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ワインだと思います。(前編)

台風の最中、歯医者に行って来た。
4月に引っ越して来てから、初めて。前回行ったのは、恐らく3月。

歯医者って、ちゃんと選ばないとヤブ医者も多いイメージだから、評判とかしっかり調べてから行きたかったけれど、「この日空いてるから、歯医者に行こう。」と思い立ってしまうと、もうどこでもいいから予約を入れたくなって、家から徒歩5分の歯医者にネットで予約を入れた。

住んでいる駅近のマンションから、駅の方角ではなく住宅街の方へ歩く。
古めの2階建ての建物で、いかにもご近所様へ限定という感じ。

外階段を登って2階の入り口から入ると、来ているのは私だけ。
大雨の中歩いて来た私を見て、「大丈夫ですか?このタオル使って下さい。使い終わったら、適当に置いてていいんで。」と、受付の50代くらいの女性が、入口まで出て来てくれる。嬉しい気遣い。出だし好調。

折角なので足を丹念に拭いて、フロアに上がると、六畳程度の狭い待合室。
受付で、さっきタオルをくれた方から、問診表を受け取って、ソファに座って記入する。

名前、ふりがな、生年月日…。

明治、大正、昭和…。

!?!?!?!?

め、明治、大正、昭和…??

へ、平成は…?

時間が止まったままの問診表に、「この病院、大丈夫なんだろうか…」とちょっと不安になりながら、隙間に「平成」と書き込む。

住所、電話番号、職業、職場の電話番号、紹介者の名前…。

し、職業?紹介者?

結婚相談所のプロフィールかよ…。
年収書くとこなくてよかった。

その後、歯の状態に関する質問も微妙に突っ込みどころ満載で、「この問診票、意味あんのか?」と思いながら、記入し終えて受付に戻し、しばらくソファで待機。

そう言えば、さっきから、診察室から物音が、全くしないけど、もしかして、受付の女性が先生だろうか?
こじんまりした病院だし、おまけに今日は台風だから、ワンオペで回してるんだろうか?
って言うか、この部屋結構年季入ってるし、やっぱり病院選び失敗したかな…。

「〇〇さん、どうぞ。」

呼ばれて中に入ると、診察台がは2つ。
何の目隠しもなく2台の椅子が並んでる。美容室方式か。

そのうちの1つに座り、受付の女性も一緒に中までついて来た。てことは、やっぱりこの方がお医者さんか〜。腕がどうかは分からないけど、歯の検診とクリーニングだけだし、それに優しそうで、いいかもしれない。

「歯のクリーニングは、上の歯と下の歯、2回に分けて行うので、あともう1回、来る必要がありますが、いいですか?」

やっぱり歯医者は金儲けの為に2回来させるのか…。まぁでも、断りにくいし、仕方がない。もしかしたら、虫歯とかあって、次も来ないといけないかもしれんし。

「はい、大丈夫です。」

「それと、うちは土曜と月曜しかやってないんですが、隔週でおじいちゃん先生と、息子の若い先生でやってます。今週はおじいちゃん先生なんですが、結構おじいちゃんなので、多分若い先生の方がいいと思うので…。今日は軽く見てもらって、来週、息子先生にしっかり見てもらいましょう。クリーニングは、私が担当します。」

そっか、この女性、お医者さんじゃなくて衛生士さんだったのか…。

じゃなくて!!

おじいちゃん先生とは…?

「電話予約だったらね、息子先生がいる日に合わせて予約してもらったらいいんですが、ネットじゃ分からないのでねぇ。次回はお電話で、『若い先生でお願いします。』って言ってくれたらいいので。」

いや、「若い先生で。」なんて言いづらいだろ。それにおじいちゃん先生の息子と言うことは、若いって言っても、50代くらいなんじゃ…?

「じゃあ、先生を呼んできますので。」

そう言って、衛生士さんは受付の方に消えた。

「先生〜、院長先生〜。」

「先生〜、院長先生〜。」

衛生士さんの声が大きくなる。
もしかして、耳遠いの?聞こえてないの?

院長先生を呼ぶというより、「おじいちゃん、これから検査ですよ〜」って、看護師さんが患者さんに声かけてるみたいなんですけど。

何度か声かけして、ようやく背後から、おじいちゃん先生が出て来る気配がした。
もう既に、私が座っている椅子は倒されていて、気配しか分からない。
でも、どんな容姿なのか、確認しておきたい!

恐る恐る振り返ると、ガタイはいいものの、腰も曲がって、ゆっくりとした足取りのおじいちゃんが入ってきた。
衛生士の女性に、白衣を着るのを手伝ってもらっている。

本当におじいちゃんだ…。

70代、いや80代だろうか…?

爺「初めてなの?」

衛生士「うちで受けるのは初めてです。」

呆然として、言葉が出ない。

白衣を気終えたお爺ちゃんが私のそばの椅子に腰掛けたので、私も仕方なく前に向き直る。

ライトが当たる。

口を開ける。

お爺ちゃんの指が私の口の中に入る。

待て。

待て、待て、待て。

この先生…アレをしてないんですけど…。

(続く)

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