さて、何を食べようか。 母親に預けられた500円玉を握ってコンビニに向かう。 好物を幾つか頭に浮かべながら歩いていると足に何かがぶつかった。 1匹の黒猫だった。 僕の足にすりすりと頭をこすっている。 僕は猫をそっと撫でた。 その猫は目の上の毛を無くしていた。 「お前も1人なのか。」 僕はずっと握っていた拳を開いた。 この一枚の硬貨で3食分を済ませなければならない。 僕は猫缶とおにぎりと水を買った。 近くの公園で黒猫と一緒にご飯を食べた。 恐らくこれが今日最初で最後の食事だろう
電車に乗り込む。 前後の電車はすぐに満員になってしまうのにこの時間の電車だけは何故か席に座れてしまう。 心をにこにこさせていつもの席に座る。 4人席の窓側。 数駅進むと通勤ラッシュでこの電車にも瞬く間に人の海が出来上がってしまう。 何駅過ぎただろうか。 いつの間にか僕は眠ってしまっていた。 この海の圧に押されてしまったのか夢でも電車に乗っていた。 気分転換にと窓の外を見てみる。 そこにもまた、海が広がっていた。 広大なその海には陽が昇り、波はオレンジ色にキラキラと輝いていた。
角砂糖ひとつ。 彼女がコーヒーにポトンと落とす。 それを飲んで「美味しい。」と言葉をこぼす。 僕は何も入れずに飲んでみる。 「にがい。」という言葉を飲み込んで「うまい。」と言ってみる。 彼女は何も言わず穏やかに微笑み、僕は真っ黒い液体に顰めた顔をうつす。 彼女はきっと僕が苦みに負けてへんてこな顔をしたと思っているのだろう。 そうではない。 いつも子ども扱いされてしまうことが不服なのだ。 ずっと目の合う僕の情けない顔にそろそろ嫌気がさし、彼女の方へと目をやる。 彼女はまた穏やか
いつも1人ぼっちの女の子。 「私強いんだ」 そう言うけど僕は知っている。 彼女が本当は弱くて、寂しがりやなこと。 実は愛に溢れていること。 冬だっていうのにいつも教室の窓を少し開けて外を眺めてる。 本当は寒いのが苦手なくせに。 みんな彼女のことを孤独だねって笑うけど、実はそれは羨んでいるだけ。 色白の君が窓から流れてくる冷たい空気に触れて鼻を赤らめる。 窓の外ではしゃぐ子たちをみて微笑む。 そんな彼女の姿があまりにも美しくてみんな思わず見惚れてしまっているだけなんだ。 本当は
彼の目はなにを映していたのだろう。 彼に何を見せていたのだろう。 僕の記憶では彼はいつも笑っていた。 夏の匂いを連れて笑う君の顔が眩しくて 次第にその光も匂いも薄らんでいたことに僕は気づけなかった。 いつのまにか僕は君に君を押し付けてしまっていたのかもしれないね。 吐き出せない煤がいつしか君の瞳を侵食してた。 その煤は誰にも払われず墨になって、君の世界を黒く黒く染めていった。