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闇の奥に希望の光は見えるのか?|『皆殺し映画通信 あばれ火祭り』レビュー
映画とは「何であるか」
“それを語るには、その作品が「どのように受容されうるのか」というプロセスについて語らねばならない。”
とは、映画批評家の故加藤幹郎氏の言葉である(『映画館と観客の文化史』中公新書)。
先日、9冊目となる『皆殺し映画通信 あばれ火祭り』(カンゼン)が発売になった。著者である柳下毅一郎氏の前書きは、ズバリ「誰が映画をみているのか?」である。
『皆殺し映画通信』で取り上げられている柳下氏の作品評を読むたびに「誰が見るんだこのクソ映画」と吐き捨てるように頭をよぎるこの思いは、決して間違いではなかったといまさらながら本書のページをめくって思った次第である。
皆殺し映画ファン恒例の闇落ち行事
ということで今年も邦画の地獄めぐり、闇の奥ライドの季節がやってきた。今回もハズレなし(もちろん悪い意味で)の「誰が見るんだこのクソ映画」たちが紹介されている。※幸運にも僕は二本(『ブレイブ −群青戦記』と『いのちの停車場』)しか観てなかった。
毎年、桜の季節には日本映画の深淵を覗きみなければならない映画ファンの闇落ち行事となった本書の元サイト『皆殺し映画通信』については、昨年のnoteの記事を参照していただければと思う。
(ちなみに本記事は2021年のPV数でダントツの1位である。なぜなんだ)
2021年の日本映画界の興行収入は、2020年の昨年対比で13%増、日本映画では17%増と増えてはいるものの、2020年は『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』の超大ヒットによって首を繋ぎ、2021年もまた『シン・エヴァンゲリオン劇場版』『名探偵コナン 緋色の弾丸』などアニメ作品によって首の皮一枚繋がっているのが現状であった。
しかしその『シン・エヴァンゲリオン劇場版』、『名探偵コナン 緋色の弾丸』ともに、本来は2020年公開を予定していた作品なのだ。東京オリンピックも2020年の冠のまま2021年に開催したことを考えれば、2021年は2020年の延長戦、ロスタイムの1年であった。本書に登場する映画は、まさに柳下氏がいうところの“出し遅れの証文(事の処置が間に合わないで、時機をのがしたために効力を失うことのたとえ)映画”が目白押しの、映画史の中でも特異な一年となったのである。
2021年の仮面をかぶった2020年映画たち
さて、そんな2021年の仮面をかぶった2020年映画とはどんなだったのか?
本書で取り上げられた作品をざっと紹介しよう。
愛媛県の砥部焼と五輪を結びつけているのにオリンピック非公認の地方映画『未来へのかたち』や、長野五輪のテストジャンパーが日本のジャンプ陣のためだけに(ダメだろ)に頑張る『ヒノマルソウル』など、お約束のオリンピック便乗映画が登場。
またオリンピックで海外からの観光客を当て込んだのか、ただ日本アピールというモヤっとした企画のまま作られたのか、まさに観客不在を絵にかいたクールジャパン案件の『HOKUSAI』など、出し遅れの証文映画の象徴である作品が並ぶ。
そして著者が正月映画として楽しみにしているものの、年イチのルーティンワークとなってしまいテンションが上がらないカエルカフェ映画『応天門の変』や「映画の続きはネットで!」という驚愕のオチの『名も無き世界のエンドロール』。撮影後7年間お蔵入りとなっていた酒井法子主演『空蝉の森』、ツッコミどころを探してもしょうがないと白旗を上げる『えんとつ町のプペル』などなど、安定のクオリティ(もちろん悪い意味で)の作品が続々登場してゾクゾクしながらページをめくることになる。
なかでもロシアと秋田県の合作映画の『ハチとパルマの物語』は、ほとんど9割9部がロシア映画で、忠犬ハチ公や日本さえも全く関係ないのに文化庁の支援を受けた闇映画案件。しかしモスクワの国際空港で主人の帰りを二年も待ち続けた犬のパルマの実話ベースの話は柳下氏も評価し、実際のパルマはウクライナの里親に引き取られたという、なんちゅうか、こう、『皆殺し映画』読んでいて今世界で起こってる単語が出てきちゃったので少々驚いてしまったのである。
今年はちょっと違う『皆殺し映画』の風物詩
また『皆殺し映画通信』ファンにとっての風物詩、一周まわってもはや広告となっているような気がしないでもない恒例の幸福の科学映画は、パンデミックの緊急事態宣言に公開して週末興収成績1位を獲得(まさかの二年連続)し、柳下氏をして“強運すぎる邪教の力”と言わしめた『美しき誘惑~現代の「画皮」~』。大川隆法総裁はもしかして信者から「面白いおっさん」として受け入れられているのかも知れないと柳下氏が油断させられている『夢判断、そして恐怖体験へ』。そして日本一幸福の科学映画を観ている映画評論家である柳下氏が唯一楽しみにしている大川総裁作詞作曲の謎の歌「ヤイザエルのテーマ」が注目のMCUリスペクトアニメ『宇宙の法 –エロ―ヒム編–』など、なんと幸福の科学映画は3本もエントリー。そして大川総裁の息子にしてyoutuberの大川宏洋a.k.a.宏洋の映画『グレーゾーン』も登場し、大川親子が映画で対決という夢舞台が本書で実現。注目のその勝敗はぜひ刮目して本書で確かめて欲しい。
不覚にも観たいと思ってしまったのは、“下手に触れると火傷する地域コミュニティのすごみ”と評された鹿児島県の綱引き祭りの映画『大綱引の恋』だ。男たちが人生を捧げる綱引きの祭りと、ただ男たちを応援するだけの女性という、この現代社会において未だに徹底的なマッチョイズム、男尊女卑思想の祭りを描いているという本作は、“異民族の生態を覗いているような感覚”という柳下氏の言葉に好奇心をくすぐられる。
さて、ここまで読んで、お気づきかもしれないが(僕だけか?)、なんと『皆殺し映画』のもうひとつの風物詩である、あの福田雄一監督作品が一作もないのである。昨年は三作も登場したのにだ。2020年のロスタイムに福田雄一映画がないという異常事態。
昨年の『新解釈 三國志』という強烈な“無”を世の中に送り出して以降、幸か不幸か、いや幸なんだけど、『皆殺し映画通信』に福田雄一作品が登場しないなんて、ムロツヨシと佐藤二朗が出演しない福田雄一作品のようではないか。ということで福田雄一の次回作を調べてみたら青柳碧人の小説『赤ずきん、旅の途中で死体と出会う。』の映画化で、なんとNetflixで2023年に配信されるというのだ。楽しみである(楽しみではない)。
闇の奥から差す一筋の希望
しかし、そんな「だれが観るんだ?」という2021年の闇の中で、遂に希望の光が見えてくる(予感がする)。柳下氏が唯一、“傑作にして映画の教科書的作品”と賛辞を惜しまないのが『欲しがり奈々ちゃん~ひとくち、ちょうだい』と『扉を閉めた女教師』のエロVシネ二作だ。現在『女子高生に殺されたい』が公開中の城定秀夫監督作である。
『ナポレオンと私』主演で、勝手に『皆殺し映画通信』のミューズにされている武田梨奈へは、“「自分に自信がもてないアラサーOL」役を演じられる女優なんて掃いて捨てるほどいる。(中略)ハリウッドのアクション映画に出られる女優は日本にほかにいない。さっさと海外に行ってください。”と最大のエールを送る。
それもそのはず、武田梨奈は香港の英字新聞サウスチャイナ・モーニング・ポスト紙で「今、活躍中のアジアのアクション・スター10人」として、あのドニー・イェンやマ・ドンソクと共に女性で唯一選出され、アクションスターとして海外で認められているのだ。でも某サイトの『ナポレオンと私』紹介記事で「アジア代表アクション・スター武田梨奈だから体現できたラブ・ストーリー」と無理矢理な記事が書かれていたりする。
とまあ、今年も様々な映画が登場する『皆殺し映画通信』であるが、後編ではしっかりと2021年の総決算として柳下氏による分析がなされる。出し遅れの証文となった映画たちや、『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の綾波レイや、栗山千明が石川県でレンコン農家を手伝う『種をまく旅人~蓮華のかがやき』、剛力彩芽が長野で農業をする『ペルセポネーの泪』など、第一次産業推し映画にみる日本社会の農本主義の表出など、とてもためになるので必読だ。
そして対談として、高橋ヨシキ氏をゲストに日本映画のポスター論が展開され、“映画のポスターとは機能があるもの”とする高橋氏の見識に深く肯くのであった。
2022年はまた闇に包まれるのか
ということで2021年は“出し遅れの証文”映画を出し切った年であった(たぶん)。
2022年はまさにゼロからのスタートとなり、あたらしい日本映画史はここから始まると柳下氏はいう。果たして今年は日本映画の漆黒の闇の中から一筋の光が見えてくるのだろうか?
とはいえ、今年になって配給会社に圧力をかけていたTOHOシネマズとか、榊英雄や木下ほうか、園子温らの俳優への性加害のニュースが出てきたので、この際、日本映画界はちゃんと膿を出しきって、ゼロから再スタートして海外の下請けから映画製作やコンプライアンスを学び直したほうがいいんじゃないかと思えてくる。
濱口竜介監督の『ドライブ・マイ・カー』が第94回アカデミー賞にノミネート、国際長編映画賞を受賞したことに軽々しく浮かれてはいられないのである。
日本映画の闇はまだまだ深く暗いままなのである。
※本書の制作にほんのすこしお手伝いさせていただいた。貴重な経験をさせていただき、カンゼンさんに感謝いたします。
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今年も「皆殺し映画通信」の季節がやってきた!
相も変わらず「誰がこんな映画作ったんだよ! 」と叫びたくなる謎映画が公開されている。
誰が観ているのかもわからない、そんな映画たちを「皆殺し映画通信」がぶった斬る!
皆殺し映画通信 あばれ火祭り
柳下毅一郎(著/文)
発行:カンゼン
四六判 288ページ 定価 2,200円+税 ISBN978-4-86255-637-0
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