カーブミラー物語
おい、もっとおれをよく見ろ。
角を曲がったところにいる、おばあちゃんが見えねえのか。死角について、あれだけ教習所で習ったハズだろ?
おれはカーブミラー。この角の安全を守る。
おい、もっとおれをよく見ろ。
夜は、上から電燈君が照らしてくれるが。
見通しが悪くなるのは、当然の話。
男なら。いや、女でも。曲がり角を曲がるときには、気をつけるものだぜ。
おれはカーブミラー。この角の安全を守る。
おい、もっとおれをよく見ろ。
向かいの角に住んでるのは、ひとり暮らしのミヨって男。 週末は友だち連れ込んで飲んでうるせえが。よくおれのツラを見て、呟く。
「おれも、人の役に立てる仕事がしてえ」 拳に握りしめたのは、夢ってやつ。
あいつもまた、曲がり角って訳だ。
おれはカーブミラー。この角の安全を守る。
曲がった先に何があるのかは、おれは知らない。
お前の目で、見るしかないのさ。