見出し画像

海に住む少女

はじめに

「海に住む少女」は、フランスの作家、詩人であるジュール・シュペルヴィエルの短編集です。このシュペルヴィエルという作家は、どちらかと言えばマイナーな作家ですので、本の内容の前にまずはシュペルヴィエルについて少しお話ししたいと思います。

シュペルヴィエルについて

画像1

ジュール・シュペルヴィエルは、1884年1月14日に南米、ウルグアイのモンテヴィデオに生まれました。両親は共にフランスからの移民でした、2歳までは両親と共にウルグアイに住んでいたのですが、その両親が水道に鉱毒が混ざっていたために死んでしまい、フランスで伯父夫婦に育てられました。彼の作品にはそのためフランスとウルグアイ、そしてその間にある大西洋が大きな位置を占めます。シュペルヴィエルがどのような経歴を経て来たのかということを詳しく知りたい方は、フランス現代詩研究会のこの記事が非常に詳しく書かれているのでぜひお読みください。https://poetique.github.io/2016-05-23-supervielle/

短編集・海に住む少女について

では本題に、入っていきたいと思います。この海に住む少女という短編集は、手に取っていただければわかるのですが非常に薄いです。それもそのはず全てのお話、訳者のあとがきを入れても200ページもありません。また、訳も「ですます調」で読みやすく、非常にとっつきやすいものです。私がこの本を読むきっかけになったのもその薄さと幻想的な題名でした。収録されている短編は、海に住む少女/飼葉桶を囲む牛とロバ/セーヌ河の名なし女/空のふたり/ラニ/バイオリンの声の少女/競馬の続き/足跡と沼/ノアの箱舟/牛乳のお椀の10編です。どの作品も素晴らしいのですが、表題作であり最も彼の特徴を表している海に住む少女と、私がこの短編集の中で最も好きな牛乳のお椀を今回は取り上げたいと思います。

表題作・海に住む少女


「この海に浮かぶ道路は、一体どうやって造ったのでしょう。どんな建築家の助けを得て、どんな水夫が、水深六千メートルもある沖合い、大西洋のまっただなかに、道路を建設したのでしょう・・・」 ー海に住む少女ー

この物語は非常に幻想的とも言える、大西洋のまっただなかにある海に浮かぶ街とその街に住むある少女の日常が淡々と説明されるところから始まります。この海に浮かぶ街に住んでいるのはこの少女1人です。もしかしたら誰かが船で彼女に物資を持って来てくれて、それによって彼女は生活していると思う人がいるかもしれませんが、この海に浮かぶ街は船が近づいてきた時には少女を眠らせ、それと同時に海の中に沈んでしまうのです。だから彼女は、完全にひとりぼっちなのです。しかし、彼女の生活に孤独のようなものを感じることができません。彼女は、淡々と日常の生活をこなしていきます。しかしある時自体は動きます。     以下ネタバレあり注意

ある時、船が街に来ても彼女は眠くならず街も沈みませんでした。彼女は街に入ってきたその船に駆け寄りそして叫びました、「助けて!」としかし船員たちはそれに気づかずに船を進めて街を去って行きました。彼女は、自分が発した助けてという言葉に愕きましたそれはまさしく彼女が今まで気づいてこなかった孤独と苦しみが表出したものであったのです。そして、それを見ていた波が彼女のことを殺して楽にしてあげようとするのですがどれだけ波に飲み込まれても彼女の息は続いていました。そして、この後さらに前半の伏線が回収され非常に幻想的でしかし残酷なこの物語が完結します。

ここからはネタバレじゃありません      この物語の主題は孤独だと言えます。海の上に1人で住む少女を通して、孤独を非常に美しく繊細なタッチで描かき、その苦しみと残酷さを私たちに突きつけてきます。シュペルヴィエルの作品には残酷さと幻想という二つが共に混ざり合って存在しているという特徴があります。そのなんとも言えない世界は、私たち読者に言葉ではうまく表せない不思議な体験をさせてくれます。

牛乳のお椀

「牛乳のお椀」は病気の母親のためにミルクを運ぶある少年のお話です。この作品は非常に短い作品で、わずか3ページしかありません。しかし、これほど短いのにもかかわらず読むものにずっしりとした問いを投げかけ心に残します。私はこの作品は短編小説のお手本のような作品であると思います。短編では長編のような複雑な人間関係や舞台設定などを入れることはできません、だから純粋にそのお話の核となる部分が大変重要であり、それを読者に深く刻み込むというのは難しいのです。しかし、この短編はそれが3ページという非常に短い中でしっかりとできているのです。

ぜひ、3ページという非常に短いものなので本屋での立ち読みでも終わります、少なくともこれは本当に素晴らしいお話なのでぜひ読んでみてください。

おわりに

いかがだったでしょうか、はじめての本の紹介であったので拙くなってしまいました、申し訳ありません。しかし、この「海に住む少女」という短編集は大変素晴らしいものなのでぜひ読んでみてください。では、お読みいただきありがとうございました。

いいなと思ったら応援しよう!