源氏物語 1
『1946・文學的考察」で福永武彦が書いた「源氏や西鶴を読むことは、原書でジイドやロオレンスを読むことより一層むずかしい」とのくだりに、はたと思うところあって恩師鈴木日出男先生が校註者のおひとりとして並ぶ小学館『新編日本古典文学全集』ハンディ版『源氏物語』①を巣籠もりGWの一冊とした。
修士課程の2年間、指導教授中西進先生がプリンストン大に招聘された事情により、院生としての研究の最初の手ほどきは日出男先生に頼ることになった。写真は先生との学会出席のため福岡に同行したときの一枚。先生とは部活の夏旅行で奈良へもご一緒いただき、振り返ると本当に沢山の教えを頂戴したことだった。「夕顔」までの初発4巻ながら、読んでいてほっとする典雅な文脈をたどりつつ、すでに故人となられた先生の静かなお話しぶりが懐かしく胸に迫り、泣きたくなるような感慨に包まれる。
高校生の頃、訳本の刊行が開始された円地文子源氏を出発点として、50年間、原文、訳本さまざま読み続けて、大学院では学界第一人者に読むこと、研究することの基本を鍛えられた『源氏物語』も、大江、ドストエフスキー、小林秀雄、加藤周一とともに明らかにぼくという人格を形成している存在である。 2021/05/05