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高麗屋、花形勢揃い:七月大歌舞伎『裏表太閤記』レビュー

 七月の歌舞伎座夜の部『裏表太閤記』は、見どころ満載の賑やかで活気溢れる新趣向の歌舞伎狂言である。
 元は二世猿翁が猿之助時代に奈河彰輔(脚本)、六世藤間勘十郎)(演出、振付)とともに産み出した現在のスーパー歌舞伎のはしりとも言うべき新作。このたびはオリジナルに手が入り尺を縮めて初演以来43年ぶりの舞台とのこと。
 創作新歌舞伎らしく、大滝の場では水流激しく客席にまで水飛沫迸り、猿と呼ばれた秀吉の夢が『西遊記』孫悟空の仕立て。きんとん雲に乗ったが如くに当代幸四郎宙乗りで観客を感嘆させ、大立ち回りは、役者が一階から三階まで歌舞伎座を縦横無尽、神出鬼没の体で躍動する。新劇ではもはや当たり前の時空展開がまこと刺激的である。大詰では、桜花舞い散るなかでの松也、巳之助、右近、染五郎に幸四郎も加わっての三番叟。
 三幕十二場、間然するところがない。当代幸四郎の、劇団⭐︎新幹線への武者修行が個人の枠を超えて周囲取り込み見事に収斂した、と評したい。
 そして、それらにも増して、なんと言って白眉は白鸚、幸四郎、染五郎といった高麗屋本家三代の勢揃いであろう。ひとつ板の上で3代が呼吸整え見栄を切る。二幕目第三場「海上の場」がそれである。
 世に名高い秀吉の「中国大返し」を船を仕立てての移動と華やかに色付けて、途次荒波に翻弄される。幸四郎秀吉と、おのが父の首を証しに帰順した染五郎鈴木孫市とともに同乗していた信長の遺児三法師の母、右近小野のお通がヤマトタケルの故事に倣い、わが子を秀吉に託し、入水、それを承けて海の神白鸚綿津見登場という筋書きである。贔屓筋お目当てのこの場をつつがなく目の当たりにできた喜びに大向こうからの屋号の掛け声が華を添える。
 なんという贅沢、なんという賑わい、そして活気。寿猿の94歳も、驚愕、敬服である。昼は、團十郎白猿の十三役早替わり、宙乗りの『星合世十三團』で、昼夜とも通し狂言である。好事家急ぎ木挽町に駆けつけられたし。

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