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『角砂糖』

角砂糖ひとつ。
彼女がコーヒーにポトンと落とす。
それを飲んで「美味しい。」と言葉をこぼす。
僕は何も入れずに飲んでみる。
「にがい。」という言葉を飲み込んで「うまい。」と言ってみる。
彼女は何も言わず穏やかに微笑み、僕は真っ黒い液体に顰めた顔をうつす。
彼女はきっと僕が苦みに負けてへんてこな顔をしたと思っているのだろう。
そうではない。
いつも子ども扱いされてしまうことが不服なのだ。
ずっと目の合う僕の情けない顔にそろそろ嫌気がさし、彼女の方へと目をやる。
彼女はまた穏やかに微笑んでいた。
「君のままでいいんだよ。」
今日も僕らは角砂糖ひとつ分の関係。

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