「バイオとローダ」その5
「罪が赦されることは、本当にあるのかな」
『珍しいな。お前からおれに話しかけるなんて。』
普通列車しか止まらないホームで。
やけに今日は、音が大きい。傍にあるダクトも、遠くを走る車も、人の声も。
『どんな罪だ?』
「大切な人を、傷つけた。そして、関係性は、修復不可能になった。」
『・・・自分で決めた罪は、厄介だな。』
「自分で決めた?」
『ああ。関係性ってのは、本来はお互い様なものだろ?だけど、お前だけが罪深いと思うなら、それはお前が悪いと決めた罪だ。自分で自分に課した罪と罰ほどに、厄介な呪いは無いぜ。』
トンネルを吹き抜ける、列車が押し出す風が、僕らを揉んでいく。
「僕がもっと、自分を抑えるべきだった。相手を思いやるとは、そういうことのはずだ。」
『つまり、おれの存在を隠し続けるってことだろ?そんなことが、本当にお前にできるのか?』
「・・・分からない。努力はしたよ。君の声も聞きながら、あの子の声も叶えようとしたさ。」
『悪いがおれは、ただ居るだけさ。本来は、善悪無記なものさ。呪いと思うなら、それはお前と、その娘の関係の中での話だ。』
やけに開き直りやがって。
腹を立てる元気も無くなった。
『罪を赦すのは、お前の役目だ。誰かに赦されようなんて、思わないことだ。』
「・・・分かってるよ。」
僕は駅に降り、家に帰った。