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からあげたろう「コーヒーカンタータ」全3巻

執筆のためだけに調べたとは思えない珈琲愛が、ゆるふわ日常漫画からあふれています。これを描いた人はきっとコーヒーが好きです。知らんけど。

今回は漫画です。なんらかの天変地異を経て日本がコーヒー生産国となった世界で、日本最高峰スペシャルティーコーヒー「カンタータ」の人気に沸く珈乃香温泉が舞台です。そこに設立されたコーヒー専門の教育施設「私立カルディ学園」に入学した3人の女の子、甘露寺琥珀、椿もか、苅田ミルがコーヒーを学び友情をはぐくむ学園ものです。コーヒー道一筋の箱入りお嬢さま・一度憶えた味は忘れない天然の天才・恋愛体質の優しいギャル、しっかりキャラが立っててみんな可愛い。

読んでいてコーヒーオタクとして嫌なところがひとつもない、むしろピンとくるポイントがどんどん出てきます。

まずタイトルの「コーヒーカンタータ(おしゃべりはやめて、お静かに)」はバッハが作曲した小歌喜劇です。コーヒーに夢中の娘とやめさせたい父との攻防戦が展開されます。

もかのお爺ちゃんは「純喫茶もか」のマスターです。カンタータブームには目もくれず、街はずれの店で昔ながらのネルドリップを続けています。これはもう自家焙煎珈琲店の草分けであり、ネルドリップにこだわった「吉祥寺もか」標交紀さんのオマージュでしょう。標さんは「コーヒーの鬼」と呼ばれたそうですが、もかのお爺ちゃんは暖かくて可愛い人です。

コミックスは3巻で終わっています。卒業には至らなかったので打ち切りかな。もう少し話が続いていたら、ミルをもっと掘り下げてほしかった。

ここからオタクの妄言が始まるので温かく見守っていただきたいのですが、個人的には、苅田ミル=メリタ夫人だと思っています。

メリタ夫人はペーパードリップの技法を発明した人です。「家族にもっとおいしいコーヒーを淹れてあげたい」と工夫を凝らし、息子のノートの切れ端をろ紙として、液に粉が混ざらないドリップ方法を発明しました。

ミルが初めて作ったコーヒーは、大好きな先生のためのコーヒーグラニータ(イタリア風の氷菓子)です。甘いものが好きでエスプレッソに砂糖をたっぷり入れるビアレッティ先生は、甘いコーヒーが好きで学園で引け目を感じていたミルを肯定してくれました。先生を喜ばせようと、ミルは一日がかりでグラニータを作り、グラスを持って先生のもとへ走っていきます。

苅田ミルの名前の由来は、メーカーのカリタではないと思います。よく知られた俗説に「カリタの社名はメリタから(メリタ→刈タ→刈田→カリタ)」というものがあります。社名の由来は別にあるようですが、楽しい言葉遊びです。この並びなら、刈田の次が苅田でもおかしくありません。大元にいるのはメリタ夫人です。

彼女に託されたのは、技法にこだわりなく大切な人のためにコーヒーを作る愛情深い女性像です。しかし真面目で優しい女の子にすると、お嬢さまの琥珀とキャラがかぶります。そこでキャラクターの類型として陰キャに優しいギャルをあてはめて、画面に明るさを出してセクシー担当を割り当てた結果、恋愛体質のミニスカ巨乳になってしまったのではないかと。

ミルの行動だけを見ると結構子供です。甘いコーヒーが好きで悩んじゃう15歳なんて可愛いしかないです。彼女が大人になっていく姿をもう少し見たかったな。


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