バイオとローダ その1
小さい頃、人形に話しかけたことはあるかい?
10代なら、いや、大人でも、ゲームや、小説の主人公になりきったり、自分を重ねたりしていたかな。
僕にとっては、『彼』が対話の相手。
夜。図書館への道を歩いていた。
延滞してしまった本を、職員さんに面と向かって返すのは気恥ずかしいので、閉館するのを待ってから出かけた。
地下鉄を降りたところで、彼は話し掛けてきた。
「さっきのゲーム、面白かったね。レインちゃんと、おれたち、似ているね。」
「確かにね。頭良すぎて破滅って点では、クソじじいの生涯とも重なったりして考えちゃうけど、でも、レインちゃんは良い子だから、幸せになって欲しかった。」
『serial experiments lain』の実況動画をさっきまで見ていた。
溜息交じりに、僕は虚空に応える。
「それって、おれたちが頭良いって、間接的に自画自賛してるじゃん。」
「やだよねえ。でも、医者からも、生まれつき頭おかしいですよって、そう言われてる訳だから、誰かに自慢とかしないようにして、僕らの中だけで喋っている分には、問題ないでしょ。」
9月下旬。ようやく夜は涼しくなってきたが、歩いていると軽く汗をかくくらいには、まだしつこく夏が残っている。
「幸せな人間がだんだんと狂っていって、追い詰められていくのが一番おれは好きだなあ」
「僕は、イカれた人間が、世の中から排斥されるっていうセオリーをただ敷衍しただけのように見えて、空想世界なのに結局現実社会かよって、ちょっと思ったね。」
「お前、まともな側のくせに、言うじゃん」
「違うよ。僕はさっきも言ったように、レインちゃんも、その周りの人たちも、幸せになって欲しいと思っただけだ。スティーブンキングの小説のラストみたいに。」
どうして、僕らは『普通』じゃないのか。その問いにぶつかるのは、意外と早い。世の中には、学校があるからね。
だけどその時に、しっかり心を支えてくれる人がいなければ、最悪の場合、自分で自分を壊すことになる。
そんな人生を、苦しみをいくつも見たし、僕自身もそうだった。
それでも、ちゃんとハッピーエンドであってほしい。できれば、全ての物語がそうあったらいいのに。