
村田諒太と北野武とウィル・スミス
WBA世界ミドル級スーパー王者、村田諒太の試合が一週間後に迫ってきた。
相手はIBF世界ミドル級王者、ゲンナジー・ゴロフキン。ミドル級史上最多の世界タイトル21回防衛、KO率80%以上、デビュー以来ダウンの経験はなし。殿堂入り間違いなし、ミドル級の伝説である。
下馬評では圧倒的にゴロフキン有利。はっきり言うと村田は噛ませ犬の立場だ。
それでも村田は、自分が噛ませ犬であることを理解した上で「ゴロフキンを倒せば、自分が最強だと証明できる」と語っていた。
めちゃくちゃかっこいい。『男』という感じである。
実は私、めちゃくちゃキュート&セクシーなオカマちゃんでありながら昔ボクシングをやっていた。
M男さんにそれを言うと「殴ってください✨」と目をキラキラさせて懇願してくるので、「じゃあ軽く…ほっぺたにいくよ?」と言ってからサウスポーで構え、得意技の右ボディアッパーでみぞおちを撃ち抜くようにしている。大体のM男さんは「ヒュー…ヒュー…」と言いながら膝まづく。ざまぁである。
ボクシングは今でも大好きでよく観ている。ボクサーは紳士的で優しい人が多く、そんな人達がリングでは野蛮に殴り合う姿にキュンキュンしちゃうのである。ギャップ萌えだ。
やさぐれたオカマのテンプレに漏れず、私も野蛮な男は大好きである。
当然、ヤクザ映画も大好きだ。『孤狼の血』のことは日記で書いたが、あれからも何度も見返しているくらい好き。北野武の『Brother』も大好きだ。『アウトレイジ』はなんかイマイチ。
『Brother』の何がいいかと言えば、あの哀愁漂う感じだろう。暴力暴力で生きてきた男に漂う哀愁。たまらない。
そして暴力といえば今話題のウィル・スミスである。
アカデミー賞授賞式でコメディアンの司会者にビンタ喰らわせた件がネットと茶の間を賑わせている。
人の容姿をネタにする芸が良いか悪いかは文化や価値観によるだろうからわからない。個人的に好きか嫌いかで言うと嫌いだ。
だが、アメリカ、そしてアカデミー賞授賞式という場では通例の事として受け入れられていたというのをニュースで見た。ならば、司会者の行ったネタは『あの場所では』問題ない内容であり、司会者は求められた仕事をしただけなのだろう。
一方、暴力はダメ絶対である。なぜなら犯罪だからだ。そして犯罪とされているのはそれなりの理由があるからである。問答無用である。
だが、割とウィル・スミスの暴力を肯定している人が日本には多くてびっくりした。腹立たしい気持ちになったのは分かるが、殴ってはダメだろう。
しかも相手は意地悪で侮辱したわけではなく、あくまで、その場で期待されていた、そして許容されていたはずの仕事をしただけだ。その証拠に会場には笑いが起こっていた。
「そういうネタは良くない」と思うのなら、そういう社会活動をすれば良い話であり、その場でカッとなったとしても気持ちを抑えて冷静に抗議をするのが『普通のちゃんとした大人』である。
そんなことは常識だと思っていたので、暴力や報復行為を肯定、共感する人の多さに少し驚いた。私は世間知らずなのかもしれない。この国に体罰が染み付いていた理由が何となくわかった。
あと「平手打ちなんて大したことない!」という意見も目にした。ボクシングをやっていた身からすると、無防備な相手の頭部への打撃に安全なものなんてないよ、と言いたい。だから私も、どれほどM男さんにせがまれようともボディしか打たないのである。「顔はやめとけ!ボディにしな!」とスケバンもよく言うではないか。
ここまでウィル・スミスの行為を全否定してきたが、私は野蛮な男が好きだ。よって『妻を侮辱された怒りで相手を殴る男』も好きだ。
ただし条件がある。
『相手が拳銃を持っている殺人犯5人組でも殴りかかれる男』に限る。そして拳銃を奪って5人全員を殺すか、負けて殺されるその瞬間に相手の顔に唾を吐ける男でなければならない。
そこまでいって初めて、暴力に美が灯るのである。
「ファッキンジャップくらい分かるよバカヤロー」と敵を皆殺しにする。そのかわり、銃を構えた警官に囲まれたら堂々と正面から出ていき、蜂の巣にされる。そこまでいかねば暴力など、ただかっこ悪いだけだ。
ウィル・スミスと、彼に共感している男達は、ストリートで拳銃を持ったギャングに同じことをされても、今回と同じようにビンタが出来る男なのだろうか?
あの司会者が拳銃を向けてきたとしても、そのまま突き進みビンタをかませる男なのだろうか?そして拳銃を奪って、司会者の頭をぶち抜けるのだろうか?
もしそうなら、死ぬほどかっこいい男である。
そうでないなら、私が最も軽蔑する類の男だ。