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【読書感想】『そぞろ各地探訪 panpanya旅行記集成』(著・panpanya)
panpanya先生の『そぞろ各地探訪』を読了。
『1月と7月』という雑誌で連載されていた内容と、著者が過去に個人制作していた旅に関する本を合本したもので、『ユリイカ 2024年1月号 特集*panpanya』で告知を見掛けた時から心待ちにしていた。
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私がpanpanya先生の作品に入門したのは比較的最近の話であり、商業誌(楽園コミックス)で展開されている作品以外は入手できていなかった。そのため、楽園以外の作品、商業単行本に掲載されておらず、現在では入手困難になっている過去作がまとめられている本書はとてもありがたい。
元となる個人制作本がそれぞれ特殊な装丁だったこともあり、本書もかなり個性的な作りになっている。いろいろな冊子を雑多に一冊にまとめたような個性的な装丁がとても素敵で、この装丁そのものが作品になっているようだ。物理的な「本」というものの悦びを感じ取ることが出来る。紙の本ならではの満足感だ。
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内容はマンガがあったり、文章があったり、写真があったり、良い感じに雑多で混沌としている。各地の味のある看板や、カニスプーンやツナマヨおにぎりのシールやらを細かく記録しているところなどは、とても考現学的だ。
旅行記ではあるが、その中にもうっすらと虚構が仕込まれていたりする。panpanyaワールドの経験者であればお馴染みであろうが、ここでも全体的に日常と非日常、虚構と現実の境界が曖昧になっているような感覚があり、独特の味わいを醸し出している。
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北海道民としては、やはり『再編・北海道旅行日記』が印象に残る。北海道で日常を営む者からはなかなか出てこない視点で、そこにある「見慣れないもの」「少し違うもの」を記録している。それがとても面白い。
個人的には、函館ラッキーピエロに対する「高水準なうまさと、妙に庶民的、町の洋食屋さん的な味付けが共存している」「異様に笑顔で歩み寄ってくる味わい」という感想の的確さに思わず唸った。
本書のカニカマの話などもそうだが、panpanya先生は食に対する表現も実に味わい深い。
日常の片隅にあるちょっとした気付きや違和感を丁寧に拾い上げて記録し、そこから「日常にはこんなにも愉快なものが溢れている」と教えてくれるような、読んだら前向きな気持ちにしてくれるような素晴らしい旅行記でした。