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#9【品格の磨き方】〜欲望の扱い方
【このマガジンの目的】
何かを成すためには、周りから後押しされるような人でなければなりません。このマガジンでは自分自身の品格を磨くためのヒントが詰まっています。実践することで、着実にあなたの成長が感じられることでしょう。
〜欲望を「適切に扱う」アプローチ
多くの人が誤解しがちなのは、「欲望を捨て去る=何も望まない、枯れた生活を送る」というイメージでしょう。ところが、偉人たちは、欲望を完全に否定するのではなく、「欲望を必要以上に引きずらないよう、ある程度の距離を持って接するのだ」と言います。
• 中庸(ちゅうよう)の精神
極端に「欲望を否定しすぎる」ことも、逆に「欲望に飲み込まれてしまう」ことも、どちらもよい結果をもたらしません。大切なのは「ちょうどよいバランスを保つ」ということです。生きる上で最低限必要な欲求は満たしつつ、過剰な執着や浪費は避ける。その微妙なバランス点を見極めようとする姿勢が、中庸の精神と言えます。
• 「これがなくても自分は幸せだろうか?」と問いかける
欲望が湧いたとき、「これは本当に私が必要としているものなのか? もしこれを手に入れられなくても、自分の人生に大きな支障はないのではないか?」と自問してみる方法があります。たとえば、「もっと高級なブランド品が欲しい」「より大きな家が欲しい」と思っても、果たして今の暮らしより幸福度が劇的に上がるのかどうか、立ち止まって考えてみるのです。
こうした問いは、私たちの欲望を客観視するきっかけを与えてくれます。結果として、「そこまで必要ではなかったかもしれない」という気づきが得られることも多いでしょう。
• 不要な消費や浪費へのブレーキ
私たちは、気づかぬうちに日常の細々とした欲望で財布のひもを緩めていることがあります。買ったはいいものの、使わないまま捨ててしまうモノはないでしょうか? 食事や趣味を楽しむこと自体は良いのですが、「いつの間にか心の隙間を満たすための無駄遣いが増えていた」という経験は多くの人にあるはずです。
「これがなくても私は不幸にならない」と少しでも思えたなら、それを買わずに済むかもしれない。小さな積み重ねであっても、その意識が変わるだけで大きな結果につながります。
欲望を適切に扱うためには、「自分にとって本当に必要なものは何か?」「執着や衝動を最小限にするにはどうすればいいか?」といった問いかけを習慣化することが大切です。花を見て「美しい」と思う心は自然です。その美しさを楽しむのは良いことですが、「何がなんでも私の手元に置きたい」という執着心に支配されると、かえって苦しみが増す。華の品が示すメッセージは、まさに「美しさは留めておきたいと固執した瞬間に消えていくものもある」という点にあるのです。
〜言葉と行動の一致
〜華(言葉)が散るように、行動も共にあらねば意味がない
華の品のもう一つの大きな柱は、「言葉と行動が一致しなければ、信頼も幸福も得られない」という教えです。美しい花を眺めているだけでは、いつか散ってしまったときにその美しさも一緒に消えてしまいます。同じように、どれだけ美しい言葉を並べ立てても、行動が伴わない限りは、その言葉はすぐに散ってしまう儚いものだというわけです。
〜行動が伴わない例
• 社会的な例
近年、環境保護や社会問題への取り組みをアピールする企業が増えています。しかし、表向きは「地球に優しい」「持続可能な取り組み」とPRしながら、実態は過剰な森林伐採や公害を垂れ流しているケースもあります。これでは、一時的には注目を集めても、いずれ内部告発や調査報道で真実が明るみに出たときに信頼を大きく失ってしまいます。
• 個人的な例
「健康が大事」「心身を整えたい」と周囲に言いふらしているのに、暴飲暴食や夜更かしの習慣がまったく変わらないとしたらどうでしょう。家族や友人からは「口だけ」「言ってることとやってることが違う」と思われ、次第に応援してもらえなくなるかもしれません。
あるいは、「家族を大切にする」と公言していながら、実際は仕事にかまけてほとんど家族との時間を取らない人がいれば、家族は「本当に大切にされているのか?」と疑問を抱きます。言葉が美しければ美しいほど、行動が伴わない場合の落差は大きく、周囲の失望も深くなるのです。
〜行動指針としての言行一致
古い時代から伝わる教えの中には、「正しい見方を持つこと」「正しい考えを持つこと」「正しい言葉を選ぶこと」「正しい行動をとること」というステップが大切だと説かれています。ここで言う「正しい」とは、自分の都合だけではなく、他者も含めた広い視野で物事を捉え、誰かを傷つけることなく、互いに幸福を育めるような姿勢を指します。
1. 正しい見方(正見)
まずは情報を正確に集めたり、偏見にとらわれず物事を多角的に見る目を養うことから始まります。自分にとって都合のいい事実だけを集めるのではなく、なるべく客観的に「今の状況」を見極める姿勢が重要です。
2. 正しい考え(正思)
正しい見方を前提に、何が善で何が悪かを考え、自他ともに幸せとなる方向を模索する段階です。「どうすれば自分も満足し、周りも笑顔になれるのか?」という問いを大事にします。
3. 正しい言葉(正語)
考えた結果を外に発信するとき、言葉は「相手が理解できる」「相手を傷つけない」配慮を持って選ぶ必要があります。どれほど良い意図を持っていても、伝え方一つで相手に誤解や不快感を与えることもあります。正しい言葉は、思いやりと誠実さが伴った言葉です。
4. 正しい行動(正業)
最後に、言葉にしたことを実際に行動に移すのが鍵です。行動こそが、私たちの内面にある考えや姿勢を現実化する手段です。行動が伴わなければ、「あの人は口先だけだ」と見なされるでしょう。反対に、行動が言葉と一致していれば、周囲は自然と信頼と尊敬の眼差しを向けてくれるのです。
〜実践のポイント
• 自分が発する言葉を記録する
日記やメモ、あるいはスマートフォンのボイスレコーダーを使って、自分がどんな言葉を普段使っているのかを確認してみるのも面白い試みです。人は意外に、他者を批判する言葉や悲観的な言葉を発していることがあります。それを知るだけで、言葉遣いや日常の姿勢を見直すきっかけになります。
• 言葉を実行するための具体策を立てる
たとえば、「健康第一」「早寝早起きをする」「家族を大切にする」「仕事の効率を上げる」など、どんな小さなことであれ自分で宣言したら、それを行動に落とし込む計画を立てましょう。週に何回運動するのか、毎日何時に寝るのか、家族と過ごす時間をどれくらい設けるか、仕事ではどんな工夫をしてみるか——こうした具体化が欠かせません。
• 定期的に振り返り、修正する
人生は長いようでいて、あっという間に時が流れます。忙しい日々を送っていると、自分の言葉と行動が乖離していても気づきにくいものです。月に一度、あるいは週に一度でもかまいませんから、「自分は最近何を言い、どう行動してきたか?」を見直す時間をつくりましょう。もし言葉が空回りしていれば、改善の余地が見えてきます。
言葉と行動の不一致は、花が散るように儚いものです。しかし、言葉と行動が一致していれば、それは一本のしっかりと根を張った樹木のように、長く周囲の人々を魅了し、支えとなる存在にもなり得るのです。
〜華の品のまとめ
華の品(花の章)は、花という象徴を通じて、「無常」「欲望との向き合い方」「言葉と行動の一致」を学ぶ教えが詰まっています。花は美しいが、やがて散ってしまう。その儚さから私たちは、「この世に永遠不変なものは存在しない」という事実を感じ取ります。だからこそ、人生をどのように味わい、どのように行動するかが大切です。
〜無常の捉え方
すべてが移り変わっていくことを受け入れれば、必要以上に苦しみや恐れに縛られることが減ります。いま辛くても、やがて状況は変わっていく。いま幸せでも、いつまでも続く保証はない。だからこそ、目の前の一瞬を尊重し、大切に扱う心が養われるのです。
〜欲望との付き合い方
欲望は人を成長させる原動力にもなりますが、行きすぎると苦しみを生む元凶にもなります。美しい花を強引に摘んで持ち帰ろうとすれば枯れてしまうように、欲望を無理に満たそうとするほど、失望や痛みが大きくなることもあります。必要なものを見極め、過剰に求めすぎない姿勢こそが、心の安定や他者との調和をもたらす鍵になるのです。
〜言葉と行動の一致
口先だけの美しい言葉は、花が散るようにあっという間に消え去ってしまいます。大事なのは、そこに行動が伴うこと。自分が語った理想や方針を実際に実行へ移すことで、周りから信頼を得られ、自分自身にも達成感や納得感が生まれます。言動が一致していれば、華やかなだけでなく、しっかりと根を持った存在として周囲を支えることができるのです。
花のように美しい心を保ち、散り際の潔さを持ち、そして必要以上に何かを抱え込まない軽やかさを身につける——それが華品を読み解く上での大きなテーマと言えるでしょう。もちろん、人間が花のように生きることは簡単ではありません。私たちには感情があり、社会生活があり、さまざまな責任や人間関係が絡み合っています。しかし、だからこそ「あるがままの美しさを認める」「必要以上の欲を手放す」「言葉にしたことを行動で示す」努力を続けることに価値があります。
人生は短く、花のように限りあるものです。しかしその限られた時間だからこそ、心を整え、正しい言葉と行動を心がけることによって、多くの人に支えられ、また多くの人を支えることができます。華品が私たちに語りかけるのは、「美しいだけでなく、花のように散るものなのだと理解するからこそ、いまを丁寧に生きなさい」というメッセージではないでしょうか。
どうか、華の品(花の章)に示されたこれらの智慧を、日常の一瞬一瞬に生かしてみてください。花を見て「綺麗だな」と感じるその心を大切にしながら、「だが散ってしまうんだよな」という無常の視点を忘れないように。そして、自分がどのような欲望を抱き、どのような言葉を使い、どのように行動するのかを見つめ直してみましょう。それが「無駄な欲望を捨て、心を清らかにし、言葉と行動を一致させる」最初の一歩となるはずです。