん!て来たんがあってな。ほれが、「伝えるまたは表現することで、何かを掴んだ体験」て項目だったんよ。 うちな、絵描くん好きなでぇ。え、知らんので。ほうよ、ときどき絵描くんじょ。あんまうまぁはないけ
ライター講座二回目を受講した。一回目でインタビューのワークと文字起こしの宿題が出ていたのだけど、なぜかなぜか、わたしの宿題が二回目の講座の題材に選ばれてしまった。打診があったとき、当たり前にいやだし、よくよく立ち止まってもいやに違いなかったけど、トータルいろいろなことを考えて状況に任せようと賽を投げたら、わたしになった。 当日はみんなにインタビュー音源を聞いていただくことになり、みんなというのはZOOMも含めて十人以上、アーカイブも含めると…と考え始めるとマントルまで潜
だれかがいないとき だれかについて思いめぐらせること なにかがないとき なにかについて思いうかべること あの人のことば あの子の爪のかたち 過ぎた春の桜 あの山の苔 いまここにひとりでいても 故郷の山も 遠い異国も 過ぎた季節も あなたも わたしも 愛していられる そして 愛されていられる
ーーどこに住んでも、何を信じてても、神さまのひとつやふたつ、誰しも持ち合わせてるものだ。 えっと、神さまのつくりかたは知ってる?難しくなんかないよ。 ときどき、いつ入れたか分からないものがポッケに入ってる。そんな経験、誰にだってあるでしょ?まるで、わたしに会いたかったかのように、わたしの手の中に現れる瞬間。 リサイクルショップで買った服にたまたま、何でもないクリップがひとつ入っていたり。道を歩いていたら、たまたま落ちていた石ころが夕日に照らされ、ひとつだけ輝いていたり。
猫はーー 動物はーー 死をどうとらえているのだろう。 殺人的な暑さの夏の日。夕暮れ。痩せ細ったメスの三毛猫が、向かいの家の玄関に出された餌をカリカリと食べている。 「クロミ」 名前を呼んだ。こちらに一瞥をくれて、またカリ、カリ、と。 この五日で、ずいぶんと痩せてしまった、そのちいさな体に胸が疼く。 隣で何も知らず待ちぼうけを食らった無垢な犬が、辛抱たまらず吠えはじめた。そう、散歩に行こうとしていたんだった。 犬をもう一度待たせて、家へ戻る。ボックスから犬の餌をすく